第4話 この王都への旅路に祝福を!
なんでこうなったんだ。王都に向かう馬車に揺られている俺は今、めぐみんに膝枕されていた。いや、まじでなんでこうなったんだ。いや、落ち着け俺、まずはゆっくり今朝のことを思い出してみよう。
今朝、朝食を食べ終えた俺たちは、その後直ぐに出発するという馬車に乗った。
「この調子で行けば、王都に今日の夕方頃には着けるわね。1日猶予ができたから、今夜は宿にでも泊まって、このお酒でも飲もうかしら。」
そう、手元にある酒瓶に頬擦りしながら喋るアクア。
「そうだな、パーティーまでにまだ時間が余る、明日いっぱい宿に泊まってから、王城に出向くとしよう。」
「そうですね。早く行っても迷惑なだけですし、今夜は宿でゆっくり旅の疲れを癒やすとしましょうか。」
そんないつもの平和なやり取りに耳を傾けていた俺は、昨夜のことを思い出し、恥ずかしさに悶えていた。まじで、本当に、めちゃくちゃ恥ずかしい。なんで俺深夜テンションであんだけ恥ずかしいこと口走ってんの?まじでやばい。死にそう。何が大丈夫、俺に秘策があるんだ、だよ。引くほど恥ずかしいわ!もう、最悪だ!よくあんなんこと平気になっていってくれたな過去の俺!お前のせいで今の俺は死ぬほど恥ずかしい思いをしてんだからな!
というかなんでめぐみんは平気そうなんだよ。なにこれ、俺が気にしすぎてるだけなの?童貞が異性との会話を気にしすぎてるだけなの?はい、そうですか。どうせ俺は異性に対する免疫ゼロの童貞ですよ。あんだけ重苦しい雰囲気だったてのに、俺だけが気にしてんの?よしこいつも気にしてなさそうだし、俺も気にしないようにしよう。うん、そうしよう。そうじゃないと俺の気が持たない。そう結論付ける。
「……ズマ、カズマ、カズマ!聞いているのですか?」
そこでようやく声をかけられたことに気づく。
「ん、ああ悪い悪い。ちょっと考え事をしてて。」
「大丈夫ですか?本当に?昨晩は徹夜して見張りをしていてくれたのですから。あまり無理はしないでくださいね。先程から話しかけていますが、今から馬車の中で仮眠でも取ったらどうですか?」
心配そうな表情でこちらを覗きながら尋ねてくるめぐみん。
「そうだな。なにせ昨日は不眠だったのだ。今からでも、ゆっくり休むと良い。」
と、ダクネス。
「そうね。一昨日も、十分に寝れたってわけじゃなし、私の回復魔法でも、精神の疲れまでは取れないし、ゆっくり休んでも罰は当たらないわよ。」
と、アクア。
「な、なんだよ。いつもはこんなに優しくないのに、一体何企んでんだよ。」
そう、疑ってがかかる俺。
「なんですか!せっかく私たちが気を使って上げているというのに。」
「そうだぞ。人の好意を無下にするだなんて。ん、だがそれはそれで…。」
「謝って!私たちのこと。すぐに疑って来たことについて、謝って!」
確かによく考えれば、今の対応は良くなかったかもしれないな。
「そうか。確かにいきなり疑ったのは悪かったな。そんじゃ、お言葉に甘えて……。」
そう言って俺は揺れる馬車に身を預け、未だ文句をいうアクアを、まあまあと言ってなだめている二人の声を聞きながら眠りについたのだった。
………そして今に至る。うん、まあこうなっても違和感無いな。って違う。どうしてこうなったかが大事なんだ。うっすらと目を開けると、あんだけ寝ていたのに、また熟睡しているアクアとそれにもたれかかられた。これまたぐっすり寝ているダクネスが目に入った。そして、俺に膝枕してくれているめぐみんは、とどのつまり、俺の顔の真上にいるめぐみんはというと、まるで母親がまだ幼い我が子に対して向けるような、そんな温かい目をしながら俺の頭を撫でていた。あったけえ。そして柔らかい。そんな心地良い環境に身を委ねていると、もう細かいことはどうでも良くなる。っそうじゃない!危うく雰囲気に流されるところだった。いや、別に流されても良くないか。だって気持ちいいし、めぐみんも満更でもなさそうだし、別にこのままの状態でも不都合なんてないわけで。じゃあ尚更このままでいいわけじゃないか。そう思いもう一眠りしようかと思った矢先、こちらを見ていためぐみんと目があった。
「あっ、ようやく起きましたか。おはようございます。よく眠れましたか?」
もう少しこのままでいたかった俺は少し残念に思いながら
「ああ、おはよう。おかげさまでよく眠れたよ。やっぱり女の子の膝枕ってめちゃくちゃ柔らかくて気持ちいいな…。なあ、もう少しこのままでいてもいいか?」
「この男!よくそんなセクハラじみたことを本人の前でスラスラと言えますね。いえ、カズマのセクハラは今に始まったことではありませんが…仕方がありませんね。もう少しだけですよ。もう少ししたら代わってください。」
そう、ふふっと笑いながら言ってくる。そういった細かな動作にもいちいちドキドキしてしまい、自分はこんなにもチョロかったのかと不安になるが今はそれどころではない。この今しか味わえない感触をしっかりと堪能しなくては。それから十分程度、この見てくれだけはいい、中身は頭のおかしい爆裂娘ことめぐみんの太ももを十分に堪能したあと。
「ん、ありがと。」
そう言いながら起き上がる、
「どういたしまして、それでどうでしたか?」
どう、というのは膝枕にの感想を尋ねているのか、
「そうだな。なんか…すごい良かった。」
「そ、そうですか…。どう、というのは、疲れは取れましたかという意味で聞いたつもりだったのですが…。というか、もうちょっと言葉を選べなかったのですか?なんだか少し卑猥に聞こえるんですが……。」
ため息を吐きながら、やれやれといった感じで言ってくるめぐみん。
なるほど。そっちか
「おう、そうだな!おかげさまですっかり取れたよ。」
それを聞いためぐみんはくすくすと笑いながら、
「それは良かったです。それじゃあ……」
そう言って、俺の膝にコロンと頭を預け横たわる。
「ちょ、おい急になにするんだよ!」
異性にここまで無防備に密着されると俺としてはもうかなり緊張するんだが、
「急にってなんですか。さっき私は言いましたよ。『もう少ししたら変わって下さい』と。それに長い間カズマに膝枕していたので疲れてしまいました。このくらいはしてもらわないと。」
そう言いながら目を閉じる。
嘘つけ。いつもアクセルの町で喧嘩ばかりしているお前がこんなことでいちいち疲れるわけ無いだろ。そうツッコもうとも思ったが、ここでそんな空気の読めないことを、わざわざするほど俺は鈍感じゃない。それに冷静に考えて、これは恋愛系漫画にありがちなイベントの一つ美少女に膝枕してもらうと美少女に膝枕するというイベントが連続で起きているじゃないか!こんな千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。やばい、そう思うとなんだか緊張が高まってきた。
「そうか。ならいい、べつに膝枕なんて減るもんでもないしな。それに一応世話になったわけだしな、これくらいの恩返しをしないと、罰が当たるかもだしな。そう、それに………。」
そんなことを早口で言っていた俺だったが、やがて自分に顔の下から聞こえる寝息を気づき、その口を閉ざす。
そうだな。こいつもなかなか思い詰めていたみたいだしな。それにしても寝るの早くないか?まあ別にいいかそんなこと。そう思い、眠る彼女のひんやりしたサラサラの黒髪に手ぐしを入れる。それにしてもこいつの髪、触ってて気持ちいいな。家では同じシャンプーを使っているはずなんだが……。まあそこは女子特有の秘訣でもあるのだろう。というか寝顔可愛すぎない。流石に無防備な異性の寝顔はインパクトがある。こいつも黙っていれば立派な美少女なのだ。やっぱり美少女の寝顔は絵になるな。というか、今なら胸とか触ってもバレないんじゃね。そう、他のやつも全員熟睡している今俺を止めるやつなんていないのだ。……いや、駄目だ。こういう時は大抵、都合のいいタイミングで誰かが起きて、変態認定を食らって不味い状態に陥るパターンだ。いや、決してヘタれたわけではない。あくまでここでやるにはリスクが高いと思い、賢い俺は安全択を取っただけだ。ほ、本当だからな。本当の本当に、決してヘタれたわけではない。……そうしていつの間にか日が暮れかかったあたりで、御者のおっちゃんが、
「そろそろ王都に到着しますよ。」
そう声をかけてきた。うーんと言いながら、目の前で寝ていたダクネスとアクアが目を覚ます。
「おはよう。よく眠れたか?」
そう、声を掛ける。
「おはよー、カズマ。そうね、よく眠た…わ……」
そこでアクアがこちらをみて一瞬停止する。なんだこいつもしかして、俺の顔に見惚れてたのか?そうしてアクアがすごい勢いで叫んだ
「カズマ!あんたついにめぐみんに手出ししたわね!何であんたがめぐみんに膝枕してんのよ!?」
「ち、ちげーし。これはあくまで、めぐみんに頼まれてやっただけだ。」
「嘘ね。どうせあんたのことだから。寝ているめぐみんを見て、こんな少女漫画にありがちな王道イベント逃すなんて勿体ない。とかかなんとか思って、膝枕したあとその無防備な姿に興奮して、身体中を触りまくったに違いないわ!この変態!!」
「ち、ちげーわ、この駄女神!!そんなことをするわけ無いだろ。」
なんでこいつこういうときだけ勘が鋭いんだ。確かに思ったけど。だけど行動自体はしてないから俺は無実だ。そう無実。これは単なる風評被害なんだ……。
「そ、そうなのかカズマ!?無防備なめぐみんにあんなことやこんなことをしたのか!?ん、目の前で眠る少女に向かって身体中を弄ったりしたのか?もしかして私達にも……」
そんな、いつも通りブれないうちの変態お嬢様。こいつもなんでこうややこしくするのが好きなんだ。
「お前が口を挟むと余計にややこしくなるから黙っとけ!ああ、もおおおお!」
こうして、誤解を解くににはめぐみんが起きるまでの約十分かかり、誤解が解けるまで二人に変態扱いをされたカズマは、その日宿に着いて直ぐに、部屋に閉じこもり拗ねて寝てしまったのは、もはや語るまでもないだろう。
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