第11話 亀裂
「それじゃあ俺は行ってくるぜ」
「私も行ってきます」
「行ってらっしゃい」
チーム会議から二週間、梅雨が近づいてきて最近雨が多い。白と奏は相変わらず朝早くにトレーニングに出かけて夕方に帰ってくる生活をしている。さすがに任務の時は一緒にいるがそれ以外の時間で行動を共にすることが減った。それぞれ強くなれるように努力している。私はというと未だにイフリータやスクナ、酒呑童子達の事について調べている。小早川先生や焔先輩にも質問したが特に情報は無く難航している。
「小春さん、ここの問題の....」
渚くんは勉強熱心だな、もう君についていけてないよ。元々義務教育までしか受けてないから高校の勉強なんて知らないし、そもそも中学校で学んだ事は異能力の扱い方と刀、銃器の使い方だけだよ。数学なんて聞いたことないよ、算数なら分かるんだけど。
「小春ねぇ!みてみてお花!」
あ〜、陽菜ちゃんは癒しだよ。太陽のようなその笑顔は私を陽の方向に連れていってくれるよ。
《今日は何するのよ?》
「今日は陽菜ちゃんを愛でて終わるのよ」
「最近思ってるのですが小春さんは誰と話しているのですか?」
「あ〜、いやなんでもないのよ。うん」
時間が経ってもイフリータの声はみんなには聞こえていないようで皆に度々誰と話しているのかって聞かれる。対策としてはそもそも声に出さなくても会話できるからそこら辺を徹底することくらいかな。
「やることが無いのなら僕部屋の掃除をしたいです」
「掃除は一応だけど毎日やってるじゃない」
「それでももう1ヶ月以上しっかりやってないですよ」
「細かいところは確かにできてないよね」
別にやりたいことがあるわけじゃないしやってみますか
「それでは小春さんは女子部屋の掃除をお願いします」
「うん、渚くんも男子部屋をよろしくね」
箒と雑巾を持って掃除を始める。陽菜ちゃんはリビングをやってもらってる。
「渚くんの言う通りね、一見綺麗だけど細かい所に埃が溜まってるね」
箒を使って埃をちりとりに集めていると奏の机に頭をぶつけてしまった。ぶつけた衝撃で机から何かが落ちた。
「いてて、ごめん奏なにか落としちゃた。まぁ壊れてはなさそうだし許してくれるかな?」
拾ってみるとそれは額縁で中に写真が入っている。
「家族写真?でも奏が居ない?」
夫婦だと思われる人の間には男の子と女の子が並んで立っていて、身長とかを加味すると多分男の子の方が年上だと思う。奏の家族とも思ったけどみんな黒髪だ、現在の奏は銀髪だから違う家族の写真?でもそんな写真を額縁にまで入れて飾るか?
《あまり詮索するもんじゃないよ》
「なんでよ?」
《どれだけ考えても貴方には理解できないよ》
「イフリータはわかるの?」
《いや?全然わからないけど?》
「なんだお前」
まぁでも言う通りだしあまり考えないようにしよう。世の中深く考えない方がよいことが沢山あるし
防衛機関 参謀部
「暇っすね」
「………」
「ちょっと聞いてるんすか?」
「………………」
椅子に座った2人の影、片方がずっと話しかけるがもう片方は一切反応せず、ただ目を閉じている。
「今日はいつにも増して真面目じゃん。そんなに今日の夕飯が気になるのか?」
「…………………」
「わかったよ!そんなに今日の夕飯が気になるなら勝手にしろ!」
「......が来る」
「は?」
「日本に危機が来る!!」
目をつぶっていた方がいきなり立ち上がって叫ぶ。驚いたのかもう1人は椅子から落ちてしまった。
「どっ....どうしたよ」
「早く篠田を呼んでこい、あと小早川とかもだ」
まだ朝早いというのにいきなり招集がかかって睡眠の時間が削れてしまった。めんどくせぇけど緊急招集だから行かないといけない。廊下を歩いていると後ろからぞろぞろと俺を抜かして会議室に向かってく。
「おい!小早川!早く行くぞ!緊急の招集だぞ!」
「ちょ?!康介引っ張るなよ」
会議室に入ると慌ただしく様々な機材が準備されている。まだゆっくり来れたじゃん、無駄な体力を使ってしまった。
「みんな集まったな。こちらの準備はまだだがとりあえず何を話すか言っておこう」
「そんなに慌てて一体何が起こったのかにゃ?」
篠田がかなり険しい表情でとんでもない事を言い出した
「京都が危ない」
辺りが途端にザワつく、対策を講じる声など前向きなものが多いのだが、そんな声は準備の終わったスクリーンに一枚の画像が映し出された途端に驚愕の声に変わった。
「この画像は
映されたのは一面火の海の京都だった。そしてその中でおびただしい数の化物がいた。
「もちろんコレは最悪の未来だ。しかし、こうして予知されている以上私達は最悪の場合全滅すると未来は言っている」
「もちろん私達は簡単にやられるつもりはにゃいけどね」
「そうだ、我々は幾千の戦を切り抜けてきたのだ。簡単には負けたりはせぬ」
さすが強い人は言う事が違うな。まぁ分からんでもないがな。けどよ...
「俺達はそうかもしれないが次世代の者達はそうでも無いぞ」
そうだよな。後輩がそんなに強くいられるかが心配だよな。なんてったってこの予知だもんな。
「それで小早川、お前に聞きたい。4期生はどうだ?この戦いについてこれそうか?」
あ〜めんどくせぇなんで俺なんだよ。あぁ俺が教育係か
「え〜とですね。まずAはいけます、最近の任務も高水準でこなしていますし。あとは....Dがいけますかね、なんだか少し前の遠征で何が得たのでしょうか、防御をそのままに攻撃面も上がってきて特に九鬼隊員と忍隊員の連携が磨きがかかってこの2人で1チーム分の働きをしてくれています」
「AとDだね了解した。逆についていけなさそうなところはあるのか?」
この世代は基本ハイスペックが集まっているが強いて言うなら
「E....ですかね」
「それはなぜかな?彼女らは遠征も経験しているけど」
「彼女らの戦力なら十分ついていけます。それはそうなんですが、最近、長野から帰ってから焦りがあるように見えます。仮想訓練での損害率が以前よりも2割ほど増加していて、他チームと比べてもダントツで高いです」
現状、彼女らを前線には出したくないのが俺の意見だ。きっといや必ず出したら死ぬ。
「なるほどねぇ。夜見、彼女らを前線に出さなかった場合どんな結果になる?」
「分からないよ!私が分かるのは結果だけ!過程は知らない!個人の結果は見れば分かるけど、そんな事している暇はないよ!てか今詳しい時間を見てるんだから邪魔しないで!」
つまりこれは結構大切な判断になるな。けどいわば総力戦のような構図だし多分
「よし、彼女らは後方支援にまわそう」
うんうん、そうだよね。後方支援に.....後方...支援?
「マジか!?」
「どうした?お前が無理だって言ったんだぞ」
「それはそうですが...」
驚いた、てっきり少しでも戦力が欲しいから前線に送ると思っていたけど。これが成功か失敗かは神のみぞ知るってやつだな
「それでは我から提案というか頼みがあるのだが」
「どうした焔?」
「04Eから1人引き抜きたい隊員がいるのだが良いか?」
焔がスカウトするとは珍しい事もあるんだな。明日は雨が
「わかった!!!!!!」
夜見が飛び跳ねながら叫ぶせいで場が凍るが夜見は気にせずにボードに書き込んでいく。
「襲撃は最速で7月1日、1番可能性が高いのは7月12日~16日、1番遅くて20日!」
7月か、時間が無いな。
「わっ..わかったよ。ありがとう夜見。んで、焔は一体誰を引き抜くの?」
「04Eの———」
「私...ですか?」
「あぁ、君は早瀬と一緒のチームで我も早瀬も似た異能力の持ち主だ。今回04Eは後方支援なのだろう?」
お昼頃に緊急招集がかけられて衝撃の予知を聞かされた後に焔先輩が話しかけてきた。どうやらうちのチームの奏が欲しいみたいだ。今回私達は後方支援だから別に良いんだけど。
「そうですが、私は小春さんと同じようには...」
奏が大丈夫じゃないっぽい。けど戦力は多い方がいいと思うから行った方がいいと思う。
「大丈夫だよ奏。私達は4人でも」
「後ろにいるだけだし気にするな」
「僕たちの代わりに化物を倒してください」
「カナねぇ頑張って」
全員で信じて送り出しました。
次の日からは奏は焔先輩達のチームと一緒に訓練に行くことが増えて帰りも更に遅くなって私達が寝静まった後に帰ってくることが増えました。
「おかえり奏、今日も遅かったね。お風呂温めなおしたよ」
「ただいま帰りました。小春さん」
いつもの冷静さというかポーカーフェイスさが消え去って疲れが顔に出しながら帰ってくる奏はとても辛そうだった。送り出したのは失敗だったかな?お風呂から上がって夕飯を食べる時に聞いてみよう
「奏、焔先輩達はどう?大変なら今からでも...」
「やめてください。私は大丈夫ですから」
「でもこんな時間まで!」
「これは、私が勝手にやったことです」
勝手に?別に私達は奏が勝手に焔先輩達のところへ行ったと思ってないのに
「別に誰もそんな事...」
「先輩達と戦うと嫌でも分かります。自分の無力さが」
俯いて話す奏の声が、ご飯を食べる手を止めてフルフルと震える。顔はよく見えないがテーブルに雫が落ちていくのは分かる
「仮想訓練もいつもよりもレベルが高く、戦力の温存を考えて戦っても今の私では常に全力で取り組まないとすぐに攻撃を受けてしまいます。そして疲労し、集中力が切れた瞬間に一撃を食らい、そのまま私を守りながら先輩達が疲弊し、そのまま全滅なんて沢山ありました。私のせいです。もっと強くならないと、守られなくてもいいように、守れるように」
「だから訓練の後にコソ練か」
天井を見上げながらそう呟くと
「小春さんは良いですよね。そんなに強ければ守られる事なんてないでしょう」
ちょっと棘のある言い方で少しムカついてしまって言い返してまった
「まぁ、私には守らないといけない人がいるからね」
「それは...どういう意味ですか...」
奏の様子が変わったが気にせずに続ける
「言葉のまんまだよ。うちのチームには私が守らないと危ない人がいるってことよ」
ガタン!と音を立てて奏が席を立って荒い口調で言う
「私が!どれだけ努力しているのか知らないくせに!」
私も立ち上がって反論する
「でも事実でしょう!私が居なかったらどうなってたか分からない時がどれだけあったと思ってるの!」
この時初めて奏の顔がよく見えた、奏は今までに無いくらい泣いていて、信じていた人に裏切られたような顔をしていた。
「小春さんなんてもう知りません!」
そう言い残して奏は玄関から飛び出てしまった。私は再び席に座ると寝室から白が出てくる。
「どうした?なんか騒がしいが奏はどうした?」
「奏なんて知らない」
白は何かを察したがもう寝ろとだけ言ってきた
玄関から飛び出して廊下を歩く、涙が溢れて止まらない。
「小春さんなんて知らないです」
分かってる八つ当たりだって。いつまでも成長出来ない私に私は腹立っているのに小春さんにぶつけてしまった。でも小春さんも酷いです、あんな言い方しなくても
「とりあえずはあそこに行きましょう」
向かう先は01Aの部屋、焔先輩達の場所です。そこで泊めてもらいましょう。
「誰ですか?こんな時間にって黒咲じゃないか。どうしたんだ?」
「その少しの間ここに泊めていただけませんでしょうか」
「え!?ちょっ、ちょっと待ってて」
扉が閉められて中が騒がしくなったと思ったらすぐに扉が開いて
「お待たせ、入っていいよ」
「お邪魔します」
中には焔先輩と勝田先輩の2人だけで他の人は寝てしまっているらしい。
「今日はもう遅い、明日詳しく聞くよ。焔、お前のベットで寝かせてやれ。お前布団持ってるだろ」
「了解した」
私はベッドに横になるとそのまますぐに寝てしまった
翌日
「小春、何したんだよ」
ちびっ子達は1度別のところへ行かせて、私は白から問いただされていた。
「別に、奏が喋るから私も喋り返しただけだよ。会話のキャッチボール」
「普通なその行為で人が逃げるなんて事は起きないぞ。何を言ったんだよ」
「事実を言ったまでだよ。奏が弱いって」
私が言いきると白が立ち上がっていきなり私を殴ってきた。油断していた私は拳を防げずに顔にモロに食らった
「痛っって.....何...するのよ!」
「それはこっちのセリフだボケ!お前自分が何言ったのか分からねぇのかよ!」
「わかってるよ!」
「じゃあお前は奏の今までの努力をわかってて踏みにじったのか!ふざけんじゃねぇ!」
目が覚めると見覚えの無い光景が目にはいる。なんでこんなところにいるのか思い出す。
「そうだ私は」
「あっ、起きた。後輩は起きたのにコイツは布団でスヤスヤタイムかよ!ほら起きろ!」
昨日小春さんと喧嘩してここに逃げてきたんでしたっけ
「おい黒咲、寝起きで悪いが先に聞きたいことがある。リビングルームに来てくれ」
「はい、すぐに行きます」
リビングルームに行くと勝田先輩が椅子に座って真剣な表情で手を組んで、その後ろの台所で焔先輩が眠そうにホットミルクを温めている。他の人は出払っているようです。
「さて、早速だが聞こうか。昨日は何があったんだ」
勝田先輩に聞かれて私は全部話した。昨日小春さんと喧嘩した事、原因が私自身にあって小春さんに八つ当たりしてしまった事、けど小春さんの言い方は気に入らなかったこと。
「なるほどねそれで黒咲、君は」
「小春、お前は!」
「早瀬に謝る気は無いのかい?」
「奏に謝れ!」
その問いかけの答えは1つだけ
「小春さんが謝るまで」
「奏が謝るまで」
「謝る気はありません」
「謝らないよ」
キッパリ答えることが出来た。ここだけは譲れない
「そうですか」
「そうかよ!」
向こうは深刻そうな顔をしながら思い詰めるがすぐに口を開いた
「私達はいつ死ぬか分からない立場の人間です」
「仲直りは相手がいねぇと出来ないぞ」
「「だから」」
「相手がいる間に仲直りした方が良いですよ」
「出来るうちに仲直りしろよ」
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