第2話 この素晴らしいアクセルから出立を!

頭が痛い。昨夜、夜遅くまで酒をのんでいた俺は、心の中出そうつぶやきながら外に出て郵便受けの中身を見る。冬ではないにせよ朝は少し冷え込む。さっさと終わらせようと中に入っていた一通の手紙の送り主の欄に目を通すとそこにはアイリスの名前があった。その場で数秒止まったあと意を決して中身を見る。読み終わった瞬間、俺は二日酔いも忘れて家に飛び込んだ。

「ひゃっほー」

そこには、いつ起きたのか知らないが、昨夜あんだけ飲み潰れていためぐみんが何食わぬ顔で紅茶をすすっている。紅茶を淹れていたのかキッチンにはダクネスの姿もあり、ソファーには顔を真っ青にしたアクアの姿があった。めぐみんがマグカップから手を話し、

「どうしたのですかカズマ?今日はいつになく朝からテンションが高いですね。なにか良いことでもあったのですか?」

「よくぞ聞いてくれた!手紙が来たんだよ。しかもアイリスから」

アイリスの名前も口にした瞬間めぐみんの表情がなにか苦いものでも飲み込んだときのように引きつった気がしたが、そこでダクネスがはっと息を呑んだ。今更どうしたんだこいつら、俺はほぼすべての魔王軍幹部を倒し、はたまた魔王の城に直接で向かって魔王とタイマンで刺し違える。こんな偉業を成し遂げたやつなんて今までいないだろ。と俺が訝しみながら、手紙の内容を読み上げていった。

「『拝啓 サトウカズマ様

 お兄様、お元気ですか?

 今回のお兄様の華々しいご活躍、この国の王女として心からお祝い申し上げます。

つきましては、今回の活躍に対し王城において称賛会と報奨金の授与を行いたいと存じます。日時に関しては急ではございますが、3日後の10月23日の午後より執り行いたく存じます。パーティーメンバーの方々とどうぞご来場ください。お待ちしております。

PS.冒険譚の方もお聞かせください。  

               ベルゼルク・スタイリッシュ・ソード・アイリス』

だとよ。ついに俺も大金持ちか。しかも、世界を救った勇者に対するパーティーだってよ。どんだけ凄えパーティーなんだろうな。」

ワクワクしながら浮足立ってそう伝えると、今の今まで青い顔をしていたをしていたアクアがどこから持ってきたのかわからない羽衣をかけながら話しかけてきた。

「やったわねカズマ!高級なお酒も飲み放題よ!まあ世界を救ったわけだし、当然といえば当然よね!!」

そういえばこいつの羽衣には浄化の効果があるんだったか。よし今度飲みすぎたときはスティールで剥ぎ取って使わせてもらおう。

「3日後ですか、、、今は手持ちをマナタイトにほとんど使ってしまっていますから、今から急いで準備して馬車で王都まで向かう必要がありますね。」

「そうなのか?まああれだけの量のマナタイトを用意したんだ。テレポート屋は何かと値が張る、ここはめぐみんのいった通り馬車で向かうのが一番だろう。」

めぐみんの話にダクネスが賛同する。

………………。

ふたりともなんだか気だるげな表情をしているがどうしたのだろうか?まあ今すぐ準備して馬車で行くと考えたら多少は面倒臭いかもしれないが、これから手に入る報奨金と素晴らしいパーティーのことを考えれば、そんな気も晴れてくるものだろう。

「じゃあ。私は早速準備してくるわ。」

とスキップをしながら階段を駆け上がるアクアを見送ったあと俺達も各々の部屋に戻っていった。


準備を整え、乗り合い場までついた俺達は王都行きの馬車に護衛として乗り込む。客として乗るよりも安くすむし、お代ももらえるからとめぐみんが言い出したからだ。たしかにそうだが、俺としては楽に馬車で揺られていきたいと思っていたんだが、あれでもめぐみんは高レベルの冒険者だ。急とはいえ御者さんに冒険者カードを(習得スキル欄は勿論隠して)見せたら二つ返事でOKをもらえた。そういえば魔王城に出発する前の時点でレベル50に届きそうだったよな。……………あれだけのモンスターを一掃したんだ、今のレベルはどれくらいなのだろう、後で見せてもらうとしよう。そう思いながら俺達は馬車の一隊の中のちょうど真ん中の馬車に乗せてもらう。

「これからいよいよ王都に向かうのね。ちょっと遠いけど、楽しみは取っておくに限るしね。」

アクアが持ち込んだ高そうな酒瓶に頬ずりしながらつぶやく。

「…ん、たしかにそうだな。」

と少しもそんなことを思っていなさそうに今まで上の空だったダクネスが答える。

めぐみんも小さくため息をついて、

「まあ、せっかく王都に行くのですから、多少なりとも観光していきたいですね。」

と、同じく気だるそうに答える。朝からこいつらのテンションが異常に低いがどうしたのだろうか?もしかして生理でも来ているのだろうか。まあ多分きっとおそらくそうだろう、でも俺はそれも口に出すほど空気の読めない男じゃない。……………でも、めぐみんももう生理がくる年なのか?はっきり言って、体系的にもまだ早いと思うのだが……。

「おい、いまダクネスと私を見比べて考えたことを素直に言ってもらおうか?」

やっべ、バレた。

「め、めぐみんのほうがダクネスより大人だなと」

「そうですか、そうですか。一体どこを見てそう思ったんですか?」

怖い、何この娘なんでこんな怖い笑顔ができるの?

「それは……その〜」

俺が目を泳がせながら、渋っていると。

「まあ、もういいですよ。カズマのそういった態度は今に始まったことではありませんし、もういい加減慣れましたよ。」

と呆れながらめぐみんが言った。そういっているうちに馬車が動き出した。いよいよ大金持ちになれるという期待に満ちた俺は、ワクワクとしたどこか落ち着かない気持ちを押さえつけながら背中の方で小さくなっていくアクセルの街を見送ってた。

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