第13話 暗雲

 防衛拠点 医療班


「重傷者!治療系の異能力者はすぐに集まれ!」


医療班が騒がしくなった誰か重傷状態で運び込まれるのか?少し前に忍達もここに来ていたしどんどん戦力が削られてきている。医療班の様子を見ていると外から湊医療班長に抱えられてきたのは私達のよく知る人物であった。銀色の輝長い髪、私達と同じ赤と黒の隊服。紛れもなく奏の姿があった。いつもと違う点があるとするならば腹部に突き刺さる植物のツタの様なものとそこから際限なく溢れてくる赤い血液、奏の生命の雫が滝のように流れていっている事くらいだ。私は一瞬状況が理解出来ずに立ちすくんでいたが白はそうでもないようですぐに奏の元へ駆け出して、渚くんや陽菜ちゃんもそれに続いて医療班のテントに入っていった。


「奏が...いなくなっちゃうの?」


状況を頭が処理していくと同時に想像もしたくない予想が私を支配する。訳も分からず私は走った。目的地は分からないけどとりあえずあの場から逃げたくて、現実を見たくなくて、私は無我夢中で走っていた。


 奏が湊班長に抱えられてきた時、俺は一瞬だが湊班長の顔を見た。険しさと焦りが混じったような顔でなんとなく予想出来てしまった。


(奏、お前はまだやり残していることがあるだろ!)


俺にはあの日の後悔と似たような感情が溢れ出して堪らず奏の元へ走り出してしまった。テントに入ると奏以外に負傷者がいたが奏には4人が尽力していた。


「いいか抜くぞ....3 2 1!」


奏を貫いていたものが抜かれると一気に出血量が増える。輸血パックが3つ繋がれて今治療系の異能力者が懸命に奏の命の残火に息を吹きかける。


「ダメです!損傷が大きすぎます!」


「つべこべ言うな!やるんだよ!」


「輸血パックもっと持ってこい!」


どんなに治療しても出血が止まることは無く輸血パックを消耗するだけであった。これ以上やっても無駄だというのが嫌でも分からされる。けど医療班の人が諦めていいないんだ、俺たちが諦める訳にはいかない。


「何か!俺達にも出来ることは!」


振り返って他の3人と出来ることを模索しようとしたがそこには2人しかおらず、1人足りない。小春が足りない


「渚、小春はどこに行った?」


「小春さん?外じゃないですか?」


あいつまだ引きずっているのかよ!まぁいい外で話そう


「小春、お前見向きもしないとかさすがに....」


外には小春はいなかった。こんな時にどこに行くんだよあのアホ!


「あぁぁぁもう!陽菜、無理をさせるがお前の異能力でって渚、陽菜はどこだ?」


「え!?あっホントだいない!」


テントの中に置いてきたかと思ってまた中に入ると陽菜が奏のすぐ隣まで行っていた。


「かなねぇ、死んじゃ嫌」


「お嬢ちゃん、大丈夫だよ必ず助けるから」


「じゃあ早く助けて、生命力がどんどん減っていってるよ」


陽菜が邪魔をしているように見えてしまっている。いや邪魔はしているけどけど役に立てるはずなんだ。俺も説得して何とかしないと。


 時間が経過するにつれて負傷者が増えてきて俺達も猫の手も借りたい状態で回していた。俺も靴擦れのせいで足が痛い。そんな中での子供の勝手な言動に少し腹が立ってくる


「早くつまみ出せよ。子供はここに来んなよ」


「ちょっと、あれでも一応隊員なのよ。私達と違って前線にも出ているの」


「けどあいつらずっとここにいるじゃん。前線に出せないくらいの実力なんじゃないの?」


「あのね!痛っ!メスで指切っちゃった」


「早く止血しないと」


「いいえ後でよ、その前にこの人の処置を」


「俺達は異能力者では無いんだ、ちゃんとした医療技術を駆使しないといけないんだ。だからその指をほっとくのはダメだよ。絆創膏でもいいから」


わかったよと渋々指を差し出してくるがそれらしい傷は見当たらなかった。メスの切れ味が良すぎたのかな?必死に探しても出血してもいないし傷もないけど指にはちゃんと血液が付いてるし、俺だって切ったところを見ている。そして俺はある異変に気づいた。


「床から花が...なんで?」


直接地面に面している訳ではいないのに床から花が咲いていた。花は次々と生えてきて成長し、遂には俺達を囲い込んでしまった。


「見て傷が!」


そう言われて下を見ると、さっきまで出血していた隊員の傷が塞がっていき、しまいには完治してしまった。驚いてたち上がった時に私は足の違和感が無くなっていることに気づく。靴擦れが治っていた。


「これは、一体...」


異能力【生命誕生】『生命のゆりかご』


 陽菜が異能力を使ったと思うといきなりテントが植物で埋め尽くされてしまった。


「おい陽菜!お前何を」


陽菜に問いかけようとすると周りで何かが起こっているようでざわつき始めた。よく周りを見るとどうやら次々と負傷者の傷が治っているようだ。タイミング的に陽菜が治したのだろう。けどこれはかなり負担がかかるはず


「陽菜!」


陽菜の様子を見るとかなり異能力の侵食を受けている。体には花が咲き、既に半分程度は体が植物と同化していた。これ以上は陽菜がもたない!


「陽菜、もう大丈夫だ!奏の出血も止まってるし後は任せよう!」


声をかけても陽菜は止まらない。暴走状態だ。陽菜の奏を助けたい意思が強すぎて制御が出来ていない。俺は陽菜を抱き寄せて必死に声をかける。しかし異能力は止まらないし陽菜の体重はどんどん減っていき触れている所も人肌から植物のような感触に変わっていく。


「止まれよ!頼むから止まってくれぇ!」


俺が叫ぶと同時に辺りの気温がグッと下がったと思うと陽菜が作り出した花が次々と凍っていき、砕けた。陽菜も落ち着いたのか7割くらいが植物となったところで止まった。


「今のは一体?」


辺りを見回しても誰も異能力を使った形跡は見当たらない。なんなら誰も状況を理解出来ていない様子だ。俺はとりあえず陽菜を花束を抱えるように慎重に抱えてテントを出る。近くの木に座らせると今度は上空に裂け目が出来た。これはまずいな、現在動けるのは俺と渚だけ、医療班や負傷者を守りきれるか?


「日和るな俺!来い!化物共!」


 逃げしだしてから数分、私は疲れてその場で膝をついてしまった。立ち止まると途端に涙が溢れ出てくる。


(最期があれなんて嫌だよ)


《なに後悔してるのさ》


イフリータがいつになく冷たく私に言い放つ。それが私にとってはかなり心をえぐられる


《私達はいつ死ぬか分からないんだ、さっき挨拶した人間が1時間後には死んだと言われても不思議じゃないんだぞ》


「だって、、だってぇ!」


ひとしきり泣いた後私の心にはある1つのあまり良くはないって言われるとある感情だけが私を染める。


「奏をあんな目に遭わせた奴、まだ生きているよね。許せないね。殺すしかないね。ぐちゃぐちゃにしてあげないとね」


自分でも驚くほど気分は落ち着いていたと思う。怒りとかそんな小さい感情ではない。これを世間では復讐心って言うのかな?復讐は良くないって言われているし私も良くないって思っていたけど、考えを改めたほうがいいかもしれない。


《行くんじゃないよ》


「止めないで、私は今...」


《冷静さを欠く人間を戦地に行かせるほど私も馬鹿ではない、死ぬぞ》


「じゃあ死なないようにお前がもっと力を貸せよ。まだ全力、出していないだろ?」


《私が全力出したら貴方がやけ死んでしまうからね》


「それは一度上げた上限は戻せないから?」


《そうね。だから貸さないの》


なんとなく想像は出来たけど当たりのようだ。貸さないとか言っておきながらなんだかんだ私が危ない時は貸してくれるからその甘さを利用しようかな。


異能力【獄炎】『爆裂』


地面を叩きつけて宙を舞う、かなり高くまで行けた。これでイフリータも今のままではこのまま地面に激突して死んじゃうから上限を上げてくれるだろう。


《貴方死ぬ気!?》


「間違えてやっちゃった!あーあ誰かが助けてくれればなぁ〜今の私だとこのまま死んじゃうかも〜」


《貴方...》


イフリータは諦めたのか力の元栓を少し緩めてくれた


異能力【獄炎】 『不死鳥再誕』


背中から炎で出来た翼が出てきた。これで空は自由に動けるようになって機動力が上がった。


「ありがとねイフリータ」


お礼を言っても何も返事してこない。礼儀がなってないやつだな。


 防衛拠点 医療班


「また裂け目が発生したぞ!動ける職員は足止め!隊員はその場の討伐が終わり次第向かうように!」


拠点も裂け目が次々と発生して混乱状態に陥っていた。僕もいつの間にか白くんとはぐれちゃったから防御しか出来ずに後手に回ってしまっている。このままじゃ削りきられてしまう。でも僕がやられたらこの後ろにある医療班の皆さんや本部で指揮を執っている嵐長官が危ない


「僕は負ける訳にはいかないんだ!」


 防衛拠点周辺 山林


 どれくらい本部から離れてしまっただろうか?陽菜に意識を割きながら戦闘していたら渚と分断されてしかも本部にも帰れなくなってしまった。陽菜はまだ意識が戻っていないから抱えて戦うしかないが片手じゃ辛い。


「何とかして戻らねぇと俺も本部も終わりだ」


 防衛拠点 指揮班


「前線の裂け目の追加は今のところは無いようだな。そしてそれがこちらの方に集中してきている」


こちら側は隊員が04Eと治療を受けた隊員しかいないからどうしても物量が多いと劣勢にならざるを得ない。翔渡の航空機をこちらに戻せば少しは楽になるかな?


「航空機をこちらに戻そうか。翔渡にもそう伝えてくれ」


いざとなったら俺が出るしかなさそうだな


 京都市上空


「私達がここに来て30分が経過し、戦闘は激化するばかりです。航空機も何機も撃墜されもう残りわずかしかありません。これが化物の力なのでしょうか?」


「航空機はお前らのせいで撃墜されてんだわ!帰れ!」


再三言っても帰らない報道ヘリを守るのも限界がきている。残り100機程度しか俺には残されていないし、燃料も早急に補給しないといけないのに効率が悪くなるし、こいつらがいる限り対空攻撃1回で3-4機が確実に犠牲にしないといけないしでいい事が何一つ無い。


「翔渡さん、航空機を本部に戻して防衛に参加してください」


「わかったこれから発進する機体からそっちに回すよ」


もう他人を気にする余裕は俺には無いからなあとは自分でどうにかしてくれよ


「ご覧下さい。航空機が一斉に本部の方へ戻っていきます。一体何が起きてるんでしょうか?ですがこれでもっと近づけます。詳しく見てみましょう」


「バカなんで近づくんだよ!」


ヘリが降下していくのを見て咄嗟に注意したが時すでに遅しヘリは投石でズタズタにされて墜落した。そしてヘリに気を取られていた俺も被弾してしまった。一気に体力が削れて気分が悪くなる。


(まだ寝るな!まだ...)


清水寺付近

焔達と結託しても最高火力を叩き込むために間合いに入ろうとしても相手の手数が多すぎてまともに入れもしない。一瞬でも間合いに入れたら焔が大ダメージを与えられるはずだ。俺に残されたあと3回の時間停止で焔をあの化物の元へ送らないと。


「時乃、時止めはもう使い果たしたのか?」


「まだ使えるよ。3回だ、この3回でお前を援護する」


「わかった。それじゃ頼むよ」


俺達は化物に突撃を始める。それに合わせて遠距離からの攻撃も始まった。これなら俺達の注意も少しは疎かになるだろう。


「攻撃がくるぞ!」


間もなくして俺達にも植物の攻撃が襲ってくる。いくつもの巨大な茎が俺達を串刺しにしようと地面に穴を開ける勢いで空から降ってくる。避けながら切り刻みながらどんどん化物に接近していく。残り5mというところ空からだけではなく地面からも攻撃がくるようになった


(限界か、時よ止まれ!)


時間が止まり、全てが凍りつく。このまま焔を投げ飛ばす!


「いっけぇぇぇ!」


腕を振り抜いた途端に再び時は動き出して焔が飛ばされる。そして攻撃の隙間を抜けた。これは焔の間合いに入った!


異能力【焔】『昇炎天』


焔の攻撃は確実に当たったと思う炎に包まれてよく見えないけどあの距離なら避けられないだろう。あとは高く跳ね上がった焔をキャッチして離れるだけだ。


「焔ー!今そっちに行くからなー!」


大声を上げて焔を回収に向かうと焔が焦るように俺に言い返す。


「こっちに来るんじゃない!まだっ」


何か言いかけた時焔が消えた、いや飛ばされた。炎の中から攻撃がきたのだ。焔は俺を見ていたせいで反応が遅れて避けられずにそのままぶっ飛ばされた。そしてその直後にどこかの山の中腹あたりで何がぶつかった音と砂埃がたつ。


「焔!おい焔聞こえてんのか!返事を」


〈避けろ時乃!〉


焔をぶっ飛ばしても攻撃は止まらず次は俺を捕捉してまた始まった。


「焔!焔っ!」


何度繋げても焔の声は聞こえてこない。頭の中に良くない妄想が湧いてくるが出てくる度にかき消して希望を抱く。


(焔は大丈夫だ。アイツが帰ってくるまで死なないようにしないと)


 比叡山 山中


〈焔!おい焔聞こえてんのか!返事を〉


(時乃?...我は...今...)


頭を強く打ったのか脳震盪で上手く思考が働かなくてただ背中の大地の感覚と右足にある異物感だけを感じる。


「焔先輩大丈夫ですか!?」


翼を持つ誰かが来たが我の意識は大地へ沈んだ

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