第5話 この素晴らしい決意に祝福を!

今日はいよいよ作戦決行の日だ。今朝みんなにはある程度作戦について伝えてある。予定としては、午前中から、報奨金や賞状などの授与が行われ、夕方からパーティーが始まるらしい。

「本当に大丈夫なのですか?いくらなんでも無理があるんじゃ?」

「そうよ。あんたよわっちいんだからあんまり無理するとすぐ死んじゃうわよ。」

「相手だって相当な手練れだ。なあ、やはり違う策を講じるべきじゃないか?」

と、心配そうにこちらを覗き込みながら聞いてくる三人。

なんだかんだ言って、俺も結構慕われているようだ。そう思うとなんだか胸の奥がジンと熱くなる。こいつらのためにも、しっかりとやらないとな。

「何言ってるんだ?こっちとら魔王すらシバいたカズマさんだぞ。今更このくらい、余裕ってもんよ。」

こいつらを安心させるためにも多少大げさに言って見せる俺。

「最悪失敗しても、またどこかに逃げてやり直せばいいわ。」

「そうですよ。いざとなったら紅魔の里で匿ってあげます。流石の王族も天下の紅魔族相手に攻め込むのはかなり厳しいと思いますし…」

「そうだぞ。そうなったら、我が家からも進言してやる。」

そんな嬉しくなるような事をいってくる三人。はじめはなんでこんな奴らと…なんて思っていた、決して優秀とは言えないパーティーメンバー。そんなこいつらと過ごした生活も今思えば案外悪くな…い……のか?あれえー?なんだかこいつらに苦労をかけさせられた記憶しかないんだが、なんかこうゆうときに心配しとくと、それだけで雰囲気良くなってるだけな気が…まあそれでも不思議と不快な気持ちにはならないってことは、なんだかんだ言ってあの生活も悪くなかったのかもしれない。

「そうだな、もしそうなったら頼らせてもらうとするよ……。

それじゃ、いくか!」

そう言って城の門をくぐる。

その瞬間、横に並んでいたメイドのような人から執事、兵隊に至るまで、そのすべてが深々とお辞儀をしてきた。おう、なんだか緊張するな。まるでどっかの大貴族の気分だ。チラッと後ろに目をやるとまあこのくらい当然よねなんて言いながら、満更でもなさそうな表情をしている自称女神と、顔を赤くして照れている家がでかいくせに、贅沢をあまりしてこなかった貧乏貴族のご令嬢、そそてなぜか一番偉そうな、ない胸を精一杯張りながらふんぞり返る紅魔族が見えた。俺こいつらのリーダーなのか。前言撤回、こいつらに迷惑かけられるのは、金輪際勘弁していただきたい。

そこで再び正面に目をやるとそこには、純白のドレスに身を包んだ。まさに王女としてふさわしい格好をしたアイリスと、その付き人クレアとレインが出迎えてくれた。

「お兄様、本日は急な日程でありながらも。王城にお越しいただきありがとうございます。本日はどうぞごゆるりとおくつろぎください。」

完璧な動作でドレスの端をつまみ礼をしてくる。それに合わせて後ろに控えている二人も礼をする。ふむ……我が妹ながら綺麗な格好をしているな。お兄ちゃんとして誇らしいぞ!

「ああ、アイリスか。今日はずいぶんときれいな格好だな。」

「ありがとうございます。だって本日は国を上げての祝賀の日です。王女たるもの、この場にふさわしい格好をするのが当たり前です。」

そういってはにかむと、どうぞこちらにといい、城の中に案内をする。アイリスの話ではこれから自分の準備があるため席を外すそうだ。兄としては妹の晴れ着をずっと眺めていたいところだったが、仕方がない。

「此処から先への案内はクレアたちに任せます。」

「おう、そうか。俺達もなにか着替えたほうがいいのか?」

「いいえ、その必要はありません。本日は冒険者サトウカズマとしてお呼びしましたので、普段道理の格好で構いませんよ。」

先程から妙に怯えた様子のレインがおどおどしながらも口を挟む。

「では、控室まで案内させてもらう。」

そう、強い口調で言ってくるクレアだったが、その視線は俺の手元に向いたままだった。

ああ、あのときのことでまだ俺が気にしているとでも思っているのか。丁度いい、面白そうだしちょっとからかってみるか。そう思いアイリスが去るのを待ってから、すっとスティールの構えをする。そのたびにクレアとレインがビクつくのが見ていて面白い。いつもあんだけ上から目線だったやつがこうも面白い反応をするとは、なんだか癖になるな。そうこうして数十回からからかい倒したあと、後ろからの鋭い視線にいたたまれないくなった俺は、もう気にしていないという旨を二人に伝える。

そして、控室に案内された俺はというと。それはもう緊張していた。ああ、城に入る前はあんだけかっこつけたけど、いざこれからやるってなるとめちゃくちゃ緊張する。もう全部諦めてバックレるべきか、いやそんなことをすればそれこそ社会的に死ぬ。でも今更作戦を変えるわけにもいかないし……。てことはこのままの作戦で行くしかないわけだが……。

コンコンとノックの音が響く。

「ん、誰だ?」

「カズマさん、カズマさん。私よ、私。入っていいかしら?」

その声の主が誰だか俺は知っている。それでも……。

「なんだオレオレ詐欺か……」

「ちっっがうわよ!あんたいい加減にしないと、その減らず口に聖なるグーを食らわせるわよ!」

激昂しながら入ってくるアクア。

「そんで、なにし来たんだよ?」

そう尋ねると、アクアはため息を吐いて呆れた様子で

「なにって、あんたが言った作戦の準備に決まっているじゃない。あんた自分で言っといて忘れるだなんて、もしかして馬鹿なの?普段散々私のこと馬鹿呼ばわりして実は大馬鹿者なの?」

嘘だろ、もうそんな時間か…、やばい心の準備が……

「…カズマ、あんたもしかして緊張してるの?まあ確かに、緊張しても仕方がないような作戦だったけども。安心しなさいな。なんてたってこっちには、偉大なる水の女神アクア様が付いてるんだもの」

「よくわかったな。やっぱり、伊達に一番長い付き合いじゃないな。そうだよ緊張してるんだ。全然安心はできないけど。でもありがとな、なんだかちょっと勇気が出たわ。」

「それならよかったわ。でも変ね。いつもと比べて嫌に素直じゃない。ツンデレってやつかしら。仕方がないから、とびきりのやつかけて上げるわ。」

そういって、いそいそと魔法の詠唱を始めるアクア。その姿を見て、こんなろくでもない世界で、ろくでもない仲間との、何一つうまくいかないばかみたいな生活、そんな最高だったとは口が裂けても言えないような、そんなくだらない生活をおもい返しながら、ようやく決心がついた。俺はこんなろくでもない世界での、こんな問題児だらけのろくでもない奴らとの生活が、どうしてもきらいになれないらしい。

「水の女神アクアの名において、汝に祝福を『ブレッシング』」


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