第22話 この初めてのデートに終焉を!3

時刻は11時をまわった程度だろうか。ベッドの上で腕枕をしながら天井を見つめている俺の隣……いや正確には少し離れたところにはめぐみんが仰向けに寝転んでいる。手を組んで自分のへそあたりに置いためぐみんの紅い瞳はほんのりと光っていた。

何この、雰囲気。さっきまでと違いすぎない?さっきまで結構喧嘩ムードだったのに、今の状態は一体何なんだよ。

そんなことをラブコメみたいな空気感の中考える。こいつとは一緒に寝たことくらいならあるのだが、異性と添い寝というのはどうにもなれない。

そんな中めぐみんはポツリと呟く。

「本当に……終わったんですね。本当に……魔王を倒したんですね。」

「ああ、そうだな。はっきり言って俺ははじめの頃は魔王なんて倒せっこないと思ってたんだがな。」

感慨深く言っためぐみんの言葉に俺はこの世界に来て、直ぐのことを思い返しながら口を開いた。

「本当に…色々会ったな。夢にまで見た異世界に来たと思ったら、はじめは労働の毎日だったもんな。ようやくカエル討伐に言ったと思ったら、アクアは食われるし。アクアの思いつきでパーティーメンバーを募集してみれば、釣れたのはこんなんだからな。」

「おい、こんなんとはなんですか、こんなんとは!」

「だって、片や一発こっきりの頭のおかしい魔法使いに、もう片方は攻撃はからっきしの、硬いだけの変態クルセイダーだぜ。そんな中いきなり、魔王軍幹部が来るは借金を負わされるは、機動要塞に裁判に、アルカンレティアじゃ、また一人幹部が来て。俺の目指してた平穏はどこえやらって感じだったもんな。それからも幹部たちとの戦いばかりで…そんな非日常に中にあった貴重な日常といえば。毎日毎日、お前らが起こした問題の後始末ばっかりだったからな。」

俺の言葉にはじめはなにか言いたげにしていためぐみんだったが直後の俺の思い返した言葉を聞いて、途端に懐かしく思ったようで、柔らかい微笑をたたえると、

「そうですね。カズマにはいつもお世話になっていますからね。カズマにとっては、大変な日々だったのかもしれませんが、私は好きでしたよ。あんなふうな落ち着きのない日常が…散々な目にあった、何一つうまくいかない冒険が……」

そんな感情のこもった…思い出の詰まった一言に俺は…

「何いってんの?こっちの身にもなってみろよ。お前ら問題起こし過ぎなんだよ。もう少し落ち着けないもんかと何度考えたことか…こっちとら心が休まる暇も安心してゆっくりする暇もなかったんだぞ」

怒ると思ったが、めぐみんは意外にもクスクスと笑うと、

「普段から、寝てばかりの癖して何を言ってるんですか。でも…私はこうして、あなたと二人でいる……そんな時間が一番落ち着くし、安心しますよ。」

そんなことを言われると、俺としてはもの凄く照れくさいわけで…俺はすっかり冴えてしまった目をそらしながら起き上がると、ふと気になったので、からかいも兼ねてめぐみんに質問した。

「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ。そういえばなんで俺のこと好きになったの?あと、いつから好きになった感じ?」

俺の言葉にめぐみんも起き上がり、俺の方をじっと見つめた後、

「…そうですね。いつからなんでしょうか?最初は奇行の目立つ変な人位に思っていたんですが…毎日の爆裂散歩に行くときにだんだん面倒見がいい人だなって感じになっていって…」

「なあ、俺って最初そんなイメージだったの?そんなに奇行目立ってた?というか奇行がどうとか言う話になるんなら俺より圧倒的にお前らのほうがやばかったと思うんだが…」

俺のそんなツッコミにも一切反応を示さずめぐみんは紅い瞳をさらに少し輝かせながら、その瞳でまっすぐと俺を見つめながら。

「そうしていつしか、頼りになる人になっていって。本格的に好きになったのは、紅魔の里にはじめて行った時くらいからですかね。あの時、私の爆裂魔法の道を作ってくれて、凄く嬉しかったし、救われたんですよ。そこからは普段はダメ人間だけれども本当は優しくて、いざという時にはみんなを助けてくれる。そんな頼りがいのある格好いい人、みたいに思ってたんですかね。…正直、私もなんで好きなのか、と聞かれてすぐに答えられるわけではないんですが…それでも、なんだかだ言いながらでも、結局はみんなを助けてくれる。優しくて頼れるあなたのことを……私好きになったのかもしれませんね。」

そんなことを真剣に言ってくるめぐみん。まっすぐとした瞳の紅さはとても綺麗で…幻想的な光り輝くその瞳をなんだろう。凄く嬉しい。思っていた以上にめぐみんは俺のことを想ってくれていたのようだ。いつも、クズマだのカスマだの言われて、いつもいつも面倒事にばかり会わされる。そんなろくでもない世界に来た俺だが……たったこれだけのことでも、この世界に来て良かったと思えた。めぐみんが俺に救われたと感じたように…俺もめぐみんやあいつらに救われているのかもしれない。前世からも、女の子にそこまで想われたことも、褒められて、好意を寄せられたこともなかったからなのか。それとも、めぐみんに言われたからなのか。凄く嬉しい。心が暖かくなるような。それでいて締め付けられるようなそんな妙な感情に見舞われながら、そんなことを思った。俺は自分の考えていたことに若干気恥ずかしさを覚え、そばに仰向けに横たわり、天井を見上げていた。隣からもめぐみんが動いたことが気配でわかる。おそらく俺と同じように寝転がったのだろう。

「この世界に来てからずっと、このろくでもない世界からとっとと脱出して、日本に帰ることを考えてた……」

俺のポツリと言った呟きに、めぐみんは不安そうにこちらを見つめてくる。

きっと、俺が日本に帰ってしまうのではないのかと心配してくれているんだろう。

「でも、なんだかんだ言って、こっちでの生活も悪くなかったよ。」

俺の続けていった一言に、めぐみんはほっと息をつくと、

「そういえば、カズマの故郷はどんなところなんですか?今まで断片的な情報は聞いてきましたけど、詳しく聞いたことはなかったですし、」

「そうだな。俺の国は、一言で言えば平和だった。この世界のように、モンスターが居るわけでもなければ、意味なく魔法をぶっ放すような頭のおかしいやつはいなかった。まあ、そもそも魔法自体ないんだが…」

「おい、その頭がおかしいやつってのは誰のことか聞こうじゃないか!」

そんなめぐみんの言葉を無視して、俺は続ける。

「町中には娯楽が溢れていて、いろいろな機械が発達していた。空飛ぶ機械や地面を移動するやつなんかもあった。」

「カズマが前に作っていてライターとか言うものもその一つでしたよね。というか、そんなに技術が発展しているものなんですか?」

「ああ、それはもう発達してたさ。医療なんてもんはこの世界の比じゃないな。この世界はちょっとした風邪をこじらせただけでも死ぬが、あっちじゃ大抵の病気は治せる。他にも宇宙に機械を飛ばしたり、他の惑星の調査をしたり。占いなんかじゃなくてちゃんと根拠のある天気予報もあったな。世界中の大抵のことは科学が証明していて、わからないことなんてほとんどなかったもんだ。」

「そのカガク…というものがどんなものかはわかりませんが、凄いですね。宇宙や他の星にまで渡る力を持っているなんて…爆裂魔法が撃てないのは残念ですが、旅行くらいでなら、いつか行ってみたいですね。」

「まあ、無理だろうけどな。クリスに頼めばどうにかなるかもしれないが…」

いい加減、眠気がまわってきた。俺は大きくあくびをし目を閉じようとし……

そこで、めぐみんは、そっと俺の方に身を寄せると、小さな声で言った。

「このまま寝てしまうんですか?…アクアを連れ帰ったら、凄いことをしようという約束だったのに?」

そんなことを言われ、俺の頭は一瞬フリーズし、まわってきた眠気は一瞬で吹き飛んだのだった。

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