泡遊記(ほうゆうき)
花野井あす
虚ろの鬼
荒海に遺されて 壱
しゃらん、しゃらん。
しるべの鈴の
古い日記だ。
遠い、遠い先祖が記したもので、この手元にあるものすらも過去に書き写したものだ。元となる書はもう
この日記を手に入れたとき、舞い上がるような喜びに満たされた。
ずっと知りたかったのだ。
知りたくて知りたくて、けれども誰ひとり知る者はすでになくて。
だから書という書を読み漁り、探し求めた。そしてようやく、この手におさめた。この何代目かのものですら文字はかすれて読むのにはたいへん骨が折れることだったけれど、それだけの価値はあった。
(お
応えはない――あるはずがない。
その黄ばんでよれた
ふと、
「
返事はない。
誰かが呼んだような、そんな気がしたのだ。だがそこにあるのは静寂に包まれた部屋と、すうすうと寝息を立てている女たちのみである。
しゃらん、しゃらん。
また屋根から吊るしたしるべの鈴が鳴った。
ここは船の上で、その下は一面たいらな海原である。
交代で船を
船は夜のなかをすべっているのだ。
(あれは……)
遠い黒塗りの地平が
丸めた紙みたいだ。それはだんだん大きな壁のようにまくり上がりながらこちらへ近寄ってくる。
――あれは、何であろうか。
じっと目を凝らしながらもそんなことを考えていたが、押し出された夜が目の前まで押し寄せてきてようやく、
――しまった。
そう心の奥底で叫んだがすでに遅い。
それは波だ。轟音を立てて打ち付け、船体を大きく揺らがす
伏せてしがみついていたがとうとう海へ投げ出され、
――しゃらん。
しゃらん、しゃらん。
しゃらん、しゃらん、しゃらん。
(鈴の音……?)
違う。
あれは魂をつかさどる
しゃらん、しゃらん。
薄れゆく意識の隅で、そのふたつの
(お
たましいとうつわ。
こころとからだ。
彷徨える
(また、出会えるのですか)
今は亡き、祖父。
今は亡き、愛しい者たち。
彼らは
月光もとどかぬ
❖ ❖ ❖
ひとつに、
ひとつに、
その
境とはすなわち
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