第4話 another side
『知り合いが公開オーディションに出るので
よかったら応援に行きませんか?』
知人から連絡が来たのは9月の半ばだった。
9月はライブやイベントで地方遠征も多く
指定された日も舞台挨拶イベントがあった。
会場が同じ池袋、始まる前に少しだけ
時間があったので、出演時間を聞いて
二つ返事で引き受けた。
アイドルのオーディション観覧は初めてで
特に興味もなかったが、知人の顔を立てて
拍手などで盛り上げればいいか
ぐらいのテンションだった。
当日、会場であるサンシャイン60の
噴水広場前は、行き交う買い物客などで
かなりごった返していた。
運良く二階の右サイドに場所を取れたので
知人とも合流し、その時を待った。
イベントスタート。
本日は最終選考、一人ひとりの
ラストアピールのようだ。
1万人から29名に絞り込まれた
女の子たちが次々に登壇していく。
わずか0.3%未満という激戦を
勝ち抜いてきただけあって、
誰もがとても可愛く魅力的だった。
熱烈なファンの派手な声援もあり
ピリピリした空気というより
和やかな雰囲気で進む。
四方八方からの衆人環視のなか
笑顔の中に緊張が見える子
歌やダンスを披露する子
なぜかスライムを作る子
などアピールは様々だった。
ついにお目当ての子の順番が来る。
元々、人見知りと聞いていたが
顔を上げてキラキラした笑顔で
精一杯アピールをしていた。
知人と共に盛大な拍手を贈った。
その刹那、一人の候補生に視線がいく。
位置的に横からしか見えないが、
その彫刻のような横顔に一瞬で目を奪われた。
『マ、キ、?』
まだ出番ではないため、
胸元のゼッケンがよく見えないが、
かろうじてカタカタ2文字を読み取る。
彼女の出番となり、最終パフォーマンスは
オーディションに賭ける自らの想いを語る
スピーチだった。カンペなど読まず
自らの想いに感情を乗せて言葉を綴っていく。
と同時に、後ろの大きなモニターに、
正面からの顔が映し出される。
『………!』
息を呑むなどという表現は、せいぜい
漫画か小説の中ぐらいと思っていたが、
全く言葉が出てこない。
周囲の雑踏すら聞こえないほどに、
知人の声かけにも反応できないほどに、
モニターの中の美麗な姿から
目が離せなくなっていた。
『彼女はいったい何者なんだ……?』
これが、未来のアイドルを
全力で応援するオタクが誕生した瞬間だった。
続
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