第6話 この素晴らしい秘策に決行を!

勇者。

それは物語に出てくる英雄。

それは世界を救った救世主。

それは人の力を超えた超越者。

そんな勇者に……、俺…サトウカズマは夢物語の存在であるそれに、実際になってしまった。なぜなってしまったという風に表現したのかというと、それは勇者になることで得られるある権利が関係している。それは、勇者になったものにはこの国の王女を妻にする事ができるという権利だ。この権利は王族が勇者という優秀な血筋を取り入れ、更にその力を強固にするためのものだ。つまり、勇者側に拒否権はないということ。しかし、俺としては今までの生活を手放したくない。そんな思いから、今から用意した秘策を決行する。いざ決行するとなるとやはり緊張する。そんな中、俺は今報奨の授与式に来ていた。国王の玉座に向かって跪く俺の後ろにはダクネス、アクア、めぐみんの3人も同じように跪いている。そして大勢の貴族が、俺達の周りを囲っている。アイリスはというと、王様の横でこちらを向いて微笑んでいる。かわいいなと思いながらも、俺は何かやらかしそうなパーティーメンバー達に気を配っていた。どこかのお嬢様は大丈夫だとして、問題は他の2人だ。紅魔族は権力には屈しない種族だといっていたが、流石に空気を読んだのか?いや人一倍仲間思いなこいつのことだ今下手に反発すれば、俺等の首が飛ぶということを理解しているようだ。それはありがたい。というかこいつに至っては仮にも女神なんだろ?いくら王様とはいえ人間に跪くってどうなんだ?まあ、こいつが大人しくしているほうが都合がいい。

「サトウカズマ。此度の魔王討伐につぐ、貴公の活躍を称しここに賞金30億エリスを進呈する。」

30億!?流石に多すぎやしないか、今まで魔王の懸賞金は明かされていなかった。おそらくその金額が問題だったのだろう。魔王軍幹部クラスのやつですら3億エリス程度だ。その十倍と考えるとやはり如何に魔王が危険視されて危険視されていたのかがわかる。それはそうだ、存在するだけでモンスターを強化する存在だなんて、普通に考えれば、ぶっ飛んでる。だからこその30億エリス…。

俺が驚きを隠せないでいると、それは周りの貴族たちも同じようだった。ざわめく周り、これは好都合だ!

「そんな男が本当に魔王を倒しただなんて信じられない。聞けばそいつは、クラスも冒険者の雑魚だと聞く、大方ダスティネス卿やミツルギ殿が追い込んだところをハイエナでもしたのだろう。」

突如として、室内に響き渡る声。その声の主とは……、



そう俺だ!



その声を聞いた途端、確かに…、よく考えればその通りだ…、といった声が貴族たちから発せられる。芸達者になる支援魔法で、どこにでもいそうな声を演じ、このような状況を作り出す……。

まさに計画通りだ!

今思えばここまで必死なって考えて何かをしたことは、今までの人生で初めてかもしれない。それもそうだ、日本では引きこもり、この世界では借金返済のためにあくせくと働くか、パーティーメンバーに振り回されてばかりだったからな。

そして今、俺の人生に置いて一番の演劇が幕を開ける。

今ここで俺が言うべきセリフは……

「確かに、こんなに弱そうな俺が魔王を倒したと聞いてもにわかには信じがたいかもしれませんね。」

高らかと完璧な演技で、

「それでは王よ。この場をお借りし、私の力を証明する機会を用意してはいただけないだろうか?」

決まった!アイリスの話ではこの国の王は面白い事がかなり好きだと聞く。だとすれば勇者の力を知れるこの面白い機会を逃すはずがない。

「うむ。そうか、それではこのあと勇者にふさわしいか見極める試練を与えよう。」

なんだ、この王様嫌にノリノリだな。しかも勇者の試練って俺の仲間に紅魔族が目を輝かせているんだけども。まあ貴族には変なやつが多かったからな。王様が多少中二病でも問題ないか…。

「ありがたく存じます。」

よし、こっからがいよいよ本番だ。王様は嬉々として俺に案内をつける、それに従いついていくと、お城で暮らしていた時ですら、行くことができなかった地下に案内される。そこにはコロセウムのようなところが広がっていた。広さでいえばゼーレシルト伯爵の家にあったものよりも一回りか二回りほど大きく中には城のようなものまで築かれている。城の地下に小さな城があるのかよ。なんてことは今更ツッコまない。なんかもう慣れた。なにせキャベツが飛んで、秋刀魚が畑で採れて、悪魔が着ぐるみに入っているような世界だ。そう考えればまだましな方だろう。

そうこうしているうちに、城の中には複数人の兵隊が入って行った。いや、いくらなんでも多すぎだろ!加減ってもんを知らねえのか加減を!

そう思っている間ににいつの間にか観客席に座っている王様が告げる。

「初めの試練は、この国の兵士百人が守る城の壊滅だ!」

百対一か冗談きついぜ……。

ただでも……


しょうがねえなあああ!!

やってやんよ!!

そう己を鼓舞した俺は……

「それでは開始!!」

開幕の狼煙が上がったとともに、すぐさま行動に移した。

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