第29話 この腐れニートにお仕事を!

店に入ってはじめに見たものは黒焦げの店主だった。

「ふむ。黒焦げ店主の復活がいつもより遅いな。少しやりすぎただろうか。」

「おい、それって大丈夫なのかよ。というか、ウィズは一体何をしたんだよ。」

「まあ、いつものことだ。金に余裕が出てきた途端、この無能店主が仕入れをしたのだよ。」

肩を落とし、そう言ったバニルは店の奥から3つほどのマジックアイテムを取り出す。

ぱっと見た感じではどれもアクセサリーのようなもので、特段違和感は感じない。

……指輪にブレスレットにイヤリング。おかしなことはないと思うが……まあ、なにせあのウィズが仕入れたものだなにか欠陥があるに違いない。

「さてさて、救世の小僧。これらの商品はお察しの通り欠陥があるが、ひとまず説明を聞くが吉と出た。」

はっきり言って嫌な予感しかしない、いつの間にか店に入っていたアクアたちもあまり乗り気ではないように見えた。

「んまあ、一応聞いとくけどさ。じゃあこのイヤリングは?」

「ふむ。これはペアで買って使うものなのだがな、これをつけた者同士はお互いの心の声が聞けるのだ。」

「む、そこだけ聞いたら役立ちそうなものだな。私も少し欲しいかもしれない。」

「おい、ダクネス。一旦落ち着いて話を聞こう。バニル?一応聞くがデメリットは何だ?」

買ってくれそうな、ダクネスに対してあまり答えたくなかったのか、バニルは渋々口を開く。

「……まあ、強いて言うのならば7割程度の確率で思ってもない事が聞こえるくらいだろうか。」

「思いっきり欠陥商品じゃないかよ!誰が使うんだよ。」

「ふむ、我輩もそう思うのだが、店主が言うには、想い人との関係を深めたり、片思いの人の真意をきくのに最適なんです〜。お互いに以心伝心って感じがしてロマンチックじゃないですか〜。だそうだ。」

なぜか似ているウィズのモノマネをしてバニルが答える。

いや、どっからどう考えても気持ち伝わってないだろ。以心伝心どころか離婚ものだぞ。

一応、他のやつも聞いておくか。

そう思いバニルに尋ねる。

ちなみに結果から言うと全部ゴミだった。ブレスレットは周りの人の美しさを奪って、ますます輝くらしいが、デメリットとして自身の美しさを多めに奪うので醜くなる。指輪は久遠の愛を誓い一生添い遂げることができるらしいが、デメリットとして愛が冷めると爆発するらしい。

いままで、常識人だと信じていたウィズだが、このセンスはとても常識の範疇には収まらないな。

「ふむ、やはりこれらの商品は返品だな。して、小僧よ。そろそろ本題に入ったらどうだ。」

「お前のことなら、もうすでに俺の心くらい読めるだろ。」

バニルは見通す力を持った大悪魔で、魔王より強いらしい。怒らせたら怖そうだ。

「フハハハハハ!それはその通りだ小僧。だが安心すると良い。我輩は人間は傷つけない主義なのだよ。して、お客様。契約書の方はこちらです。」

急に、接客態度を変えたバニル。しかも、規約書まで用意済み。一体どこまで先の未来が見えているのだこのチート悪魔は。

一旦書類に目を通し、内容が大丈夫だと確認してサインをする。

「ご契約、ありがとうございました!フハハハハハ!これは店主が調味料を使った料理が食べれる日も近いかもしれんな!……ん?おい、目を離した隙に商品をだめにしようとするな疫病神!ネタ種族も商品にベタベタ触るんじゃない!」

「ウィズの食生活、大丈夫なのかよ。」

バニルに引き剥がされた二人も連れて、店から出ると、上機嫌なバニルの声が聞こえてきた。

「おい、カズマ。さっきの規約書は何だったのだ?」

「ん?ああ、あれかあれはバニルとの商談だよ商談。」

「カズマ?バニルと一体何を取引するんですか?」

「よし、お前らよく聞けよ。俺はこの前便利なスキルをいくつか習得したわけだが、これを使えば今まで作れなかった物が作れるからな。それを売って金を稼ごうってことだ。内職だよ内職。」

「セイクリッド・ハイネス・ヒール!!」

「おい、なんの真似だ駄女神。」

そこで終始無言だったアクアがいきなり最上位の回復魔法をかけてきた。

「カズマが仕事するなんてありえないわ!きっとどうかしちゃったのよ。なにか悪いものでもひたいひたい!ほっへひっはらないれよ。」

アクアの頬を引っ張り懲らしめていると、ダクネスやめぐみんも不思議がってはいたが、俺が仕事をすることに対して、なんとか納得がいったのか声をかけてくる。

おい、お前らの中の俺ってニートかなんかだと思ってんのか?ちゃんと働いてただろ。冒険者として。

「まあ、カズマが好きなようにすれば良いのではないですか?それにこの男が自分から働くと言い出したんです。その意見を尊重して上げましょうよ。」

「めぐみんの言うとおりだな。ただそうなるとますます忙しくなるな。冒険者に加えて内職をするだなんて、カズマも以外に志が高」

「は?何いってんの?冒険者辞めるから内職するんだよ。馬鹿なの?」

ダクネスが言い切る前に俺が遮る。

するとめぐみんとダクネスが一瞬固まったあと、すぐに抗議をしだした。

「カズマ!?それでは爆裂魔法を打ち込む相手が居ないではないですか!我が力の一端を世間に知らしめなきゃならないというのに!」

「カズマ!!それでは、一撃が気持ちい…強いモンスターから皆を守れないではないか!ちなみ決して、一撃が気持ちいいなんて言ってないからな!」

「思いっきり私欲じゃねえか!こちとら命の危険にさらされてんだぞ!」

この口論はしばらく続き、しびれを切らした俺が、屋敷であまりにしつこかった二人を拘束し、面白がったアクアと一緒にくすぐりたおしたのであった。

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