モンスター討伐屋「黒い仮面」

 ここはモルゲンレーテ。人間とアクマが共存する世界。


 その東側にある都エアレザに古い小屋がある。入り口の側に『モンスター討伐屋 黒い仮面 開店中』という文字と、ランドールの娘によるパパの似顔絵が描かれたボードがある。


 建物の中で、男が人を待っていた。


 無造作な黒髪の、少年のように小柄で華奢な男だ。黒い服で身を包み、素顔すら人の顔を模した黒い仮面で覆っている。


「……むぅ」


 唸り声を上げ、男は時計を見上げた。


 ドアベルの涼しげな音を鳴らし、小屋の中へ入ってきたのはランドールだ。


 軽装に身を包み、銀色に輝く2振りの剣を背負っている。


「遅い!」


 黒づくめの男はランドールに怒鳴った。


「ごめんごめん」


 ランドールは飄々と笑う。


「全く、何度遅刻すれば気が済むのだ」


「君こそ、何度怒れば気が済むのさ」


 何だと! と男は声を更に荒らげる。


「貴様が何度も何度も遅刻するから、私も何度も何度も注意しなくてはならないのだ!」


 と怒りながらも、男は彼の遅刻癖を治すのを殆ど諦めていた。


「貴様の遅刻癖について話してしても埒が明かぬ! ほれ、依頼書である!」


 と、1通の手紙を投げ渡す。


 ランドールは手紙をさっと読んだ。


「アイデクセマン?」


「うむ、トカゲもどきである」


 仮面の男が表現する通り、アイデクセマンは日本語に訳すと『トカゲ男』。2足歩行し、爪や牙で畜産動物を襲うモンスターである。


 ある研究者が言うには、奴らは元々ただのトカゲであったが、世界大戦時に大量に排出された魔道具の廃棄物による影響で巨大化したらしい。


「依頼主曰く、奴らは5~10匹程しかおらぬそうだから、貴様が1人で行って来い」


「その間君は何するのさ」


「工事現場へバイトしに行く」


「またバイト?」


 ランドールは呆れ顔を浮かべた。


「マティウスってば、本当にお金稼ぎが好きだねぇ。そんなに貯金して、何か大きな買い物でもするの?」


「そんな予定は無い。ただ……金は多ければ多いほど良いだろう?」


 とマティウスは仮面の下で微笑んだ。


 嫌な笑い方だ。


「それに、私にとって工事の仕事は実に簡単だぞ。荷物の運搬も建物の解体も、魔法の力でちょちょいのちょいである。それに、よく働いてくれるからと監督から給料を倍にしてもらえたぞ」


「また脅して給料上げて貰っただけじゃないの?」


「何言うか。ただ少し……うむ、ほんの少しだけ、交渉はしたがな」


 「まぁそんな事より」とマティウスは話題を逸らす。


「ほれほれ、早く行ってくるが良い。貴様ならトカゲ如き簡単に屠れるだろう」


「わかったよ、行ってくる」


 追い出されるように黒い仮面から出たランドールは手紙を手に目的地へと歩みを進める。

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