アクマ編

新たな依頼

 アイデクセマン討伐の翌朝。


「ま、ま、座るが良い」


 応接用ソファにどっしりと腰掛けたマティウスが、対角のソファを指す。


「は、はい……」


 促されるまま控えめにソファに腰掛けたのは、グノーム農場の主人ザック・グノームだ。


「久しいな、グノーム」


「えぇ……お久しぶりです。皆さんと最後に会ったのは……私が30代の頃です。今はもう、70を超えました。……お羨ましい事です。あなたはあの頃から全く変わっていない」


 モルゲンレーテのアクマは40年で1つ歳を取る。外見が変わらないのは当然だった。


 奥の部屋からお盆を手にしたランドールが現れ、「どうぞ」と3人分のティーカップを置いた。


「遠慮せず飲むが良い」


「あぁ、ありがとうございます」


 マティウスが先に口を付けた。


 「ロウリーが淹れた茶の方が旨い」というマティウスの呟きを無視して、ランドールはマティウスの隣に腰掛ける。


「……さて、早速仕事の話をしようではないか。その顔色の悪さから見て、無駄話をする時間も余裕も無いのだろう?」


 とマティウスが切り出した途端に、ザックの顔に深憂の色が浮かぶ。


「えぇ……うちの農場に、ソルダードという恐ろしいモンスターが現れまして」


「あぁ、奴らか……」


 ソルダードというモンスターは、世界大戦時に敵兵の戦意喪失と排除を目的に造られた。


 見た目と被害者の数から、奴らは世界大戦の負の遺産として悪名高い。


「敷地が広大なので、もうどこに潜んでいるのか分からないのです。ただ、今朝うちの従業員が、飼っていた牛が皆やられてしまったと報告してくれました」


「もしかすると、まだ牛小屋の近くにいるかも知れないねぇ」


 「そうだな」とマティウスは腕を組む。


「僕が行くよ」


「待て、私も行く」


 ランドールは目を丸くする。


「討伐について来るなんて珍しいじゃない」


「バイトばかりだと体が鈍ってしまうからな。そろそろ魔法をブッ放したい気分なのだ」


 マティウスは肩を回しながら答えた。


 ランドールは「ふぅん」と素っ気ない返事をする。


「そうと決まれば……次は報酬の話だ」


 黒い仮面というモンスター討伐屋は、腕は良いが報酬が他と比べ高い。


 多額の金を支払ってでも、大農園の主ザックは一刻も早く恐ろしいモンスターを討伐して欲しいと思いここを頼ったのだ。


 やけに張り詰めた空気が流れる。


「報酬は……30万フェリスでどうでしょうか。皆さん3人で分けて、1人につき10万フェリス」


 他の討伐屋だと半額以下で受けるか……もしくは、「ソルダード相手はちょっとウチでは引き受けかねる」と断るか。


「ほう?」


 黒い仮面の報酬を上げている原因であるマティウスは、満足げな声を上げた。


「流石、農場主であるな。話が早く済んで嬉しいぞ」


 茶を啜り、マティウスは話を続ける。


「依頼主の中には報酬を値切ろうと考える者もおるのだ。全くけしからん。我々は、実力と労力に見合った報酬を貰うだけなのだが。本来は、もう少し貰っても良いと思っているのだがな……」


「は、はぁ……」


 怒鳴られなくて良かった。と、ザックは持っていたハンカチで冷や汗を拭う。


「さぁ、すぐに向かおう。ほれランドール、すぐに準備するのだ。奴らは一筋縄ではいかないぞ」


 マティウスはやる気満々で立ち上がり、討伐屋から飛び出した。


 大金が絡むとやる気を出すマティウスに少々呆れながら、ランドールも準備を始めた。

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