第16話 この初めてのデートに祝福を!8

後ろにいた二人。ビクリと震えた拍子に二人組の目深に被ったフードが取れ、純血の貴族の象徴である金髪があらわになる。ちらっと見えた表情。ふたりともきれいな碧眼が見える。俺はその二人を知っている。

「ダ、ダクネス!?それにアイリスも!?」

俺に名前を呼ばれた二人はもじもじしながら渋々こちらに近づいてくる。

「や、やあ。カズマにめぐみん奇遇だなあ。あ、あははは。」

「え、ええ。本当に奇遇ですね。お兄様にめぐみんさん。ですが、ここではイリスと及びください。」

かわいた笑いをあげるダクネス。アイリスは愛想笑いを浮かべながら、二人は視線を泳がせる。

「なにを白々しい、変態ストーカーとブラコンストーカーの癖して。」

冷めた視線を送りながらきついことを言うめぐみん。

「め、めぐみん。私は変態でもストーカでもないぞ。」

「そ、そうですよ。私もストーカーではありませんよ。ブラコンでも……多分…ない…ですよ。」

「なにを言っているんですか?人が気にかけている男の唇を強引に貪ったあげく、何度も襲いに行ったりしている女が何言ってるんですか?そういえば薬を盛ろうとしたり、夜中に部屋に侵入してクローゼットの中に隠れて夜這いしようとしたりもしていましたよね?本当にどの口が言っているんですか?」

余裕そうな表情でとどめを刺しに行くめぐみん。その口撃にダクネスは赤い顔をしながら、

「め、めぐみん。そのことはもう終わったことじゃないか。それに言い方があるだろう。」

「ダスティネス!?否定はしないんですか!?本当にそんなことをしたんですか!?はしたないです!仮にも大貴族の令嬢だと言うのにはしたないです!」

「言い方も何も事実じゃないですか?」

「アイ…イリス様落ち着いてください。めぐみんももう許してくれ。」

3人が言い合っている。その光景を見てた俺は一言。

「なんかハーレム系主人公みたいでいいな。」

「最低です!この男今最低なことを言いましたよ!」

「めぐみん。ここは一時休戦だ!一度こいつを締めよう!」

「お兄様……最低です。」

「やめ、やめろ!こっちににじり寄ってくるな!本当にやめろよ!スティールするぞ!本当にするからな!おい!いいのか!?本気だからな!これ以上近づくようなら容赦しな………ごめんなさい。謝るので許してください。」

三人相手に降伏した俺を見て、全員溜飲が下がったのか。こちらによってくるのをやめた。

「本当に、冗談でも言っていいことと悪いことがありますよ。今度そんなこと言ったら容赦しませんからね。まあ、ダクネスのは冗談でもなんでもないんですが。」

俺に釘を刺し、すぐさま口撃に転じるめぐみん。

「め、めぐみんだからその話は………」

「その話はなんですか?どれも事実ではありませんか!あなたが夜這いしたり、お風呂に侵入したり、薬を盛ろうとしたりなど。あの手この手を使って、この男を襲おうとしてたじゃないですか。」

「本当にダスティネスはそんなことをしたんですか!?このちょっと押せば誰にでもホイホイついていきそうなお兄様に色仕掛けをしたというのですか!?」

「イリス様。それは…」

必死で弁明しようとしたダクネスが口を開くが、そんなことはお構いなしに…

「そうですよ。この直ぐ言い寄られれば、誰にでもついていくような気の多い男に色仕掛けをしたんですよ。」

「!?いや、めぐみんだって…」

「言語道断です!」

「ええ、めぐみんさんの言うとおりです。ダスティネスは変態です!」

「イリス様まで…カズマこの二人を説得してくれ!お前からもちゃんと説明してくれ!」

一人では手に負えなくなったダクネスがこちらに助けを求める。

「さっきから聞いていれば、気の多いだの何だの言っている二人に対して言いたいことはあるが………」

ここでちゃんと事実を説明しなくては…

「めぐみんの言ったことは……」

3人の視線がこちらに向く…

「大体あってる。」

「お前というやつは!お前というやつは〜!」

「やはり、めぐみんさんの言った通りだったのですね。」

「お、おいふたりとも!髪を引っ張らないでくれ!」

二人に髪の毛を引っ張られているダクネスに向け俺は…

「で、お前らなんで俺のストーカーしてたの?」

本題に入ろうとした一言に対し、ダクネスがビクリと震え、アイリスまでもがダクネスの髪をひっぱていた手を止め、冷や汗をにじませていた。

「い、いやあ、たまたま二人がカフェに入っていくのを見て、ちょっと観察してただけだからな〜。」

「そそそそうですよ。少しの間だけたまたま見かけたからあとを付いてきただけであって。」

「ギルドから出たときには、すでに付いてきていた癖に。どの口がそんなこと言ってるんですか…」

そうかそうか。ギルドから出たあたりか。それなら別に……

「いや待て、ギルドから出たあたり!?それって、序盤も序盤の話じゃないか!?えっ何!?俺二人が聞いている中で、あんだけ恥ずかしいこと言ったの!?」

「恥ずかしいことなんですか!?私結構感動してたのに!」

「そのあたりについては心配いらない。話を聞いていたのはカフェに入った時辺りからだけだ。」

ダクネスのその言葉に、アイリスの方を見るが、うんうんと自信ありげに頷いているあたり、嘘ではなさそうだ。

「なるほど。つまり二人は、俺とめぐみんがふたりきりで街を出歩いていることを見て、興味本位で付いてきたということだな。」

「違いますよ。ダクネスは確か、パーティーの誘いが山ほどあったと思いますし、アイリスは公務がありますからね。ふたりとも抜け出してきてわざわざ付いてきたところ、いつものように平原に言った私達を見て、ほっと胸をなでおろしてきたら、おぶられた状態からギルドに向かう私達を見て、念の為ついて行ってみれば、何やらイチャコラしているのを見て、結局ストーキングに発達したといったところでしょうか。」

「め、めぐみん!?前々から思っていたがなぜお前は、私の考えもそうも簡単に見破れるのだ!?」

「ダスティネス!そこは否定しないと…」

……まじか。確信犯じゃん。まあ、話を聞かれてなかっただけマシだと言えるか…

「あなた達の考えはわかりやすすぎます。まあ、話を聞いていたというのなら手っ取り早いですね。良かったですね。カズマはまだ決めかねているようなので、あなた地にもチャンスはありますよ。」

そんな励ますようなことをいうめぐみん。えっ、待ってこれ俺はめられてた?

俺がオロオロしていると、ダクネスたちは驚いたような表情で

「いいのかめぐみん。私達はその、一応恋敵のようなものなのだぞ。そんな励ますようなことをいって…」

「別にいいですよ。どこの馬の骨かも知らないような女に掠め取られることはいただけませんが、私達のうちの誰をカズマが選ぼうと、私が口を挟む権利はありません。私はカズマの意見を尊重しようかと思います。まあ、無論負けるつもりはありませんから。正々堂々、この男を巡っての勝負です。」

二人を指さしながらそうせ宣言しためぐみんの瞳は爛々と紅く輝いていた。

どうやら俺はいつの間にか三人の勝負の景品にされたらしい。まあ、美少女たちに取り合われるというこの状況自体は、悪くない。いや、むしろ全然ありだろう。ついに俺も一端のギャルゲの主人公格まで成り上がったというわけだ。ただ一つ問題点を上げるとするなら、ハーレムエンドがない感じのシナリオのようだな。まあ、俺はそこまで問題視していないが……

「ほ、本当にいいのか?めぐみん。そんなこと言ったてお前が不利になるだけではないのか?」

驚愕の表情を浮かべながらめぐみんにダクネスが尋ねるがめぐみんはふっと笑うと

「今さっき言いましたが、この男が…カズマが誰と付き合おうが、それがカズマの意思であるなら私は仕方のないことだと思います。嫌なのはそういったことをして、責任を取るという形でカズマが誰かに取られたりすることです。だからこその勝負ですよ。まあ、負けるつもりなんて微塵もありませんが……」

最後の最後で挑発するようなセリフを吐くめぐみん。

「わ、分かった。その勝負受けて立とう。」

「私も負けませんよ。」

二人も思わず意気込むと、めぐみんは余裕綽々といった表情で…

「まあ、精々頑張ると良いですよ。それでは、迎えが来たようですし、もうデートの邪魔はしないでくださいね。」

…迎え?その言葉に俺達はめぐみんの視線の方へと目を向けると……そこにはすごい勢いですっ飛んでくるクレアの姿があった。

「アイリス様!こんなところにいらしゃったんですか!?公務もほっぽりだしてどこに言ったのかと思えば……ダスティネス卿!!なぜここに!?というか一緒にいられたなら、連絡してくれればよかったものを!…ん?そこにいるのは、カズマ殿にめぐみん殿ではないか?なるほど。お二人はお出掛け中ということですね。ほら。アイリス様もダスティネス卿も、早く王城に行きますよ。」

「やめてくださいクレア!これは大事なことなのです!」

「公務より大事なことがこんなところにあるわけがないでしょう。ダスティネス卿もご一緒にいられるなら止めてくださればいいものを…」

「ちちちち、違う。これには深いわけがあって……」

「わかりました。その話は王城で聞かせてもらいます。パーティーの主催者たちが焦りながら、貴公の到着を待ち望んでおりますよ。ほら、アイリス様もいつまでも抵抗してないで行きますよ。」

クレアは早口でそう言うと、抵抗するアイリスを引っ張って、王城の方へ向かっていった。ダクネスもそれに言い訳をしながらも渋々ついて行った。去っていった二人を見ながら、俺達はお互いの顔も見ずに…

「……行ったな。」

「……行きましたね。」

そんなふうにポツリと呟いた俺に、めぐみんも同じくポツリと返す。

ん、そういえば……と俺はふと思いついた疑問を口にする。

「お前いつから気づいてたの?」

「いつからも何も最初からですが……」

まじかよ。全然気づかなかった。

「…気づいてなかったんですか?」

「い、いや。全力で気づいてたけど。」

俺の必死の取り繕いも虚しく、めぐみんはクスクス笑いながら。

「嘘つくの、下手くそですね。」

ちっ。流石にごまかせないか。まあ、これで気づかないのはアクアくらいか……

そう思いながら、ふと、めぐみんの横顔を見ると。その顔は寂しいような、悲しいようなそんな表情をたたえていた。俺のその視線に気づいたのかこちらを向いてくるめぐみん。

「どうしたんだよ。そんな顔して?」

俺の何気ない一言に、めぐみんは自分がどんな顔をしていたのか予想がついたのか、ふいっと俺から視線をずらし、

「別に…なんでもないですよ……」

とそっけなく言った。

やべえ。流石にか。流石にデート中に他の女の子の話するのは良くなかったよな。しかも、好きだとか興味ないとか言わずにその場しのぎみたいなことしてんだからな。

俺はそんな予想を立てながら自分が言おうと考えた一言に、自分で少し…いやかなり照れくさくなり、思わず視線をそらし。頬をポリポリとかくと、

「まあでも、さっきはあんなこと言ったが、めぐみんは……その…まあ、あの二人と比べても……俺にとって…そう、こ、好感度というか…意識してる度というか…なんていうか……まあ、俺の中の存在として大きいってことは確かだよ。」

途中しどろもどろになりながら言い切った俺に、めぐみんは少しおどろいた様な表情をしながらこちらに振り向くと、柔らかな微笑をたたえると、ちょっと照れたように、小さな声で、それでも確かに聞こえるような、そんな声量で。

「…ありがとうございます。」

と呟いた。

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