第13話 この初めてのデートに祝福を!5

めぐみん視点



店をあとにした私達は、もうお昼時だということで、カズマ一押しのカフェに向かっていた。もちろん後ろを確認しながらだ。

「どうしたんだ。さっきから後ろをチラチラ見て。まだゆんゆんのこと引きずってんのか?」

ちょこちょこ確認している私を見て疑問に思ったのか。カズマがそんな言葉をかけてくる。

「まあ。そんなところです。」

適当に返して、その場をしのぐ。

「ふーん。ま、それならいいけど。そんなに気になるならまた今度みんなで紅魔の里にいけばいいじゃないか。」

「そうですね。また、みんなで一緒に行きましょうか。」

そうな彼の提案を肯定する。そうだ。今はデート中なのだ。他のことはあまり気にしないようにしよう。

「そういえば。どんなところに向かっているんですか?」

「ん、そうだな。結構前からある店なんだけど。パンケーキがうまくてさ。いつか誰かと行こうと思ってたんだ。」

つまり、その誰かに最初に選ばれたのが私というわけだ。

「おい。ニマニマしてるとこ悪いが、こっち来い。」

「ニマニマなんてしてませんよ!ていうかどこに…」

彼が私を引っ張っていくところに視線を向けると、

「やあ。お二人さん。今は二人だけでお出掛けかな?」

目の前には銀髪の盗賊職の少女クリスが立っていた。

裏路地に呼び込まれた私達はとりあえずクリスの方に向き直る。

「で、どうしたんだよクリス?というか仕事は大丈夫なのか?」

「うん。そっちの仕事がようやく落ち着いたからこっちに来たんだよ。早速だけど、神器について話があるんだ。」

仕事とは一体なんなのだろう?こっちというのは王都のことだろうが。暇なときに来ているのだろうか?そんな疑問が浮かんだが、カズマは特に何も思わなかったらしく。

「まあ。お頭にはそこそこお世話になりましたし。別にそのくらい良いですけど。けど早めに済ませてください。今めぐみんとデート中なんで。」

急にクリスへの呼び方が変わる。つまり仮面盗賊団の仕事が来たということだ。

「ちょっと待って。2人で出掛けてるとは思ったけど。デートしてたの!?君は魔王を倒したから王女様と結婚するんじゃないの?」

「それなら断りましたよ。今日あたり新聞にでも載ると思いますよ。」

アクセルに帰ってすぐの祝勝会にクリスはいなかったと思うのだが。今の今まで忙しかったらしいのになぜそんなことを知ってるのだろう。

「王女様を振ったの!?」

「振ったといいますか。アクセルでみんなと過ごすためには、結婚したくなかったんですよ。」

つまり、できるなら結婚したかったということだろうか?ちょっとむかつきますね。

「そうなんだ。仲間想いの助手くんらしいね。そういえば、先ぱ…アクアさんとはあの時からどうなの?」

「ちょっと待ってください。あの時とはいつのことなんですか。2人はそこそこの頻度で会ってるんですか?アクアとクリスはなにか繋がりがありましたっけ?」

これは大事なことだ。まさかの恋敵にクリスまで参戦するのは良くない。

「あの時って言うのはだな。あれだ。俺がふざけたこと言って。屋敷から追い出されたときだな。その時テレポートで会いに行ったんだよ。やっぱり癒やしを求めるときはお頭に会いに行くのが一番だからな。」

「本当に驚いたんだからね。まさかテレポート先に登録してるなんて。」

「ちょっと待ってください。クリスは特定の家を持ってないとダクネスが言ってましたよ。それなのにどうしてカズマはクリスがいるところを特定できたんですか!?」

「あ……それはその〜。」

途端に口ごもるカズマ。

「そう。あれだよ。私がよく泊まってる宿にテレポートしてきたんだよ。」

……怪しい。

「そうなんですか。それなら今度、連れて行ってください。私も盗賊団の一員として。クリスの家くらいは知っておきたいですし。」

「それは…ちょっと無理かな〜」

目を逸らしてそう返してくるクリス。

「あれだ。正式な団員にならなきゃダメなんだ。だからクリスの居場所は俺しか知らない。」

なんとか言い逃れようとしているのが見え見えだ。何か隠さないといけない秘密でもあるのだろうか。あの時は確かカズマは夜に帰ってきた。つまりかなりの時間そこにいたわけだが。そういえばカズマはよく外泊をし、その度にスッキリした表情で屋敷に帰ってくる。それにもなにか関係が……

私が顎に手を添えてそう思案していると。

二人は私をよそに話し始めた。

「ああっ。そういえばお頭!なんであの時帰っちゃたんですか!?お頭のこと指名したのに勝手に帰っちゃって。なんでも叶えてくれるって約束だったじゃないですか!?」

えっ?

「じょ、助手くん。この場でそういう話は……。ごめんってば。でも私にも他のやるべきことがあるんだからしょうがないじゃん。今度ちゃんと、願いなら叶えてあげるからさ。」

「…約束ですよ。」

「わかったって。」

お願い?指名?何でも?夜?スッキリした表情?言えない理由?これらの単語から導き出された答えは……………

「…………………。」

「あの~。めぐみんさん?そのなんでゴミを見るような目で俺を見てるんですか?」

「助手くんまたなんかやったの!?」

「お頭。今回も俺は何もしてませんって。」

「君が言うと全く信用できないね。というか何もやってなかったらこんな顔されないよ。原因に気付けないなんて最低だよ。」

「いくらなんでも酷くないですか。さすがの俺も傷つきますよ。」

また私をよそに話し始めている二人。

「二人は本当に仲が良いですね。」

「「………………。」」

無言でこちらをみる2人。とうとう堪忍袋の緒が切れた私は

「ふたりきりでどこかで秘密裏にあって。お願いとか指名だとか。つまりそういうことですよね。最低です。他の女の子とそうゆうことした癖に私とデートしてたんですか!?」

「「えっ。」」

「ちょっと待って。前にも言ったけど助手くんと私はそんな関係じゃないよ。友達!あくまで友達だから!」

「えっ。お頭!俺等の関係ってそんなもんだったんですか!」

「助手君は黙ってて!君が何か言うとややこしくなるから!」

なるほどあくまでしらを切るつもりらしい。

「そうですか。本当にそういった関係じゃないなら。二人が何の話をしてたのか詳しく説明してくださいよ。」

「…それはちょっと無理かな。」

やっぱりだ。こうなったら力ずくで…

そう思っていると、ちょいちょいとクリスの肩をカズマが叩き二人でなにか相談し始めた。

「別に言って良くないですか。ダクネスやアクアはともかくめぐみんになら言っても大丈夫なのじゃないですか。」

「駄目だよ。二人にバレたらやばいもん。」

「めぐみんだって話せばわかってくれますって。そういうことに関しては飲み込みも早いですし。他の人には言わないでくれと話せばわかってくれますよ。」

「でも。万が一でもバレたらやばいじゃん。責任取れるの?」

「なら。さっき言ったお願いです。めぐみんに話してください。」

「うっ。一度断った手前断れない。わかったよ。話すよ。説明する。」

何やら怪しい話をしている。責任がどうとか。やはり私の予想は正しかったようだ。しかし、その後クリスから放たれた一言は私を驚愕させるものだった。


「すいませんでした。」

クリスの説明を聞いた私は深く頭を下げて謝っていた。

「ちょ、ちょっと。別にいいって。この姿のときはエリスじゃなくてクリスだから。神様パワーも使えないし、ただの盗賊クリスだから。ほら。助手くんだって割り切って考えてるでしょ。だから急にかしこまらなくていいから。」

「クリスがこう言ってんだ。正体を知ったからって急に態度を変えるとアクアやダクネスにバレかねないからな。」

二人がそんな事をいってくる。

「そうですか。本人がそう言うなら……」

そういうとクリスはうなずきながら。

「うんうん。それでいいよ。ダクネスたちにバレるとやばいからね。」

まあこう言ってくれているわけだし。いつも通りに接しよう。

一段落ついたと判断したカズマが口を開く。

「んで。今日は結局どんな要件だ?」

クリスがその言葉に少し反応する。

「ああ。そうだったね。今回の要件は2つあるんだ。1つ目は…」

「神器の回収とアクアのことだろ。」

クリスの話しを遮った言葉に、クリスはニコリと笑うと。

「さすが助手くん。話が早くて助かるよ。」

「当たり前ですよ。お頭がこんなところで話す理由なんてそのくらいじゃないですか。」

「まあ。それもそうだね。」

ほっ。どうやらこの二人は本当にそこまでの関係ではなく。単に気の合う友人のような関係みたいだ。本当に良かった。この人は浮気性だから目を離すと直ぐに他の人の下へ行ってしまう。

「そんで。肝心の神器の話なんだけど。今回見つかったのは、不死者の杖。対象を何度でも生き返らせられる魔道具だよ。」

「んなもんリザレクションでいいだろ。」

全く。本当にこの人は。私が思わず呆れていると、それはクリスも同じみたいで。

「助手くんのが特別なだけで、本来は一回しか生き返れないんだよ。それとこの魔道具は寿命で死んでも生き返れるんだ。あとは、一度その杖で生き返った人間は、寿命で死ななくなるんだ。まあ、持ち主は死んじゃったから、あと一回しか使えないんだけどね。」

「不老不死ってことですか。……あれっ?一度生き返れば寿命で死ななくなるし、杖の効果で生き返れるはずなのになぜ持ち主の人は死んでしまったんですか?」

そう。おかしいのだ。たとえ自分が死んでも誰かに生き返らさせてもらえれば、永遠に行き続けられるはず…

「鋭いね。そう。そのとおりなんだよ。でも、誰しも永遠の命は欲しい。持ち主以外は一度しか使えないんだ。自分のために使おうとするのが貴族ってもんだよ。まあ、それがずっと続いているから。未だ一度も使われてないんだけどね。」

なるほど。傲慢な貴族にありがちな考え方だ。

「確かにそうだな。で、それはどこで見つかったんだ。」

「見つかったのはアクセルの街の外れの別荘にちょうど旅行に来ているジェスターヴァ家のところだよ。典型的な悪徳貴族で、どうやら今回も裏ルートで神器を手に入れたみたいなんだ。」

「なるほど。つまりその神器を回収しに行くということですね。」

「その通り。決行は明後日ってとこかな。そのときにアクセルの街のエリス教会裏の路地で集合ね。あと、アクア先輩の件だけど、たまにこっちで女神としての仕事をしてくれって伝えといて。それじゃあ、私はそろそろ行かないとだから。」

「理解った。あとでな。」

「うん。また後で」

そう別れを告げてクリスは走り去っていった。なんだかいろいろ衝撃のカミングアウトが多くて疲れた。そう思い私はもたれかかるようにして彼の腕に抱きつく。

「おい。どうしたんだよ。まあ、確かに色々あったが…」

「すいません。ちょっとつかれただけです。では行きましょうか。」

そうして路地を抜け再びカフェへと足を運ぶ。

本当に今日はいろいろな人と絡まれる。私は路地から出ることで再びこちらに向けられた視線を気にしながら。

「これからも、色んな人に絡まれそうですね。」

ボソッと呟く。

「なんか言ったか?」

「いえ何も。」

ふーんと気のない返事をするカズマ。

彼はまだ気付いていないようだ。ただいい加減我慢の限界というものもある。私は一つの作戦を練りながら、彼の隣を足を揃えて歩いていた。

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