第8話 橘 九鬼 異能力【鬼】

 森林を疾風が駆け巡っていく。速すぎて森が揺れる。風が運んでくるのは何かがぶつかり合う音と錆びた鉄のような異臭。小さい頃はよく言われたかな?森の奥には悪いものがいるから入っちゃダメだって。そう例えばとかどうかな?



 「九鬼!俺だ!風丸だ!分からないのか!」


九鬼さんは恐ろしい、まるで鬼のような姿になると雑魚を蹴散らしてそのままボスを叩き潰してしまった。強靭な腕力を持つ猿型でさえも九鬼の力に負けてしまったのだ。しかし問題はそこからで九鬼さんがそのまま暴れだしてしまった。正直あの力を私たちはどうすることも出来ない。でもこのまま放っておくこともできない。けど現在動けるのは04Eと真人先輩と翔渡先輩、風丸くんに虎子さんだけ。残りは負傷していたり九鬼の被害拡大を防ぐために一旦戻って避難民の誘導をしに行っている。


「陽菜ちゃん!忍さんは?」


「もう傷は治ってるけど、目を覚まさないの」


「この寝坊助!あんたの親友が大変な時になに寝てんだよ!」


はやくこの状況を切り抜けないとみんなで仲良死だ



 「なんで鬼さんはいつも倒されちゃうの?あんなに強そうなのに?」


「それはね九鬼、鬼さんたちは悪い事をしたからだよ」


懐かしい声がする。目の前の景色も懐かしいな。ここは私の故郷だ。私はここで18年過ごしそして全てを失った場所。はて?なんで私はここに居るんだ?いまいち思い出せない。


「九鬼、何を考えてるの?」


「悪いことをしたら倒されちゃうの?」


そうだ、私はお母さんと話していたんだ。私の思う疑問を。


「そうだよ、悪い事をしたら正義の味方がやっつけにきちゃうから悪い事をしたらダメだよ」


「うん!」


あの時の母の顔は忘れられない。そして時が経っていくにつれて私は鬼が好きになった。悪い事をするのは良くないけど、強くてかっこいい思った。そして必ず悪側で最後は倒されちゃうのが少し気に入らなかった。悪い事をしただけで倒されちゃうのはおかしいとそう思っていた。けどその考え方は普通ではないようで私は度々虐められていた。


「お前鬼が好きなんだって?だったら鬼にしてやるよ」


「あー!鬼だ!やっつけろ!」


私は何も悪いことしてないのに、別に鬼みたいに強くはないのになぜか私はいつも悪い人になってしまう。けど私はやり返さなかった。ここでやり返したらあの悪い奴らと同じだと思って。誰にも言わず、何もせずに過ごしていた。


中学一年の時に転校生がやってきた。


「伊吹 忍です。よろしくお願いします」


別に都会でもないので滅多に人は引越しては来ないが、まぁ10年に1人くらいはくるでしょ。第一印象は不思議な人だと思った。私は身長が高い方ではなかったしなんなら低い方だと思っていたが。私と同じくらいの身長で少々根暗な感じがあるけど明るい子だった。


「あなたが九鬼さんよね」


忍は私にも分け隔てなく普通に接してくれて普通に友達になれた。嬉しかった、でも私の好みについては嘘をついた。普通の女の子を演じた。でも...



 「ギャハハ!やっぱこいつを叩くの楽しいわ」


「それな!」


「お前も嬉しいだろ?大好きな鬼と一緒で」


私の虐めは無くなってはおらず、むしろエスカレートしていき、金銭なども要求してくるようになった。家に帰る度に傷が増えてくのを親が気して学校に連絡がいってしまい、虐めていたヤツらは叱られたようだ。そのせいで恨みをかってさらに酷くなった。そして今も体育館裏で男子に殴られ蹴られ、ストレス発散の道具として使われている。大丈夫、アイツらが満足したら終わるからって我慢してた。私には鬼のような力はなくて、人間だから、弱いから、強い人に立ち向かえないんだ。私には鬼よりも人間の方が悪に見える。叩いて良い人を見つけると寄って集って全員で叩く。鬼達は懲らしめられた後に反省し、奪ったものは返すのに、人間は返すどころか、更に痛めつける。本当の悪はどっちだ?私がそう思案していると一つの大きな声が響いた。


「そこで何をしているの!!」


忍の声だ、でもいつもよりも声だったり口調が違う。いつものゆったりとした声とは違ってキリッとしたかっこいい声だ。男子共は驚いた様子で忍を見ていた。でも来て欲しくなかった。忍を巻き込む訳には行けないと思っていたのに。


「いや〜これはアレだよ」


「こっ、こいつ鬼が好きなんだって」


「お前も知ってるだろ?童話とかである鬼だよ。だから俺達は–––」


「そう、それじゃ、私が悪者退治をしてもいい訳だ」


忍がゆっくり近づいていくといきなり男子の一人の股下を蹴り上げた。その男子は膝から崩れ落ちて動けなくなっていた。


「てんめぇ!何すんだ!」


他の男子が忍に蹴りを繰り出す。それは忍の胸に直撃して忍は後ろに飛ばされる。


「やったわね、このやろぉ!」


その後は忍と男子達の乱闘騒ぎになってその数分後に教師が駆けつけてきてその場は収まった。忍は全治1ヶ月の怪我を負って、いじめっ子達はあの時の男子だけでなく全員結構しっかりめに怒られたらしい。


「ごめん、忍ちゃん。私、忍ちゃんが闘ってくれているのに動けなかった」


翌日、私はすぐに病院へ行って、忍に謝りに行った。目の前で私のために戦ってくれていたのに私は一歩も動けずにただ見てるだけしか出来なかった事を。


「気にしないでください九鬼、元々は私が勝手にやったことですから」


「でも!」


「じゃあこれからは何か嫌なことがあったら私にちゃんと話してください。私が手伝ってあげるから」


そうして私達は親友とも言えるくらい仲良くなって、高校も同じで社会人になっても一緒だよって約束もした。


そしてあの日が、最悪の日がやってくる。私も忍も成績良好、無事に卒業出来そうで私は就職、忍は進学を目指して各々力を尽くしていた。


「うぅぅ、寒いです」


「なんだよ忍、もっと着込んで来ればよかったのに」


そろそろクリスマスって時期になってきて街が綺麗にライトアップされている中を歩く。これからはお互い忙しがるし、終わったら終わったらで進む道が違うから会う機会も減っちゃうので今日はお揃いのブレスレットを買いに来た。もう冬だって言うのに忍は夏ほどとまでは言わないが結構薄着で来ていた。


「ほら、着ろよ」


「ありがとうございます」


仕方ないので私のコートを貸してやった。身長も同じくらいだし、着れるだろ。


「暖かいです」


「そうかよ」


「はい、九鬼の温もりを感じます」


「さっきまで着てたからな」


「そうではなくてですね、いやそうなんですけど」


忍の反応が少しおかしい気もするが気にする事はないだろ。その後は忍と買うブレスレットを選んで買った。ペアルック?なるものを忍が勧めてきたのでそれを買った。ほとんど同じデザインだけど所々違うところがあってまるで二つの物を二人でつけるようなものだった。あまりこういうものに疎い私だったからこの時はあまり分からなかったな。無事購入して帰路につくと度々腕を見せあって楽しくしていた。


「あのね九鬼、私あなたに伝えたいことがあるの」


いきなり口を開くとすごく顔を紅くして今までにない真剣な眼差しで私を見る。


「どうしたの忍?」


「その...わたし...あなたのことが———」


忍が言いかけた途端バリンとガラスが割れるような音と共に空が割れた。何が起こったのか分からなかった。でも何が良くない事が起こる、そんな予感がした。穴から大量の化物が出てきて、街は混乱状態、私も異様な光景で尻もちをついて動けずにいた。すると化物の1体が私を見つけて襲ってくる。逃げようとしても足が動かない声も出ない。化物が近づいてくると忍が私の前に立ち立ち塞がる。


「きっ、来なさい!アンタの相手はこの私よ!九鬼には絶対触れさせない!私がどうなっても!!!」


あの日の事が脳裏に浮かんだ、あの時は私が動かなくても忍は帰ってこれたけど今回は?私はまた守られるだけなの?このまま何もしなかったら忍が二度と帰ってこれない気がした。私が手を伸ばして繋ぎ止めないと。


《貴方、力が欲しいのか?》


(誰?)


《力が欲しいのかと聞いているのだよ》


(誰か分からないけど、忍を繋ぎ止めれるなら欲しい!)


《じゃああげるよ。ちゃんと使いこなしてね》


身体が軽くなった気がした、力も湧いてくる。そしてこれならあの化物を倒せる気がした。


「忍、大丈夫だよ。私は忍に守られるばかりの存在じゃないよ。今度は私が護る」


化物に向けて拳を叩き込む。凄い力で私も驚いたがこの力なら護れると思った私の大切なこの街を。しかし現実は甘くなかった、街は火の海と化し、忍も私のそばから離れてしまった。結局私は何も護れなかった、街も家族も、忍も。


「アレ?ブレスレット、どこにやったんだろ?」


暴れているうちに取れてしまったらしい。もう私には何も無い。


「なんだか、疲れたな」


まだ化物はいるがどうでもよくなってしまった。だって理由が無くなったんだもん、戦う理由が。


「グァァ!」


化物達の咆哮が聞こえてくると化物が私の方へ突っ込んでくる。私は何も抵抗せずに鋭い爪で貫かれた。痛みは感じなかった。ただその時にすごく後悔はした。


「九鬼ーー!!」


刺される直前に名前を呼ばれて振り向くとそこには忍がいた。幻覚では無い、ちゃんと忍がいた。


「お前ー!九鬼を離せ!」


鉄の棒を拾って思いっきり化物に刺すと化物はそのまま倒れた。私はその時に爪が身体から抜けて血が溢れるように出ていた。


「九鬼!そんな!待ってよ!置いてかないで!」


しまった、最期に忍を泣かせてしまった。これは私は本当に悪い鬼になってしまったのかもな。


「ごめ....んな、最期.....に泣かせち....まって」


「そんな最期なんて言わないで!これからも一緒だって約束したでしょ!」


そんな約束もしたっけな、ごめんよ約束破っちゃってよ。やべっ意識がもう....


「待ってよ!まだ逝かないで!神様!まだ九鬼を連れていかないで!お願いだから!どんな罰でも受けます!だから九鬼を助けて」


あぁ、そんなに悲しまないで忍、貴方はこれからを生きるんだから私の事は忘れて、たった6年程度一緒に居ただけでしょ。


「誰?.....そうなの?.....私がやるのね。....わかった力を貸して」


口に何かを入れられた感覚を感じながら私は意識を無くした。


私が次に目を覚ました時はクリスマスイブの日だった。私はどこかの病室で目を覚まして、すぐに自分身体を確認した。ところがあの日の出来事が夢だったのではないか?そう思えるくらい何ともなくて、なんなら絶好調ってレベルだった。私が困惑していると病室の扉が開いた


「九鬼、今日はクリスマスイブだよケーキ買ってきたから一緒に...」


忍が私を見て一瞬固まったと思うとケーキを落としながらこちらに駆け寄ってきた。


「九鬼!ホントに貴方なのですね!幻覚じゃないですよね」


「あぁ本物だよ。触って確かめてみて」


震える手が私の頬を優しく撫でる、その手を握ってちゃんと私の体温が分かるくらいまでちゃんとあてた。


「私はちゃんとここに居るよ」


「うん!」


死んだかと思ったけどなぜか生きてて、体も何ともなかった。世の中生きていると不思議な事があるものだなって思った。その後は落として形が少し崩れたケーキを二人で一緒に食べた。今までで一番美味しいケーキだったそして今もあの日食べたケーキの味は忘れていない。


 懐かしい記憶を見たな、この後は施設に入って色々とカウンセリングや検査を受けたな。あの時は能力なしと判断されて普通の人と同じように私達は生活したな。部屋も同じだったし故郷にいた時よりも忍と一緒の時間が増えたな。そして私達は防衛機関に入隊して、風丸や藤野、虎子とチームメイトになって、沢山訓練して、確か任務に....長野へ.....


「思い出した!私こんな所にいる場合じゃないよ!」


意識がはっきりしてきた、そして私は今何をしているんだ。早くみんなの、忍の所へ戻らないと!


《行かせないよ》


「誰!」


《久しぶりね》


「まさかお前は!あの時の!」


《よく覚えていたね》


「いまさっき見てきたからな」


《ならば話は早い。私は鬼、お前の異能力そのものだ》


あの時は声だけだったが今は姿がはっきり見える。額から伸びる角、燃え盛るような髪。紛うことなきあれは私の異能力だ。でもなぜ行かせないのだ?


「なんで行かせてくれないのかな?」


《当たり前じゃないか、折角好きにできる肉体を手に入れたんだから》


「なるほどつまり貴方は悪い鬼ってわけね」


《悪いとは人聞きの悪い、いや鬼だから鬼聞きの悪いなのかな?》


「そんな事はどうでもいい。私の体は返してもらうよ」


《戦うの?今の貴方は異能力は使えないのよ?見たでしょう異能力が無いあなたがどれだけ弱いか》


「確かに今までは良かったかもしれないけど。今は違う!もう守ってもらうだけの存在じゃない!皆を護るんだ!」


《殊勝な心がけね。それじゃ少し眠ってて貰うわね》


鬼が消えた!と思ったら首に強い衝撃が与えられて私は一瞬にして意識を失った。

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