第12話 旧都 襲撃
襲撃を予知して翌日には京都市内の住民から隣接する県境まで計画避難が発令され、京都近辺はもぬけの殻となり代わりに異能力者が所々に配置されて警戒態勢を維持している。
「こちら京都市上空です。ご覧下さい、京都市は現在特別戦闘区域に指定され、住民は全員避難し街には異能力者があちこちに見られます。それに——」
「そこのお前ら、邪魔だー!墜とされても知らんぞ!」
「ご覧下さい!これが異能力でしょうか無数の航空機が私達を取り囲んでいます!しかも脳内に直接私達に語りかけてきています」
「聞こえねぇのか!このタコ!」
上空の報道ヘリが超うるさいしかも俺の航空機操作の邪魔!
「篠田!あのマスコミを黙らせろ!」
「やってるよ。規制もしてるし一部のマスメディアは接触禁止にもした。でもコレだ!どうしても規模が大きいから大手から中小、東北地方の記者も来てんだぞ。完全には抑えきれねぇよ」
「だとしても戦闘区域に侵入だけはされるなよ!避難区域までは許すけど!」
一応避難区域も一般人の立ち入りは禁止しているんだけど、なんか『表現の自由だー!』とか言って押し入ってくる。なんでや来んなよ!巻き添え食らっても知らんぞ
各チーム戦闘配置について1週間程経過して未だに襲撃の予兆は見えない
「おい黒咲そこまでにしておけ、ウォーミングアップは重要だかそれじゃあ実戦でバテるぞ」
黒咲は前々から私達のチームで面倒をみている。様子を見ていると1度も元のチームメイトに顔を出していないようだ。しかも夜遅くまで自主練をして深夜に帰ってくることも普通になってきた。おかげで何も無いところから硬度の低い氷くらいは生成出来るようにはなってきたようだ。さすがに先週あたりから生活習慣は矯正したが、努力癖は治っていないようで戦闘配備されても暇な時はいつも異能力の練習をしている。でもこれじゃあ戦闘で使えないかもしれないので止めてはいるがこれが止まらない。
「焔、あいつを止めさせろ」
「了解」
勝田から指示があったので黒咲を止める。離してくださいと言いながら暴れるが無駄だとわかるとすぐに大人しくなった。
「おい黒咲、ちょっと焦ってないか?何怖がってんだよ」
「大丈夫です私は」
「大丈夫じゃねぇから言ってんだろ」
これは少し難航しそうだ
色んなチームが前線に配備される中、私達は後方支援部隊に配属されて主にサポート役をすることになった。拠点の防衛が私達の任務、戦場より少し離れた所で待つだけの場所だ。この拠点には篠田長官や夜見先輩がいて全体の指揮をしている。あとは翔渡先輩がここから戦闘機を飛ばして航空支援、湊医療班長と医療班が負傷者の手当てをここでする。前線にこそ出ないがここが陥落したらみんなが死ぬ、そんな重要な場所を私達4人で守る。
「お前、結局奏と仲直りしたのかよ」
「...してない」
白がデカいため息をついて本当にコイツはみたいな顔で私を見る。私も頭を冷やしたわよ。悪かったとも思ってるし謝りたいとも思ってる、けどお互い頑なに謝ろうとしないせいで時期を失っちゃったしあれから奏と会えてないのよ。仕方がないでしょ。
「知らないぞ俺は」
「あんたには関係ないでしょ」
言い争いをかき消すがごとく大きな声が通信機を通じて耳に入る
〈襲撃が来ます!〉
7月12日 10時42分 襲撃開始
清水寺付近 01A、02C担当
「来たぞ!総員戦闘態勢!」
次々と裂け目が発生し、あちこちに化物が出現する。
「予知通りだな、速攻で片付ける!」
先輩達が先行し、私は氷でサポートをする氷を足場に高さを稼いだり、道を作って滑るように誘導したり、敵を足止めしたりしていく
(大丈夫、私はもう前の私じゃない)
嵐山区域 04D、03A担当
「頼むよ酒呑童子!」
「スクナ、サポートしますよ」
九鬼と忍で西方面は抑えられてる、残りは僕と先輩達で何とかしないと
「虎子!藤野!行くよ!」
「はい!」
旧日本帝国海軍 舞鶴鎮守府 防衛機関仮設拠点
「敵の出現位置は」
「ほとんど予知通りだね。的中率95%くらいかな」
司令部はかなり忙しそうだ、ここは予知では1番被害がなかった場所なので裂け目は発生していないが油断は出来ない。夜見先輩いわく予知がかなり変則的に変わっているようだ。
「予知で京都が確実に陥落するようならすぐに隊員を撤退させて被害拡大を防ぐ、京都から出させはしないからな」
「分かってるよ篠田」
後ろでは色んな会話をしているが私達はいつ襲撃されてもいいように周囲を警戒する。現在優勢か劣勢かは分からないけどいざとなったら私が...
「貴船神社の04Bから航空支援要請、翔渡!」
「了解!近くにいる8番から10番隊、支援攻撃を開始」
ここは暇だけど南の方は結構激戦のようです
襲撃開始から10分経過...
嵐山区域 西方面
「九鬼、そろそろ下がりましょう。もうあなたにあげれる部分がありません」
戦闘が始まってずっと化物を殲滅し続けているがそろそろ忍が限界だ。既に左腕と右眼を使ってしまった。これ以上の欠損は忍への負荷がデカすぎる。化物も増える一方だし、ここは忍に従って風丸ところまで後退しよう。後退しながら空を見ると現世とは思えないほど赤黒く、禍々しい雰囲気が漂っている。
「なんか多くね?」
「予知で聞いているでしょう。分かっていたことです」
「それはそうだが限度ってもんがあるだろ」
決して楽観視はしてなかったけどこれ程とは思わなかった。後ろは大量の化物が追っかけて来てるし、どう対処したものかな。
「九鬼、1度竹林で撒きましょう。このまま合流する訳にはいきません」
「その傷で複雑な道に入ってもいいのか?」
「私の能力を忘れたのですか?このくらいスクナがどうにかしてくれてます」
今こうやって自由に動けているなら大丈夫か。竹林で奴らを撒こう。
襲撃開始から30分経過
清水寺付近
「くそっ!いくらなんでも多すぎだろ」
かなり長い間休憩も無しに戦っている気がする。倒しても倒しても息を整える暇もなく化物が出現する。討伐ペースも落ちてきて倒しきる前に次の化物が出てくる事も多くなってきた。このままじゃあ...
「黒咲!」
意識が現実に戻されて気づいた時には1体が私を標的に攻撃を仕掛けてきていた。集中力を他のことに割いていた私に即座に反応ができる訳もなく無防備のまま攻撃を受けてしまうと思った時、いきなり化物がバラバラに切り刻まれた。
「気を...抜.くなよ」
ゼェゼェ言いながら私の横にいつの間にか時乃先輩が膝をついていた
「時乃!」
焔先輩が私達を守るように立つ。私はすぐに体勢を整えて再び異能力を使う。まだそこまで硬くはないけど少しの時間くらいは稼げる。
「このままじゃ囲まれて終わりだ。上だ、清水の舞台目指していくぞ。行けるか?」
「はい!」
焔先輩が時乃先輩を背負って上目指して走っていく。建築物、特に文化財とかはなるべく傷をつけたくなかったけどもうそんな事は言ってられない。道が狭い分大群を処理しやすくなるはず。
「時乃は少し休んでおけ。危ない時はお前な異能力が頼りだからな」
時乃先輩を安全なところに置いて再び焔先輩が帰ってきた。
「さぁ!もう1回だ、また奴らをボコボコにしてやるぞ」
焔先輩に鼓舞されて士気が上がった。これならまだ持ちそうだ
襲撃開始から45分経過
伏見稲荷大社付近 担当04A、02D
異能力【光速移動】
「これで25体目...」
知ってはいたがこの量を捌くのは骨が折れそうだ。この時間が一体どれくらい続くのだろうか。
「白河隊長!」
異能力【照準固定】
華村が私に向けてライフルを乱射するが全て私を後ろから襲おうとしていた化物に命中する。戦闘中に考え事は良くないな、反省だな。
「白河、大丈夫か?」
「私は問題ないです。先輩方の方は?」
「俺らもなんともない。まだいける」
化物は数こそ多いがそれだけだ個別の強さはそこら辺の雑魚と同じだ。甘い動きだけはしなければ全然怖くない
防衛拠点 医療班室
「負傷者の治療を急いで!」
戦況はこの負傷者の数で何となく分かる。急いで治療して前線に返さないとすぐに押し負ける。ギリギリの状態がずっと続いている。私達がここで踏ん張らないと前線のみんなが死んでしまう
「湊先生!急患です。治療をお願いします!」
「わかった今行く」
私達が頑張らないと!
防衛拠点 司令部
「夜見、未来はどうだ?」
「予知が固まってきて2択くらいまでは絞れた」
「聞かせてくれ」
「京都陥落、私達も壊滅状態で終わるバットエンド、もしくは京都も私達もほぼ無事で終わるハッピーエンドの2択だよ」
「どこが分岐だ?」
「...詳しくは分からない。けどもうすぐそこまでその時はきているよ」
その時がきたら私はどうしたらいいんだろうか?隊員の安全をとるか?それとも...
「篠田!逃げるぞ!」
腕を掴まれて外に出されるそれと同時に上空に裂け目が発生した。
「さっきまで見えなかった!予知の変則因子はこの裂け目が所々に発生していたからか」
かなり大きい裂け目からは大型の化物と小型の雑魚が次々と出現してくる。何とかしてここで食い止める!医療班の元には行かせない!
異能力【火炎】『炎閃』
突然赤い閃光が迸ったと思ったら化物達がいきなり焼き尽くされた。
「篠田長官、お怪我は?」
「私はなんともないよ。ありがとうね」
護衛についていた04Eの4人が来てくれたようだ。小早川の話だと攻撃力は焔達と並べる程あるとの事だったはず、そこまで敵の量も多くないからすぐに片付けて指揮に戻ろう。
「小春!あまり前に出すぎるなよ」
「分かってるよ。渚くん、デカい攻撃の守りは任せたよ」
「任せてください」
早瀬達も準備万端のようだ、それじゃあこの邪魔な奴らを叩き潰そうか。
襲撃開始から1時間経過
京都市上空
「こちら京都市上空から中継です。あれが化物でしょうか?異形な生物と異能力者が戦っています。現在京都府以外にも警戒情報が発令され、化物を発見した際は速やかに———」
「なんでこの状況でくんだよ!アホか!帰れ!」
時間が経ってマスコミ達がどんどん集まって侵入してくる奴らも出てきた。やめてくれ...本当に。さっきまでここも戦闘していたんだから、安全な所はないと思った方がいいよ。
「篠田長官!戦況の方は?京都は大丈夫なんですか?」
「やかましい!こちとら作戦中だ!邪魔すんな!」
なんで規制しているのに入ってきてんのこいつらは!ぶっ飛ばすぞ!ここも安全じゃないんだぞ。いつ裂け目が
「また来るよ!戦闘用意」
「きちゃったよぉぉぉ!」
今度はさっきよりも少し小さい、そんなに手強いやつは出てこないと思うが邪魔が多い。変に範囲攻撃をすると記者たちに当たりかねない。
異能力【身体強化】
「俺だって、強くなったんだ。こんくらいやってやるさ」
神崎が1人化物の大群に突撃していった。そして拳でどんどん化物を粉々に粉砕していく。かなり力をつけたようだな。異能力で強化しているとはいえ虫型の化物の外殻を拳で粉砕するのはなかなか出来ない芸当だよ。5分もしない内に第二波は凌いだ。記者たちは腰をぬかしてそこら辺にへたりこんで動かない一部気を失っているやつもいるし。邪魔だ...
「現在京都市上空から生中継でお送りしております。テレビの前の皆様、見えますでしょうか?これが現在の京都市内です。建物は破壊され、一部の文化財も破損しているように見えます。京都は一体どうなってしまうのでしょう」
「聞こえねぇのか!帰れって言ってんだろ!」
本当に邪魔だ、動かないならまだしも自由に動き回られると攻撃機を操作しずらくなってこの上ない。そして俺はいざとなったらこいつらを守らなきゃいけないってどういう事やねん!俺がそうなる前に墜としたろうかな?
「翔渡!対空攻撃がくるよ。回避!」
「ちょっと待って!今は!」
長野の時のように大量の岩が飛んできた。普通なら回避動作に移せるけど避けたらこのヘリに当たる。1回目は当たらなかったが守るために何機か集合させないといけない。ダメージは覚悟だ、でもこれで帰ってくれる。
「ヘリを守る。4機ほど集まれ!それ以外は散開!」
ヘリを守るように機体を重ねて飛行する。続けて2回目の攻撃が飛んできて守りに就いた3機が撃墜されてもう1機は燃料タンクに穴が空いた。帰ってこれるか微妙な感じだ。でもこれでアイツらも...
「これは!皆さん見ましたか!攻撃がきました!この攻撃のせいで航空機3機が落ちていきます。1機もどこかへ行ってしまいました」
「お前らのせいだよ!お前らの!分かったら帰れ!」
「皆様私達は身の危険を顧みずにこの地を皆様にお送りしています!」
「脳みそ溶けてんのかよ!」
「3回目!くるよ!」
まずい!もう4機集まってヘリを守らないと!
襲撃開始から1時間30分経過
清水寺
「まだ...終わらないの...」
後退しながら本当に舞台まで来てしまった。これ以上は時乃先輩がいるから下がれない。何としてもここで食い止めないと。深呼吸をして再び集中する
異能力【氷華】
化物の足を封じてそこを焔先輩が叩く。
異能力【焔】『炎刀』
焔先輩も二刀流で攻撃力を上げてるけどさすがに限界に近づいてきている。かく言う私もほとんど体温が奪われて低体温症で意識がとびそうな状態で戦っている。
「まだ、私は...こんな...ところで.....」
《帰りたい、帰りたい》
幻聴が聞こえて来てしまった。そろそろ私も限界かも、いや少し前あたりからとうに限界はきていた。立っていれずに膝を地面についてしまった。
「黒咲!」
ぼやける視界の中焔先輩が駆け寄って来てくれているが、その背後で私はおぞましい物を見てしまった。
(なんですか、あの巨大な裂け目は?)
今まで見たことないほど巨大な裂け目が京都の大空に広がっていた。明らかに異常だ、知らせないと。私な必死に指をさす、けど焔先輩は振り返ることなく私に向かってくる。
(私のことはいいですから、それより後ろの裂け目を警戒してください)
《帰りたい、帰りたい、帰して!》
1番よく聞こえた気がする。焔先輩も聞こえたようで周囲を見回している。そして後ろの巨大な裂け目に気づいた。裂け目からは巨大な変な杖を持った人型の化物が出てきて周囲を破壊している。
(なんですか、あの化物は)
化物は周囲を破壊し尽くすと次は私達の方をターゲットにしたらしく杖を私達に向けてきた。すると地面から植物が生えてきて私達にすごい速度で向かってきた。
(みんなを守らないと!)
異能力【氷華】
私は能力でその植物を氷らせて動きを止めれた。けど全ては無理だったようで私の体に1本の植物が貫いた。
異能力【時間停止】
「時よ止まれぇぇ!」
遅かった!一瞬だった!とりあえずこの3秒の間に植物を切り落として抜かれないようにしよう。
「時は動き出す」
黒咲が血を吐いて倒れ込んだ。植物は切り落としたら刺さったままだが抜かれたら血出すぎで死んでしまう。けどこのままじゃどちらにせよ死んでしまう。
「この子は私が医療班の元に連れてくよ」
いつの間にか湊が来ていた、湊に任せれば安全には行けると思うが、この子は助かるのだろうか?いや!そんなことを考えるな!今は...
「目の前のコイツをどうするかだ。行けるか焔」
「お前こそ時間はあと何回、何秒止められる?」
「3回、3秒、2秒、1秒だ」
「それじゃあ、いくぞ」
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