第26話 あの思い出の街へ帰還を!
城門前。
王族としての都合上どうしたって街を歩くのは叶わないアイリスがいるからこそ、ここで見送られることになったわけだ。移動中の俺の必死のご機嫌取りにより、これから帰る仲間からの視線は、ゴミを見る目からもう救いようのないどうしようもないものを見る目にランクアップしていた。解せぬ……
ちなみにアイリスはどこかへ一度行ってしまった。まあ、色々忙しいのだろう。
俺がアイリスの苦労を慮っていると、横からグサッっと何かが突きつけられた。
「ってえーー。おい、いきなり杖を突きつけてくんなよ。」
「カズマが悪いのですよ。」
いや俺の悪い要素どこ〜。
俺が本気で自分の悪いところを探すが……うん。ない。そんな物どこにもない。
「……カズマ?さっき他の女のことを考えてなかったですか?」
「はっ?なんでそれを……あっ」
結論が出て落ち着いたところに投げ込まれた質問に、不覚にも正直に答えてしまった。
「ふ~ん。そうですかそうですか。昨日あんなことをした言うのに他の女のことを考えてたんですね。へえ〜そうですか。」
「いやまて。その言い方は語弊が生まれる。あんなことをしてないのにそう言われるのは言われぞんじゃないか。」
「ほほう。つまり考えたことを認めたうえで、一線を踏み越えたいと?つまりはそう言いたいのですか?」
不味い。命の危機を感じ取り。俺は必死で思考を巡らせる。
そこで俺は一つの作戦を実行した。
「……まあ、そういうことしたくないと言ったら嘘になるな。だってめぐみん(黙っていれば)美人だし…普通(普通の定義によるが)に(爆裂魔法を除けば)愛嬌もあって家事もできるし…」
あえての全肯定!からのベタ褒め。しかし自分で言っていて恥ずかくなり、心の中でいろいろ付け足して抗議する。この反撃は予想外だったのか。めぐみんは満更でもなさそうにあからさまにもじもじしだした。
ふっ。勝った。
しかし、うまくいったまま終わらせてくれるほどこの世界は親切ではなかったようだ。
「ねえ、なんか面白そうだから見てたのに、あからさまなお世辞にちょろみんが負けてるんですけど。」
「こんのクソ女神!せっかく上手くいってるって言うのにお前は邪魔ばっかりしやがって。」
「カッ、カズマ!?お世辞だったんですか!?」
「上等よ、クソニート。女神にクソ呼ばわりしたこと、地獄で後悔させてあげるわ。」
「いいぜ、かかってこいよ駄女神。お前今まで同じような事を何度も言ってきて、一度も勝ててないっていうことを忘れてるみたいだしなあ!これだから知能最底辺のお気楽女は!常日頃から飲んだくれてるだけの穀潰し!脳も学習能力もないカエルの餌!」
「うわあああああああああああああ!!」
「お、おいカズマ。流石にそれは言いすぎじゃないのか。アクアが泣いているじゃないか。ほ、ほら。アクア落ち着いて。こんなところで喧嘩なんてするものじゃないだろ。」
「ねえカズマ?結局あれはお世辞だったんですか?」
「爆裂魔法と頭のおかしさと中二病と名前とその他諸々の悪いところをあえて全て無視すれば概ねその通りだ。だから、お前に言ったのもアクアに言ったのも全部事実だ。」
「うわああああああああああああああああああああ!!」
「うーん。褒められているのか貶されているのギリギリ判別しかねます…」
「おいカズマ。追い打ちを掛けるのはやめてくれ。めぐみんも余計なことは言わないでくれ。ほ、ほらアクア。カズマも口ではそう言っているが実際は違うはずだ。」
「全く違わない。ちなみにめぐみん。どちらかというと貶してる。」
「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「お前と言うやつはお前というやつは!」
ショックを受けているめぐみんとガン泣きのアクア、それを慰めるダクネスを尻目にこいつらから距離を置く。なんだか、概ね俺が悪い気もするが……まあ、うん。悪くないことにしておこう。まあ、俺は悪くないと思うが一応後で謝っておこう。
「………あの、お兄様?」
「うん?…ああ、アイリスか。おつかれ。……あれはそっとしてあげてくれ。」
「え、ええ。」
アイリスとしてもとても無視できるような状況ではないことは分かるが、いつまでもあいつらに付き合っていれば、今日中にアクセルに帰れなくなってしまう。アイリスもそれを理解してか、柔和笑みを浮かべて口を開く。
「あの、お兄様。改めまして、今回は魔王討伐お疲れ様でした。国を代表して感謝申し上げます。」
「え、お、おう。まあ、俺達も無関係ってわけじゃなかったしな。なんというか成り行きで倒したみたいな所あるし。」
「それでも、勇者として世界を救ったのは事実です。お兄様が勇者であることを妹として誇りに想います。」
屈託のない笑みでそのようなことを言われるとどうにも歯痒い気持ちになってしまう。なんとか返事をしつつ、なにか話題をそらせないかと思い、口を開く。
「そういえば王都に来た魔王の娘はどうなったんだ?」
「そうですね。王都に来た魔王軍にこちら側はだいぶん押されだんだんと戦力に差が生まれ始めました。ですが、急に魔王軍のちからが弱まり、結果的に勝利することができました。魔王の娘も一騎打ちであと一歩のところまで追い詰めたんですけど、ギリギリで逃げられてしまいました。」
悔しげにつぶやくアイリス。まあ、勝てたみたいで良かった。…………ん?いや待てよ。バニル達の話によれば、魔王よりその娘のほうが強いって言ってたよな。
俺がアイリスの強さを再確認していると、アイリスは再び笑顔を作って。
「まあ、なにはともあれありがとうございました。また、冒険譚を聞かせてくださいね。アクセルの街に言ってもお元気で。」
ぐはっ。く、なんて可愛い笑顔なんだ。俺の妹可愛すぎだろ。
するとそこで、ぐいっと腕を後ろに引っ張られる感覚がした。
「ちょっと、その一部の人を殺しかねない笑顔でうちのロリマを誘惑しないでくださいよ。チョロマは簡単になびくんですから。特にあなたみたいな小さいロリっ子に簡単に誘惑されるんですから。」
「ロリっ!待ってください、めぐみんさんだって背も同じくらいですし、見た目だって対して変わらないじゃないですか!」
「ふん、結婚もできないおこちゃまは黙っていてください。私とこの人との恋路をこれ以上邪魔しないことですね。」
「別にまだお兄様がめぐみんさんを選んだわけではないじゃないですか。」
「それも時間の問題です。悔しかったら1年後、結婚できる様になってから来てくださいね。まあ、それまでにカズマが独り身で居るとは思えませんけども。」
どこからそんな自信が湧いてくるのか甚だ疑問だが、こういうやり取りを見ていると、自分がモテ男だと実感できてすごくいい。うん、すごくいい。一通り喧嘩し終えたアイリスが、こっちを向いてくる。
「それではお兄様どうかお元気で。」
「ああ、アイリスもな。」
そうして俺達はいつの間にか来ていたレインのテレポートの魔法陣に入る。
「テレポート」
詠唱とともに魔法陣が輝き、王都に別れを告げようとしている。
「じゃあな。アイリス。」
「ええ、また。」
そうして手を降ってくる。俺も振り返すと、アイリスはまたニコリと笑った。
そうしてテレポートする直前。ふとアイリスの顔がいたずらっぽく笑ったように見えた。
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