第14話 黒咲 奏 異能力【氷華】
私は裕福な家庭の長女として産まれました。母や助産師さんは私が産まれた時にとても体温が低く、まるで死んでいるかのように思われたそうです。そのせいか私は体が弱くてよく部屋に引きこもっていました。最初は両親も含め私を気にしていたようですがそれも私が小学生になる頃には1人を除いて誰も私を見なくなりました。
「やぁ奏、気分はどうだい?」
「お兄様、なぜここに?」
「可愛い妹を愛でる以外に理由なんて無いよ」
私より3つ年上の裕司兄様はいつまでも私のことを気にかけて今年は中学受験なのに講義を抜け出して私の所へ来てくれていて私はそれがお兄様のためにならないと分かっていても嬉しかった。
「困ります裕司様、貴方は次期当主としての...」
「自覚を持てだろ?わかってるよ。もう少し待って俺は今カナデニウムを摂取しているから」
当然今はそんな訳の分からない物質を摂取している時間ではないのでお兄様は使用人の人達に連れていかれてしまった。最後まで吸わせてと終始言っていたが流石長年お兄様に仕えていただけあってみんな華麗にスルーしている。変人と言われれば否定はできないお兄様、だけど私はそんなお兄様が好きで、憧れで、私もついて行きたいと幼心に刻みました。
その後お兄様は無事に中学受験に成功し、今度は私も中学受験、お兄様は外部進学で同時受験でしたが優先はお兄様で私は後回しとなって家庭教師は1人つけてもらえましたが週3日なので他は1人で勉強していました。まぁ今にして思えば体の弱い私はお兄様みたいに毎日教鞭を執ってもらう訳にもいきませんですしね。
「やぁ妹よ、勉強はどうだい?私が教えてあげてもいいんだよ?」
「お兄様は自分の勉強に集中してください」
「いやいや、過去に学んだことを教えるのも立派な学習方法の1つだよ」
こんな感じで半ば強引に私の勉強を週に1回くらいのペース教えてくるいい家庭教師もいたので私の学力も上がっていきました。
そして冬...クリスマスが近づいて例年なら飾り付けられるところですが今年は受験生が2人いるからとお父様が軽めの飾り付けだけにしてパーティーも無しにしたそうです。その代わりに1日だけ使用人にも暇を出して家族で外出しました。
「裕司、こんな時まで勉強か?」
「そうだよ父さん、油断出来ないからね今回は」
「あらあら、奏の前だからってそんなに格好つけなくても良いのよ。いつもはこんなの余裕だよと言って勉強なんてしないじゃないの」
「ちょっと母さん!」
2人ともお兄様をつついてはお兄様が反応するそんな会話が車内で永遠と続く、お父様達は私のことを見ていないのかもしれないと思うと家族の輪から外された気分になって心臓が締め付けられる。
「奏はどうなの?勉強は順調か?」
私の様子を見たのかお兄様が私に声をかけてくれた、けどお父様達の前でいつも通りに声が出ず大丈夫と小さく呟いただけで終わってしまった。
(私のバカ、なんで話せないのよ)
私のせいで場が静寂に包まれる。まるで氷のように何も動かず、揺れず、空気が一瞬にして凍りついてしまったようだ。
この氷を溶かそうと私が声を出そうとした瞬間に異変は起きました。ガラスが割れるような音が響き、車を停めて窓ガラスを確認するが1枚も割れていなかったが原因はすぐに私達は理解してしまいました。空に大きな裂け目ができていてそこから無数にこの世のものとは思えない生物が這い出てくるのを目の当たりにしたのです。
「みんな早く車へ!とりあえず逃げるんだ!」
家族で一番最初に動いたのはお兄様で私達は車に乗り込んでその場から逃げ出しましたがどこへ行っても裂け目が無くなることはなく、いつしか私たちの車は化物達に攻撃され、横転してしまいました。私は意識こそ失いませんでしたが足に怪我を負い、その場から動けなくなってしまい化物はお構い無しに私に近づいてきました。何度も来るなと叫んでも止まることなく恐怖を与えるかのようにゆっくり近づいてくる化物を見て私はここで死ぬのかと思い、声も出さずにその時を待ちました。
「おい化物ども!お前らの獲物はこっちだ!」
お兄様の声がして咄嗟に横を見ると頭から血を流し明らかに私よりも重症のお兄様がいました。化物もお兄様に気づいたのか私を無視してお兄様の方へよっていきました。腕はありえない方向へ曲がり、身体中にガラスの破片などが刺さって動く度に血が吹き出しているのにお兄様は私を、家族を助けるために囮になっている。
(私の方が...私の方が囮に...なれるのに...どうしてこの体は動いてくれないんだ。どうして)
私は私が嫌いだ、いつもお兄様に助けられてきたのに何も返せない私が本当に嫌いだ。私は...
《そんなに自分を傷つけないで》
「誰?」
私に話しかけているの?でも周りにはそんな人は見当たらないがまた脳内で声が聞こえてきた。会話に集中するために目を閉じて意思で会話する
《私ならあなたがあなたを好きになるお手伝い出来るかも》
(何を言っているの?そもそもあなたは誰?)
《私の名前は---》
名を口にした途端私の体温が一段と低くなったそして地面に触れている部分がとても冷たくなって炎上した車から感じる熱も感じなくなった。目を開けると凍てついた世界があった。建物も車も植物も化物も人以外の全てが氷で閉ざされ、時の流れを忘れていた。
《よくできたね、次はあなたがもっと成長した時に...》
その後のことはあまり覚えていない。次にはっきり覚えているのは大晦日に病院のベッドで目を覚ました後のことで私が異能力を使った事、そして今はそんな力は見当たらないってことそしてお兄様はまだ目覚めていないことを教えてもらった。幸いにもお父様とお母様は無事で私よりも早く退院していたようで私が目覚めたと聞いて迎えに来てくれた。家に帰ると避難民で溢れかえっていて庭には無数のテントがはられていた。食料や水も私達の備蓄を使って供給しているようでもうすぐ無くなると言われたがその前に政府が避難民を移動させてくれたのですぐに何とかなった。落ち着いてから気づいたが私の髪が黒髪から銀髪に変わっていてとても驚いたこともあったが私達は確実に日常に戻り始めていた
あれから3ヶ月程経って世界は化物討伐組織を創設すると言って世界防衛機関を設立し一旦化物との戦いは終止符を打たれたのでした。そして私もある戦いが終わったのでした
「お嬢様、合格おめでとうございます」
延期された受験を乗り越えて私はお兄様と同じ中学に進学することが出来ました。私はこの報告を誰よりも早く伝えるために病院へ向かいました。
「お兄様、私お兄様と同じ中学へ進学出来ました。ほらお兄様の可愛い妹が頑張ったのですよ?早くその手で頭を撫でてください」
言葉を紡ぐほど涙が溢れてくるが我慢してお兄様の手を握る。温かい、ちゃんと生きてるはずなのに生きているとは思えないほど骨ばった手の感触が脳に伝わる。そしてお兄様の手が私の頭の上にくることはなかった。
中学生になって生活すると常に私には兄の影が付き纏った。先生や先輩達は私はを黒咲裕司の妹としか見ておらず私を見てくれる人は少なかった。けどクラスメイトには恵まれて私は年相応の中学生として、黒咲家の令嬢として生活できていた。
楽しい中学生活もあっという間に終わりに近づき、内部進学と外部進学で悩む時期で教室内はその話題でいっぱいだ
「奏様はどうなされますの?」
「まだ決まってないよ」
当然私にもそんな話題は聞かれる訳で結構な人にかなりの頻度で聞かれる。悩むべきなのだろうけど私はどうしてもその先を見据えるのができなかったし考えもしなかった。頭の片隅にはいつもお兄様がいて、ここにきたのもお兄様が目覚めるかもというなんとも希望に満ちた淡い考えからだった。小学生から中学生にもなればそれがどれだけ無理なことか起こらないことかは理解出来る、けど最後の希望のように私はお兄様が受験なさるはずであった高校に決めました。
私はお兄様ほど賢くなかったので勉強は難航しましたがお兄様が目覚めると思って必死に頑張りました。そして秋も終わりに差し掛かり冬の息がかかってきた頃私の周辺で異変が起きました。
「なによ...これ...凍っているの?」
ある朝目覚めると部屋全体が寒く、一夜にして冬が到来してきたと勘違いする程でした。そして痛む身体を起こしてベッドが硬いことに気づいて触ってみると手からひんやりとした感覚が身体を駆け巡る。部屋全体を見回そうと顔を上げると扉がドンドンと叩かれて人の声がした
「お嬢様!開けてください!」
どうやら扉が凍りついて開かないみたいで私も急いで開けようとしてもなかなか開かない。このままずっとここで1人なのかと心配になって、これからのことを考えてしまって次第に荒々しく扉を壊し始めた。手始めに椅子をぶつけてみたり、ハサミで氷を砕こうとしたり試行錯誤を繰り返して全て特に何も出来ずに終わった、窓も試してみたけどこれも氷が硬くて割れない。ついに私は部屋に座り込んでしまいました。肩を震わせて、冷える指先を息を吐いて暖める、室温が次第に低下していっていくのがわかる。
(このまま私死んじゃうのかな?)
意識が朦朧としてきて地面に身体を預けたら一気にまぶたが重くなり、意識が薄れていくのを感じながら扉が蹴破られる音を聞いた気がする。
目覚めると病院のベッドの上にいて久しぶりの天井を見ていた。医師からはあなたに異能が発現したので来年から世界防衛機関に行ってもらうことそしてあと半年は異能の制御に集中してもらうとだけ言われた。私は信じられなかった、神様はお兄様はもう目覚めないと私が合格したとしてもその結果は変わらないと言っているような気がしてなりませんでした。
「お兄様、私はどうすれば...」
以前よりも少し細くなった手を握り、その日はお兄様の病院で寝泊まりしました。それから1週間はまず生活に支障が無くなるまでコントロール出来るように練習して翌週からは私は学校に行きながら異能の制御に力を尽くしました。落ち込んでる暇があったらこの力でたくさんの人を守れとお兄様が言っているような気がしてひたすらに抑制出来るように、自在に操れるように。
そして入隊式の日がきた
誰かと出会った
誰かと共に生活し、戦ってきた
誰かと喧嘩して離れてしまった
誰だっけ?
今までの苦しみを少し忘れさせてくれる人
《やっとここまできたじゃんあと少しだよ》
私の氷をその焼き尽くすような炎で溶かしてくれる人
《貴方が初めて見つけた》
私がお兄様以外で初めて憧れた人
《本当は》
離ればなれなのは嫌な人
《思い出すんだ》
忘れたくない人
暗い世界で1人考えているとひらりと何かが落ちてきた。拾い上げるとそれは1枚の花弁、桜の花びら、ふと顔を上げると暗いはずの世界に色が染まる。一面の桜と川が流れていてとても綺麗な景色であった。夕焼けに染まる桜はまた違う美しさがあって見るもの全てが心に入ってくる。この景色は記憶だいつかの誰かとみんなと出かけた日の記憶で私は自然と言葉を口にした。
「来年はお花見に行きましょう」
振り向いたあの人、今まで
「うん!絶対に行こうね!」
小春さん、早瀬小春さん
私の苦しみを少し忘れさせてくれる人
その焼き尽くすような炎で私の氷を溶かしてくれる人
お兄様以外で初めて憧れた人
離ればなれなのは嫌な人
《思い出せた?それなら次にやる事は分かるよね》
「はい、こんなところにいる訳にはいきません」
記憶の風景が消えていくと次第に白い光が私を包み込んだ。私の意識が覚醒する前にあの子にお礼を言わないと
「クロセルのおかげです。ありがとうございます」
《なっ...!?そっ、そんなに褒めても何もあげないよ!》
「ふふっ、それでは私は行きます」
《うん、気をつけてね!》
次第に光が強くなっていきそして私は目を覚ました。
外は戦闘中のようで轟音が響き渡っていで私はこんな中寝ていたのかと少し自分に驚きつつ武器をとって医療室から出た。現在渚さんが防衛線をはっているようですが化物が多すぎて攻撃できていないようです。私は刀を地面に突き刺し、異能力を発動させる
異能力【氷華】
刀から地面が凍り始めてものの数秒で全ての化物を氷漬けにすることが出来ました。今までとは比べ物にならないくらいの感覚、今ならなんでも凍らせることが出来るとそんな自信に溢れていた。とりあえず渚さんを救出したので小春さんのことを聞くとここには居ないとだけ聞かされてどこに行ったからも分からないが何となく感じる。炎を、熱を私が感じ取れている。
けど行けない、ここの化物はまだまだいる渚さん1人だとまたさっきみたいになってしまう。早く行かないといけないのに...
異能力【鬼】
「鬼人化!」
化物が吹き飛ばされたと思ったら九鬼さんがいつの間にか目を覚ましていたようでした。それだけじゃなくて医療班で治療を受けていた全ての隊員が目を覚まして戦闘に参加してきました。その数15、十分すぎる数です。
「渚さん、私が小春さんを必ず助けます」
異能力【氷華】『氷翼』
背中から氷で翼を創り、飛んでいく。
世界防衛機関 戦闘記録 夢の続き @dream_neru
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