第6話 覚醒

「ハァ、ハァ」


 喉が、横っ腹が痛い。呼吸がし辛くて苦しい。


 私は、肩で呼吸をする。


 全速力で走ったとはいえ、いつもならもっと何倍も普通に走れたはずだ。


 それに、それに!結局逃げてしまった、彼を置いて。


 私に出来ることはなかったのか。逃げる以外選択肢はなかったのか!


 彼は…もう、死んでしまうのか。


 嫌だ、私にこれからどうしろというのか!


 彼はありったけの息を込めて叫んだ。


「ああああああああぁ!」


 あああぁ、嫌だ、嫌だっ。


 いつもこうだ、皆、勝手に死んでいく!


 きっと、また居なくなるんだ!


 ……いや、落ち着け!何か出来るはずだ。考えろ。


 リアムは自問自答する。


 彼を助ける?いや、それが無理だったから逃げたんだろう!馬鹿なことを。


 いや、だが、彼が「とっくに俺を超えてるぜ」って言っていただろう!


 いいや、たとえ一部の技術で超えていたとしても、経験が足りなければ無理だろう!竜は勿論、魔物と戦ったことなど一度も無い!


 いちど、もない…?


 その筈だ。この七年間、狩っていたのはどれも動物。一番強いものでも、大型のやつくらいだ。


 いいや、私は戦ったことある。何度も何度も戦った事があるはずだ。あんなのと比べものにならない強敵と。


 そんな事実はない!


 なぁ、覚えてないのか、私がエルフだったときのことを。何万年も生きたあの日々を!

「なにを……」


 私は気が狂っているのか!?


「――――いや、」


 そうだ!


 何故、忘れていたんだ、私は。


 ハハッ、馬鹿か、あんなのに怖じ気づいて、あげくの果てにはアルチュールという大切な人を置いて逃げだして。


 私は様々な経験をしてきた。あの程度の敵など、容易く葬れるはずだ。


 彼は綺麗な笑みを浮かべていた。


 ――手遅れになる前に早く行かなければ。

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