第3話 この素晴らしい馬車の旅に告白を!
馬車の道中、トラブルメーカーのアクアを連れているのにもかかわらず、調子に乗った駄女神の抱えた酒瓶をスティールして外に捨てるふりをして、アクアを泣かせたこと、遠くに見えた繁殖期が終わって大人しくしているはしり鷹鳶をめぐみんが爆裂魔法でぶっ飛ばし、ダクネスが残念そうにしたあと、馬車の中で軽い騒動になったこと以外には特に何も起きることがなく、いつの間にか夜になっていた。御者のおっちゃんの話でも今回は驚くほど順調に進んでいるらしく明日の夕方にでも王都につくらしい、ここまで順調だと今までの旅がいかに大変でいかれていたのかがよく分かる、モンスターの動きがあまり活発と言えないのには、やはり魔王を倒したことが関わっているのだろうか?よくわからないが、知るすべも意味もないのですぐに忘れよう。そこで、後ろから急に声をかけられた。
「カズマさん、カズマさん。今日の夜の見張りのことなんだけど。」
「ん、アクアか俺がやるよ、敵感知スキルと千里眼を持っている俺が見張るのが一番効率いいからな」
「それならいいの。でも、カズマ一人で大丈夫?どうしてもって言うなら、暗闇でも昼と同じように見えるこの私が一緒に見張って上げてもいいわよ。夜中にトイレとか行きたくないかもしれないし。」
「結構です。」
俺に即答されたのが意外とだったのか困惑の表情を浮かべるアクア。
「見張りについても、どうせ騒いで他の人に迷惑変えるだけだろ。それに普段の駄女神っぷりを見てればどうせ途中で寝て使い物にならないだろうからな。」
後ろから無言で首締めてくるアクアを無視して、眼の前にやってきたダクネスとめぐみんに声を掛ける。
「ということだ。俺が今晩は一人で見張りをするから、お前らはとっとと寝とけ。」
「そうだな。私達が起きていても、この闇夜じゃ何も見えない。カズマが見張りにつくことが一番合理的だろう。」
「本当に大丈夫なんですか?カズマ一人だけで徹夜だなんて。」
めぐみんが心配そうこちらの顔を覗いている。
「大丈夫だって、前にも言っただろ。俺の国では、徹夜なんて毎日のようにしてたんだ。3,4日徹夜して、3時間だけ寝る。そんな生活をしてきたわけだからな。今更1日徹夜するくらいどうってことないさ。」
「それならいいのですが。」
めぐみんはそう返すと、すでに寝袋を準備しだした二人の後を追って、行ってしまった。
深夜、みんなが寝てから1時間程度たっただろうか。あたりからは、おっさんみたいな寝相をしているアクアのいびきぐらいしか響いていない。本当にこいつ女神なのか?と真剣に考えそうになった。結局考えても意味ないか。どうやったらこの駄女神の知性を少しでも上げられるか悩んでいると、ちょうど紅魔族にでも依頼して、アクアをゴブリンとのキメラにでもしてもらおうかという意見が浮かんだあたりで、後ろから声をかけられた…………。
「カズマ、ちょっと良いですか?」
「めぐみんか、どうした?眠れないのか?」
「ええ、ちょっと寝付きが悪くてて。」
今日は爆裂魔法を使ってから魔力を分けてない。いつもなら疲れからかすぐ眠ってしまうはずだが。そういえばこいつ朝食の後くらいから元気がなかったような。
「今日は月が綺麗ですね。」
「……ちょっっ!」
いきなりの発言に俺が戸惑っているとめぐみんが不思議そうに
「何をそんなに慌てているのですか?ただ月が綺麗だと言っただけではないですか。」
嘘だろ。月が綺麗ですねって告白の代名詞じゃないのかよ。そうして一人で勝手にドキドキし挙動不審になっている俺を見て、不思議がっているめぐみんの様子を見るにどうやらこの世界では、そういった意味は含んでいないらしい。そこでようやく落ち着いた俺が、
「いや、なんでもない。俺の国ではその言葉は、特別な意味があるってだけだ。」
「特別な意味?一体どういう意味なのですか?もしかして、なにか良くない意味でもあったのですか?もしそうなら…………」
『謝りたいです。』そう言おうとしたであろう彼女が言い切る前に俺は答えた。
「『あなたのことを愛しています。』」
そう言うと同時に俺は初めて彼女の方を向いた。彼女の瞳が紅く光る。
「……えっ……」
「だから、『あなたのことを愛しています』って意味だって言ってるんだよ。」
「えっ…ちょっ……あの……。」
テンパってるめぐみんの顔がだんだんと真っ赤になっていく。それと同時に先程からほんのり光っていた彼女の紅い目がますます輝いていく、紅魔族は感情が高ぶったときにその特徴的な紅い瞳がより一層が紅く光る。
「べっ別にそういった意味で言ったわけではなくてですね。その……単純に、月が綺麗だな〜て言っただけでして……」
そういったことを必死に早口で捲し立てるめぐみんの表情がみるみるうちに赤くなっていく。日頃からかわれてばかりだし、そろそろ仕返しでもしてやるか。俺はわざとうなだれて見せて、
「………めぐみんは俺のこと嫌いなんだな…………。」
「えっ…、あ、あのそんなことをないですよ。というか私がカズマを……す、好きだということは以前から伝えていたと思うのですが。」
赤い顔をしているめぐみんをからかい、その反応が面白くてそう言った彼女の言葉を聞こえないふりをする。
「えーー。なんて言ったんだ。めぐみんが俺の事をなんだって?」
「この男!聞こえないふりですか。はあ、まあいいでしょう。」
彼女は軽くため息を吐いた後、一拍置いてから
「あなたのことが好きだと言いました。」
そんな事を恥ずかしがることもなく、真っ直ぐ伝えてくるめぐみん。ちょ、からかおうとしたほうがなに照れてんだよ、と自分の顔が思わず熱くなるのを感じて思う。そんな俺を見てめぐみんが
「自分から促したくせに、なに照れているんですか。どうしてこう、肝心なところで締まらないというか、なんというか。まあそういういい加減なところもカズマのいいところなんですが。」
そう言ってクスクスと笑う。
「おい、もうちょっといいとこあるだろ。例えば……そう、魔王を倒せるくらい強いとこだろ、あとは頭のおかしなパーティーメンバーをまとめ上げるリーダーシップ、まさに格好いい勇者様のお手本って感じだよな。」
そんな俺の冗談めかして言った一言に対してめぐみんが今度は肩を震わせながら笑うと、
「そうですね。その自信が一体どこから出ているのかはわかりませんが、カズマは格好いいと思いますよ。」
そんな事を恥ずかしげもなく伝えてくるそんなことを言われると、思春期童帝の俺の心臓はすぐにフル稼働してしまう、なにこれすごい緊張する。異性に褒められて嬉しくないはずがないが、いかんせん刺激が強すぎて、嬉しさを緊張がはるかに勝っている。というかなにこのシチュエーション。星空の下、男女が2人で話しこんでいるとかどこのラノベの話だよ。こっからいろいろあんの?なにこの甘酸っぱい雰囲気。なにこれまじで
「カズマは…………。」
カズマは…なんだ?一体どんな事を言うんだ。
「カズマは、カズマは本当に王都に行ってしまうのですか?」
そんな事を消え入りそうな声で、恐る恐る、細々と尋ねてきた。
こっから甘い展開に………。今何つった。王都に行ってしまうかだって?
「?そりゃあ行くに決まってんだろ。今の俺たちはただでさえ金欠だし、それにわざわざ妹がパーティーを開いてくれるんだ。いかなきゃ失礼ってもんだろ。」
そう。別に行かない理由なんてないのだ。大金を手にしてのんびり暮らすために行くんだ。だからこそ、当たり障りのない返事をした。だけどめぐみんは今にも泣き出しそうな声で、
「本当に、本当に行ってしまうのですか?カズマは仮にも魔王を討ち取った勇者です。」
仮にもってなんだよ。ちゃんと倒しただろ。そう俺がツッコもうとすると、
「この国では、勇者に代々、王女を妻にする権利は与えられます。王都に行くということは、王女と、アイリスと結婚するということなんですよ。」
段々と語尾が強くなるめぐみんの言葉に俺は呆然としながら。
………アイリスと結婚?
そんなことを考えもしなかった。確かにゲームでヒロインがお姫様の時にはありがちな展開ではあるが……、そういえば、魔王と戦う直前でダクネスが必死になって討伐するなといってきていたが、あれは勇者が得られるこの権利について知っていたから、止めようとしていたのか。王女と…いや、アイリスと結婚か…考えもしなかった。俺はアイリスのことが好きなのか…確かに異性として見たことがないといえば嘘になる。ただ、アイリスが異性として好きか聞かれたら迷わず首を縦には振れない。アイリスは王女だ、つまり結婚すれば俺も王族になる。毎日贅沢三昧の生活が手に入るのか。今までずっと求めてきた平穏な生活がようやく手に入るのだ。もうダクネスの変態っぷりに振り回されることも、アクアがやらかしてその尻拭いをしたり、くだらないことで喧嘩することも、めぐみんが起こした騒動のために警察署に迎えに行くことも、爆裂魔法で魔力の尽きたこいつをおんぶして運んだりすることも、そんな面倒くさい生活とようやくおさらばできる。前々から思っていたことではないか。この世界でずっと迷惑かけられてきて…それがようやく実現するのだ。そう何も悩む必要なんてない。それに王族になったところで、もう会えなくなるわけじゃない。ダクネスは大貴族だし、俺が言えば別に会わせてはくれるだろう。そうただちょっと、生活が変わるだけ。それも良い方にだ。ただ、なんだろう。このいつもいつも大変で、頭のおかしなこいつらと、面白可笑しくしく暮らしている今の日常と王族になってのんびり平穏に暮らす日常を比べると、自分でも馬鹿らしいと思えてくるが、たとえどんなことがこれから先起きたとしても、この生活を手放すということがたまらなく寂しく感じてしまうのは何故なんだろうか。
「私は嫌ですよ。私たちが日頃からカズマにたくさん迷惑をかけていることは自覚しています。こっちの生活と比べ、あちらの生活がどれほど充実しているのかも分かっています。でも、そうだったとしても私たち4人で一緒にいられないことが、とてつもなく嫌なんですよ。でも……」
そう言って段々とかすれていくめぐみんの声。そしてまた大きく息を吸い込むと、はっきりと言った。
「でも…それ以上に怖いんですよ。あなたがまた、どこかにふっと消えてしまって、もう帰ってこないような気がして。」
そう告げためぐみんの瞳には、今までで一番紅くそれはもう輝いていた。そんな瞳の目尻からはぽろぽろと大粒の涙がこぼれ出ていく。涙を拭いながら、
「怖いんですよ。あなたが魔王とともにどこかへテレポートしていった時、本当に死ぬほど心配したのですからね。あなたが帰ってくると信じていたからどうにかなっていましたが…そしたら突然アクアが消えて、アクアが消えたということは魔王が死んだということだと思い、あなたが帰ってくると思ったのに、どれだけ待ってもあなたが帰ってこないんですよ。それなのに急に私たちの前に現れたあなたは何事もなかったかのように帰ってきて、だからまた、何事もなかったかのようにあなたがいつの間にか、私たちの前から消えてしまって、今度こそもう帰ってこないんじゃないかって、。時々、不安になってしまうんですよ。」
拭っても拭っても、止まることを知らない彼女の涙。
それは彼女の心の内で留めていた思い。
それは涙とともに押さえつけていた気持ち。
それは不安とともに溢れ出てきた独白。
それは恐怖に突き動かされた告白の言葉。
俺は人生において女性と交際した経験がまずない。確かにキスや抱き合うといった付き合ってからするべきスキンシップや、サキュバスサービスによるシュミレーションもしている。しかし、誰かと正式にお付き合いしたことやデートすらしたことがない俺に女心を察せと言われても無理がある。だから、目の前で自分のことを思ってくれて、涙を流している女の子がいてもどうすることもできない。
くそっ……、こんな時ラノベの主人公ならどうする。甘い言葉の一つや2つ囁くべきか、いやだめだ、そんななれないことをしたところで上手く行かないのは目に見えている。いや、待てよ権利ならその場で断ってしまえばいい、なにせ権利だ理由を話せばきっとアイリスだって………
そんな俺の安直な考えを読んだのか、
「権利といっても、王族の権力は絶大です。これを断れば、王家の顔に泥を塗る事になります、そんな事をすれば処刑されてもおかしくありません。」
まじかよ……完全に詰みじゃねえか……なにかないのか……なにか…なにか方法は………
「ごめんなさい。迷惑をかけてしまいましたね。こんなの私のただの我儘ですから、だから………」
そう言って無理やり笑った彼女の涙は止まらない。俺はそんなめぐみんが言い終える前に口を挟む。
「……ねえよ。」
僅かに怒気を孕んだ声で告げた。
「嘘、ついてんじゃねえよ。」
「えっ……」
「一体全体俺たちがどれだけ長く一緒にいると思ってんだよ!?嘘ついてることぐらい魔導具なしでも簡単に分かるわ!この俺をどこの誰だと思ってる!我が名はカズマ!この世界随一の勇者にして、魔王すら打ち倒すもの!!その程度の問題なんざ、朝飯前なんだよ!」
そうどっかのネタ種族の真似をし、意気揚々と告げた俺に対して、ポカンとほうけた顔をしているめぐみん。
「たくっ、しょうがねえなああああ。いつもいつもいつもいつもいつも、お前らの我儘に付き合うのも、厄介事に巻き込まれるのももう慣れてんだよ。
大丈夫だ。心配すんな。俺にはとっておきの秘策があるからよ。」
そう言って、笑いかける俺にめぐみんは、溢れ出る喜びを噛みしめるような、そんな最高を笑顔で笑うと、バッと俺を押し倒し、キュッとしがみつくように抱きついてきながら、俺の唇にキスをした。前にしたようなキスではなく。軽く唇が触れるだけの、そんなフラットなキスだった。それでも、それで十分だった。数秒キスしたあとめぐみんがゆっくり俺から顔を離すと……
今まで見せたことのない、とびきりの笑顔で、
「やっぱり、カズマは世界一格好いいですよ。」
そんなことをさらっと言いながら再び俺の背中に手を回し、今度は俺の胸に顔を埋めた。
さっきから心臓の音がドキドキとうるさい。そうして俺もめぐみんの小さな背中に手を回し背中をさすってやりながら、そっと、優しく抱きしめた。自分でもよくこんな柄でもないことを急に恥ずかしげもなくできるなと思う。そうしてめぐみんは安心するかのように深く息を吐くと、もう離さないとでもいいかのように、俺を抱く腕に力を込める。
「大丈夫。もうどこにもいかない。約束する。」
小さな子供をあやすように、ささやく。そこでめぐみんが小さく嗚咽を漏らし始めた。
やべぇ……なんかまずいことしたか。さすがに馴れ馴れしすぎたか。ここは一旦手を離して……
そう思う手を離そうとする、それでもめぐみんは手を離さない。
「大丈夫、です。嬉し泣き、ですから。だから、だからもう少し、このままで、いさせてください。」
途切れ途切れに小さな声になりながらも、顔を上げずはっきりと告げためぐみんに俺は無言の肯定を返す。十分ほど経ってようやく泣き止んだと思い手を離そうとしたが、それでも手を離さない彼女が、泣き疲れたのか寝てしまったことに気づいたのは、彼女から小さな寝息が聞こえてからだった。俺は目尻に溜まった涙をそっと拭ってやると、そのままお姫様抱っこの要領で彼女を抱きかかえると、寝床まで運び、そっと寝かせた。
「おやすみ。」
そう小さくつぶやき、もといた焚火の近くに戻った。あれだけ長い間喋っていたのに誰一人として起き出す気配がない。そんな静かな夜の中、俺は再び見張りにつきながら…
どうすっかなー。秘策なんて都合のいいもの、用意してるわけがないだろ。それでも、今からでも用意しなきゃ、カッコ悪いしな。あんなこと言っておいて、実は何にも考えてませんでした、なんて言ったら冗談抜きに殺されてもおかしくない。方法でも考えるか………
そうしていつしか夜も明け、
「そろそろ朝飯にしますぜ。」
そういった馬車のリーダーの声を聞き次々と起き上がる人達を見てようやく、今の時間を把握する。もうこんなに経ってたのか。そんな光景をかすんだ目でぼーと眺めていると、
「おはようございます。」
振り向くとそこには、喉の奥につっかえていや小骨がようやく取れたかのような、そんなスッキリとした表情をしためぐみんがいた。
「お、おはよう。」
昨夜のことを思い出し、若干気恥ずかしくなった俺がそう返す。
なにこれ、すんごい緊張するんですけど、昨日真面目な雰囲気で終わったばっかりにものすんごい恥ずかしいんですけど、深夜テンションで一体どんだけ恥ずかしいこと言っちゃったんだよ俺。いたたまれなくなり、ふいっと目を逸らすと、寝不足なのか眠そうな顔をしながら耳の赤いダクネス目があった。そしてすぐ目をそらされた。あれ、俺なんかしたっけ、まあアイツのことだしどうせ硬い地面で目を覚まし、恥ずかしい妄想でもしていたんだろう。うん、そういうことをにしておこう。そんで妄想に俺が出てきたから気まずくなって目を逸らした。うん、完璧な推理。そう勝手に結論付けたあと、未だだらしなく寝ている。自称女神を叩き起こし、みんなで朝食の席へ向かう。朝食のときはいつもと変わらない風景が流れていた。こんななんてことないことでも、なんだか満ち足りた気分になれる。いや、正確にはちょっと違ったか、朝食のときは昨日と比べ、ちょっぴり嬉しそうで、明るいやつが1人いた。
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