第9話 伊吹 忍 異能力【治療体】
私は幼い頃から他人を助ける為に自分を犠牲にすることがよくあって余計な事に首を突っ込んで痛い目をみる時があった。その度に親に怒られてきたが私は間違ったことはしてないとそれだけはずっと思っていた。しかし正義というものは怖いもので人を傷つける理由になる時がある。小学生程度なら尚更怖いものだ。人気者が悪者を虐めるのは正義を持っているからだ。自分が正しいと悪者をやっつけるのは当然なんだと。反吐が出る。しかし、小学生にそんなこと言っても受け入れてもらえる訳がなく私は孤立した。そうして私は中学校は近くには行かずに遠いところに行った。そこで私は橘九鬼と出会った。最初は少し話しかけずらかったけど話してみると面白い子で、理不尽な事に抗ってるように見えた。そして彼女への視線で彼女も私と同じなんだと感じた。
ある日下校しようと歩いていると体育館裏から鈍い音や笑い声が聞こえた。気になって覗いてみると目を見張るような光景があった。九鬼が暴力を振るわれていた。助けないと!と脳裏に浮かんだが、いつものように足が動かなかった。怖かったまた孤立するのが、私はそのまま立ち去ろうとしたが、ある考えが私の足を止めた。
(あの子も一人なのでは?じゃあ私が今ここで逃げたらアイツらと同じになっちゃう。そんなの嫌だ!)
「そこで何しているの!」
不思議と恐怖は無かった、ただ九鬼を助けたい、アイツらと同じにはなりたくない!それだけが私の頭を支配して、私を動かした。
「ごめん!忍ちゃん!」
翌日九鬼が病室までお見舞いに来てくれた。そしてなぜか謝りだした。初めての経験だった謝られるなんて。何度か感謝の気持ちをもらったことはあるが私の心配をして謝ってくれる子はいなかった。
(この子とっても優しいんだな)
その後は高校も私が合わせて一緒に行って。卒業後は少し違うけどでもずっと一緒だって約束もした。これから九鬼とずっと一緒に居れると思っていた。
クリスマスまであと少しとなって街はイルミネーションで華やかに彩られて綺麗になっていた。今日は九鬼とデートって言っても向こうはそうとは微塵も思ってないだろうけどね。不思議と体温が高くなって薄着でもいいかなって思ったけどそんな事はなかった、普通に寒い。
「ほら、着ろよ」
九鬼が着ていたコートを渡してくれた。とても暖かくて九鬼の温もりを感じた。
「さっきまで着ていたからな」
そうじゃないんだよ九鬼、まぁそんなところも私は好きなんだけどね。ブレスレットも気に入ったものを買って気分上々って感じで帰路につく、けどまだやり残してることがある。正直怖い、拒否されるかも、普通じゃないって言われるかも。けどこのまま言えずに後悔はしたくない。
「あのね九鬼、私あなたに伝えたいことがあるの」
心臓の鼓動がうるさい、初めてこんな気持ちになった。あなたの事が——
「その...わたし...あなたのことが———」
ガラスが割れるような音と共に空に穴が空く、そして穴から次々と化物が姿を現していく。逃げようとしても恐怖で足が動かない。
(そうだ!九鬼は?)
九鬼は地面に座り込んでしまって動けないようだ。すると化物の1体がこちらに向かってくる。
(守らないと、九鬼を助けないと!)
「きっ、来なさい!アンタの相手はこの私よ!九鬼には絶対触れさせない!私がどうなっても!!!」
怖かった、死ぬと思った。けど頭はスッキリとしていて化物をしっかり観察できた。弱点は関節部分のようだ。そこだけ装甲が薄い。
「忍、大丈夫だよ。私は忍に守られるばかりの存在じゃないよ。今度は私が護る」
九鬼が前に出るとなんと一撃で化物を吹っ飛ばしてしまった。驚いた、九鬼にこんな力があったなんて。でもいつもの九鬼と違うような。なんか私よりも身長が高いし、髪は紅く燃え盛るような感じだし。私が観察していると九鬼はそのままどこかへ行ってしまった。私は急いで追いかけるがすぐに見失ってしまった。
そして次に九鬼を見たのは九鬼が化物に貫かれる瞬間だった。私は怒りに任せて化物に鉄の棒を突き刺した。しかし、それで九鬼の怪我が治る訳はなく出血は止まらない。もし神様が居るならお願いだから九鬼を連れていかないで、なんの罰も受けるから、もう九鬼に会えなくてもいいからどうか九鬼を連れていかないで欲しいとそう願った。しかしそんな事は起きないと誰かが私に囁く。
《この世に神なんていないよ》
「誰?」
《望みを叶えたいのなら自分で掴まないと》
「そうなの?」
《そうだ、お前がこいつを助けるんだ》
「私がやるのね」
《私の力を貸してやるよ》
「わかった力を貸して」
異能力【治療体】
私は近くのガラスの破片で左腕を切り落として九鬼の口に入れた。すると九鬼に空いた風穴がどんどん塞がっていって傷一つなく治ってしまった。そして九鬼の呼吸と脈を確認して私は出血と安心で気絶してしまった。
どれくらい気絶しているだろうか?辺りが騒がしくなってきた
「急いで!もっと輸血をしないと!」
「心音微弱!最優先で血液を回せ!」
知らない声だ。誰だろうか?薄らと目を開けると誰かと目が合った。
「意識戻りました! もう大丈夫だよ私達が君を必ず助けるよ」
「九.....鬼....は?」
「一緒にいた子も大丈夫よ。それより貴方は自分の事を大事にして」
九鬼の安全を知ってまた私は意識を失った。
目が覚めると私は集中治療室にいた。手首には針が刺さって管の先には輸血パックがあった。
「良かった起きたのね」
いきなり声をかけられて少し困惑すると勝手に自己紹介を始めた
「私は藤野 楓、あなたの腕を治しに来たのよ」
「どうも、初めまして」
腕を治す?確かに私の腕は九鬼にあげて無いけど。まさか生やすわけじゃないでしょ?
「驚かないでね」
異能力【再生】
なんということでしょう。藤野さんの手が傷口に触れるとどんどん腕が形成されていくではありませんか。
「っっっっっっっっっ」
「驚かないでって言ったじゃん」
「いや無理ですよ」
人間じゃないよこの人、それともあれか?最近の医学は進歩してて、我が日本の医学は世界一ィィィ!! ってやつでしょうか?!
「じゃああとは大丈夫だから今日中にも通常病棟に戻れそうね」
そう言って藤野さんは出ていった。
私は藤野さんの言う通りその日のうちに移されてその翌日には退院出来た。でも九鬼は未だに目を覚ましていないらしい。退院した後に気づいたけど私ブレスレットをどこかに無くしてしまったようでどこにも無かった。
私が退院して三日過ぎて暦上ではクリスマスイブ、ケーキを2つ九鬼の好きなチョコケーキと私のチーズケーキを買っていつものように九鬼の病室に行った
「九鬼、今日はクリスマスイブだよケーキ買ってきたから一緒に...」
私が独り言を言いながら病室に入るとこの三日間ずっと想像していた光景があった。九鬼が起きている。自分の力で体を起こして、目を開いて、こっちを見ている。幻かとも思った。それでも違った、ちゃんと私の手を握ってる、温かい手で私の手を握ってくれている。これは夢じゃない、幻でもない、現実だ。九鬼が帰ってきてくれた。
(あの時のケーキの味は未だに覚えてるよ。食べても食べても少ししょっぱいんだもん)
その後は九鬼と施設に入って検査とかを受けた。能力無しって言われたけどこの時はあまりよく分からなかった、今なら分かるけど。防衛機関に入って藤野と再会して地獄のような訓練をして長野へ行って...
(私、長野で何してたんだっけ?)
大切な何かを忘れている気がする。
「気にするなよ忍、お前をこんなんにしたアイツは私が潰してやるから」
待ってよ九鬼、貴方はそんな顔をする人では無かったはずでしょう
「早く起きなさいよ!アンタの親友が大変な時になに寝てんのよ!」
藤野の声が聞こえる。そうだ私は起きないと、九鬼を助けないと!
《手伝うよ》
「貴方はあの時の」
《覚えててくれて嬉しいわ》
「さっきまで見てましたから」
《それじゃ起こすわよ》
「はい、頼みますよ」
《3...2...1...》
ハッと目が覚める。目に映るは青い空!そして私を見つめる藤野!ここは現実!
「忍!あなたいつまで寝て!」
「ありがとう藤野、あとは私に任せて!」
すぐに立ち上がって九鬼を見つめる。
「九鬼、あなたを必ず連れ戻します」
《行くよ、忍》
九鬼に向かって走り出していく。
異能力【治療体】『心入』
九鬼の攻撃を躱して胸に飛び込むと私の体はスルスルと九鬼の心に侵入していった。
《へぇ入ってくるんだ》
「貴方が九鬼の異能力ですか」
《よく分かったね》
「私にも似たようなものがいるので」
《やぁ、酒呑童子...と茨木童子もいるんだ》
《へぇ〜これはほんとに驚いたな。まさか茨木童子のことも見破るとか。流石だねスクナ》
「貴方スクナって言うんですね」
《正確には
そんな事やってる場合じゃないよ。早く九鬼を助けないと。
《時に聞こうか、なぜこんなことをするんだ?お前らはそんな事するヤツらじゃなかっただろ》
《大江山で密かに暮らしていたのを壊したのは人間だろ、俺達は別にそこまで悪い事をしていないのに!》
「それと九鬼は関係ないだろ!」
《私達も人間とは関係など持ってない!なのに我々は滅ぼされた!》
《そうだな。昔は人間というものは分からないものや自分たちとは違うものには畏怖の感情を抱いていた。しかし、それは昔の話だ今は違う。お前らもその者を見てきたのだろう?ならば分かるはずだ》
《確かにこの子は鬼であっても私達を好きだと言ってくれた。でもそれで周りはどんな反応を示した?結局変わっていなかったぞ!》
「九鬼は最後まで鬼を信じたよ!悪者にされ続けてもそれでも九鬼は鬼が好きだって!かっこいいって!言ってきたよ!それを貴方が裏切るの?ここで九鬼を使って悪い事をしたら好きだって言ってくれた九鬼はきっと鬼が嫌いだって言うよ!」
《そうだなこいつの言う通りだ酒呑童子よ。今回は》
《嫌だ!これ以上九鬼が傷つくのは見てられない!俺だって九鬼が好きだ!こんな俺達のことを心の底から好きだって言ってくれるんだから、嫌いなられるのは辛いよ!でもだからこそ九鬼が傷つき、心を痛めるのは嫌だよ。だから俺が!》
「だから、どうするの?」
《だから.....》
「確かに九鬼は今まで辛い思いをしてきたかもしれない。でもねあなたが思ってるほど九鬼は弱くないよ。九鬼は強いよこの世の誰よりも、だからこれ以上九鬼に嫌われるようなことはしなくてもいいんだよ」
《引き下がってやれ、この世は我々の世ではない。人間の世だ、従ってやろうではないか》
《分かった、今回は手を引いてやる。けどな!これ以上九鬼が傷つくなら容赦はしないからな!》
「任せて!私がそんな事にはさせないから!」
酒呑童子は微かに笑って横になっている九鬼の方へ歩いていって腰を下ろした。
《ごめんな、勝手なことをして。許せないよな》
「いいや、許すよ」
目をつぶったまま九鬼が口を開くとそのまま笑いだした
《おまっ!いつから!》
「大江山辺りかな?」
「ほとんど全部じゃん」
《これはこれは、一本取られましたな。酒呑童子よ今のお気持ちを》
うわスクナがすっごくウキウキしてる。酒呑童子の方はというと顔真っ赤で俯いたままだった。
「あなたのおかげで私達は今も生きているのよ感謝しているわ。それに今回のも私のためにやってくれたのでしょうやり方か良くなかっただけ。次はちゃんと話し合ってやりましょう」
「これは野次を飛ばす方が野暮ってやつですね」
《そうですね。それでは帰りますか》
私たちが出ていこうとすると後ろから
「ありがとー!忍のおかげでちゃんと話せたよ」
《約束!守れよ!》
二人とも笑顔で手を振っていた。私達も手を振り返してそのまま九鬼の心から脱出した。私達が出た後すぐに九鬼は元の姿に戻って数分後には目を覚ました。
「忍さん!」
「小春〜疲れたからおんぶして〜」
「えー!もうしょうがないな〜」
「大丈夫だ私の背中を貸してやるよ」
「ちょっと九鬼!あなたさっきまでどんなって忍も上らないの!」
「良かったです本当に!」
「風丸もお疲れ様です」
いつも通りの04Dがまた戻ってきました。これで一件落着ってやつかな。
「忍、私思い出したんだあの日のこと。忘れたくて記憶を見ないようにしてたんだけど、楽しかった記憶までも忘れようとしてたみたいだ」
「九鬼?どうしたのですか?」
背中からだと九鬼の顔がよく見れない。というか九鬼の背中は大きいな。
「あの日二人でブレスレットを買いに行ってたんだよな。でも私、無くしちゃったみたいでさ、ほんとにごめん」
《それは俺にも責任があるよ。本当にすまない》
二人して謝ってこないでください
「ごめん、私も実はあの日に無くしちゃったみたいでさ。同じだね」
《それは私も悪いところがありましたね》
スクナは謝らないんだ、まぁいいけど。
「それならさ今度また買いに行かない?二人で」
「いいね行こうか」
「ちょっと!何二人で話してるのさ!私たちも混ぜてよ」
「仲間外れは寂しいです」
「みんなで仲良く話しましょうね」
想いを伝えるのはまだ先でいいかな。今はこのメンバーと一緒にいたいから
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