第7話 この最強の最弱職に祝砲を!
はじめは、ニヤニヤしていた取り巻く貴族たちの表情がどんどん曇っていく。それとは対象的に、俺の仲間たちと、アイリスの表情はだんだんと明るくなっていく。国王やジャスティス王子の目はだんだんと興味深いものを見る目に変わっていった。
自分で言うのも何だが、俺は対人戦において無類の強さを誇る。女性相手なら必殺となるスティールをはじめ、目を潰す極悪コンボ、バインドとドレインタッチによる即死コン、潜伏、逃走、自動回避と運任せではあるものの、並大抵の者じゃなかなか勝てない。モンスター相手じゃ手こずっても、人間相手ならよほど強くない限り大丈夫だ……。そうだって俺は勇者にして……
『最強の最弱職』なのだから
兵士視点
なにが起こっているんだ…。以前、クレア様の命令でこいつを捕まえようとしたときは、ただ逃げているだけだった。だというのに目の前にいる冒険者の男は今、百人の兵士を相手に一歩も引いてなかった。地面が凍らされ、隊列が崩れる。小声で何かを呟けば、炸裂魔法程度の爆発がなんの脈絡もなく起きる。近づこうとすれば、縄を使って身動きを封じられる。油断していれば、閃光がほとばしり、視界を奪われる。近づけたと思えば、すごいスピードで距離を置かれる。遠巻きに囲めば、いつの間にか姿が消える。消えたかと思いきや、近くに現れ、その場には気絶した兵士が現れる。背後を取ったと思っても、気付かれていてそのまま返り討ち。複数人で強襲しても、攻撃を全て躱してくる。遠距離から弓で狙っても、そのすべてを躱し、それ以上の精度で狙撃される。剣の腕は素人かと思えば、こちらの攻撃だけかわされ、あちらが一方的に攻撃できる。手傷を負わせたと思っても、いつの間にか傷は治っている。こんだけ動き回り、どれだけのスキルを使ったのかもわからないというのに、眼の前の男の勢いは一向に止まることを知らない。一体こいつは何者なんだ?剣士でも、戦士でも、クルセイダーでも、ウィザードでも、プリーストでもランサーでも、アーチャーでも、盗賊でもない、ただの冒険者。そのはずなのに、この光景を見ていると、冒険者が最弱職だなんて事実を思わず疑いたくなる。すでに周りには、何人もの仲間の兵士が横たわっている。上司や後輩ももれなくだ。これを、たった一人の最弱職が…………そんなこの世の物とは思えない、地獄のような光景を目にし思わず、口からある言葉がこぼれ出る。いつの日か新聞で読んだ物、あのときは笑って見過ごせるレベルだったけど、今思えば、あの単語こそ、この化け物にはふさわしい、
「最強の最弱職……」
そこで俺の意識は途絶えた。
アイリス視点
はじめは反対だった。お兄様は確かにすごい人だ。魔王軍幹部のほぼ全てを討ち取り、終いには魔王ですら倒してい待ったのだから。ですが、妹である私は知っています。お兄様は、あまり強くはないことを…。クラスは冒険者、ステータスも至って平凡、とんでもない武具を持っているわけでもなく、特筆した才能を持っているわけでもない。王族相手でも無礼を働き、子供っぽくて、偉そうなのに本当は弱くて、そんなどうしようもない人……、それでも頼りになるそんな人だと思っていた。エルロードでもその素晴らしい起点で私を救ってくれた。そんなイメージを私はお兄様に対して持っていた。しかし、今目の前にいるのは、たとえ百対一だとしても一歩も引かない、勇敢な、そして私の大好きな勇者だった。
「……お兄ちゃん……」
気づけばそうつぶやいてしまった。慌てて周りを見るが、他の人には聞こえていなかったようだ。ほっと胸をなでおろす。そこで試験終了の合図が出た。
十分……それが俺が100人乗兵士を片付けるまでにかかった時間だ。自分でもびっくりしているが、魔王を倒したことでステータスが多少上昇しているようだ。様々なスキルを使うことで、器用貧乏でありながらも様々な状態に対処できる俺は、やはり集団戦に向いているのかもしれない。
「流石は勇者殿。」
王様か、これで作戦としては終了なんだが、なんだか嫌な予感がする……
「百人程度の兵士など、難なく倒してしまうほどお強いようだ。」
ま、まあ、そりゃあ伊達に魔王倒したわけじゃないしね。
「それでは、我が息子ジャスティスと一騎討ちしてはくださらんか?勿論ただでとは言わん、この国一と謳われたジャスティスに勝利すれば、望みを一つ叶えてやろう。」
マジか、ここで願ってもみないチャンス到来!ここで勝てば断られるという最悪の事態を避けられる!だが裏を返せば、この誘いを断ったり、もし負けたりでもしたら、ほとんどの確率で俺の要求は受け入れられないと見ていいだろう。どちらにしろ、戦うしかないみたいだな。
俺自身は勇者だとか、俺はそんな大した人間じゃない。世界だとか、平和だとか、自分が顔も知らない連中の幸せなんてどうでもいい。悠々自適に自堕落な生活が送りたい。一生遊んで暮らしたい、そんな普通の人間だ。………普通だよな。……みんなそんな感じだろう。うん、そんな俺がまさか王子とサシで殺り合うことになるだなんてな。この世界に来た時はこういう王道イベントも待ち望んでいたけど、今は他にやるべきことがあるからな、イベントがどうとかどうでも良くなる。
「わかりました。しかし、流石に王子となると私もそこそこ荒技を使わざるおえません。王子に無礼なことをしてしまうかもしれません。それでもよろしいですか?」
「無論だ。この決闘の間に起きたことは全て不問としよう。」
言質が取れた。これで遠慮なくやれる。俺の前に、ジャスティス王子が降りてくる。持っているのは木剣だ。そこで俺の横にも、兵隊のような人が現れ、俺の持っていた、劣化マイトと弓矢、バインドのためのロープを回収する。なるほど…あくまで一騎討ち…お互い武器は木剣のみということか。そうなると、俺はかなり不利だ。アイリスの撃っていたあの、エクスなんたらとか言う、飛んでくる斬撃を放たれ続けたらおしまいだ。俺の方には遠距離で攻撃する手段はない。とどのつまり、どうにかして接近する必要がある。しかも近づけたとしても、相手は剣の達人だ。単純な剣技で勝てるわけがない。まあ、単純な剣技なんかで戦う理由ないんだけど。
「それでは、構え!」
いつの間にか審判のような人までついている。おいおい、なんつう気迫してんだよ。素人でもわかるが、なんか王子の構えすげー、俺ができるのなんて精々漫画の剣士を真似した。よくわからん構えだけだってのに……。
「それでは、始め!」
ちょっ……はや。開幕の合図とともに切り込んできたんですけど、容赦なさすぎない?なんかこう…あるでしょ!最初は小手調べだ〜的なやつ!自動回避発動しなかったら即終了だったんだけど。そう思いながら、呪文を詠唱する。
「クリエイト・アース」
手にサラサラの土を形成させる。
「からの……ウィンド・ブレス!!」
お得意の目潰し…王子の顔に土をぶちまけるのは気が引けるが……。
「あいつ、王子の顔に泥をかけやがったぞ。」
「なんて、無礼な奴だ。」
「容赦の欠片もない。」
うっせえ、こちとら本気でやらなきゃやばいんだ。貴族のおえらいさん方は黙ってろ。
「最低ね。」
「本当に、とんだ屑だわ。」
「勇者だからって、調子に乗ってんのよ。」
メイドさんたちまで……
いやでも俺には信頼できる仲間が……
「カズマってば流石ね!どんな最低な行為に対しても、なんの躊躇いもないわね!」
「おいアクア…さすがに言い過ぎじゃないか……まあ王子様の顔にあんなことをするのはとても褒められた行いではないのだが……」
「ふたりとも、カズマだって私たちのために頑張ってくれているんですよ。多少どころか、結構最低だったとしても、応援して上げるべきです。」
やっぱ、真に信頼してくれているのはめぐみんだけ……おい、ちょっと待て、全然フォローになってねえじゃんか。よし、終わったら、あいつらが泣いて謝るまで、折檻してやる。
そんな予定を立てながらも、目を潰され狼狽えている王子の首筋を掴むと、ドレインタッチを全力で発動させる。並大抵の人間なら数秒で気絶するれベルなんだが……。体力を吸われた、王子はすぐさま飛び退き、俺から距離を取る。流石は王族。体力も化けも…ダクネス級だとは……
ただ流石に、このコンボは堪えたらしく、若干ふらついている。
「おのれ…小癪な!一体なんのスキルを使ったのだ!?力が直接吸い取られた…。まあいい、だんだん視界がひらけてきたぞ。」
げ、まずい。
「これでも一国の王子、二度もおんなじ手はくらわん。この視界が開けたときが貴様の最期だ!」
おっと。予想以上にお怒りですね。
「潜伏」
「あっ!」
王子と観客席から驚きの声が発せられる。
誰がチートクラスの高レベル王子何かと真正面から戦うかよ。バーカ!
「おのれ!卑怯者!姿をくらますとは、早く姿を表せ!!」
全く、あまり急かさないで欲しいものだ。
「流石カズマさん!神聖な決闘の場でなんか躊躇もなく潜伏スキルを使うだなんて、伊達にクズマさんやカスマさんなんて呼ばれているわけじゃないのね!」
よし、アクアは後で羽衣売っぱらって、その金で買った高級な酒をこれ見よがしに目の前で、飲み干すという罰を追加だ。
王子の背後から再びドレインタッチを発動させるが、今度は前より警戒されていたらしく大した量は吸えなかった。
そうしてそんないたちごっこを繰り返しているうちに、始まってからどれくらい経ったか分からなくなってきた。やばくなったら逃走スキルで逃げ、斬りかからてても自動回避で避ける。その隙をついてちょくちょくドレイン、こんな単純作業だったが、世間知らずの王子の集中力を欠くのには十分だったらしい。それでもまだまだ倒れる気配がしない軽く二、三時間くらいたったと思うんだけどな。勝負は王子が倒れるか、王子が剣を当てるかの勝負になっていた。貴族たちもなかなか見ごたえがあるのか、王子が剣技を放つたびにおおーだとか、また外したああーだとか声を出しながら観戦している。なんだか水族館のイルカの気分だ。
「先程から、同じ手しか使わない。つまり君は、勝負の決め手になるような攻撃を持っていないということだな!なら今ここで終わらせる。」
やば、本気になっちゃった。本当はもうちょっとおちょくって、体力吸って、弱らせる予定だったんだけどな。
「迅速斬!!」
多分必殺技なんだろう。高らかに宣言したあと、俺に詰め寄ってくる。それを見た俺は焦る様子もなく。
「遂に、諦めたのか!流石の君でも僕には勝てないようだな。僕に恥をかかせたこと後悔させ……」
意気揚々と宣言し切りかかってくる王子に一言。
「スティール」
得物を取られた王子はそのままの勢いで自らの剣に突っ込んでいき……
見事ぶつかり、あっさり気絶していた。
あまりにあっけない幕引きに、国王やアイリスを含めその場にいるほとんどの人が、
「えっ?」
と、声を漏らす。
「勝者、勇者カズマ!」
審判の声とともに腕を上げる。なにはともあれ、勝利できたことはおめでたい。これでいつも通りの生活に戻れるわけだ。
周りの貴族たちからの視線が痛い。なんだか胡散臭いものを見る目だ。あんだけ盛り上げといてそれかよ。とでも言いたげだ。知るか。お前らが勝手に盛り上がってただけだろ。
「そ、それでは、約束通り、どんなのぞみも一つ叶えよう。」
ほら来た。待ってました!
「ええ、それでは遠慮なく。王女様…いいえアイリス様との結婚のことなのですが……」
クレアさん視線が怖いです。最悪暗殺でも…とか言ってんですけど。
「なんだ?」
急かしてくる王。それに対して俺は…
「辞退させていただきたく存じます。」
ざわざわと観客席中がざわめく。
「私は、本人が望まない結婚をすることに反対です。それに私に王族という立場は身に余ります。そして、一番の理由は、今まで住んできたアクセルも町で、大切な仲間たちと一緒に今まで通り暮らしていきたいからです。勝手なことですが、その件について辞退させていただきます。」
観客たちの視線が胡散臭いものを見る目から、尊敬の眼差しに変わる。
「なんて謙虚な。」
なんて声も聞こえてくる。なんかいい気分だな。
「ねえ、あの男結局ヒキニートしたかっただけじゃないの?」
「しー、アクアそういった事を言ってはいけませんよ。確かにそうかもしれませんが、ちゃんと大事な仲間だと言ってくれたではありせんか。」
仲間がうるさい。というかクレアさんの手のひらドリルがやばい。もうなんというか、命の恩人かよってぐらい感謝されてんだけど。
「うむ。それではこのこの謙虚な真の勇者の誕生を祝って、宴の準備を!!」
まあいいか、こいつらのこういうところは今に始まったことはないし、それに一仕事終えたんだ。楽しまなきゃ損だ!こっからはいよいよ。楽しいパーティー時間だぜ!
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