第6話 いざゆかん長野へ

 「……という訳でお前ら04DとEには長野へ小川村へ行ってもらう」


「どういう訳よ!」


「『……』が話の省略ではなく本当に何も喋ってないですね」


朝から小早川先生に呼び出されたといか、連れていかれたとか言うか、寝ているところをこっそり誘拐されたっぽい。起きたらヘリポートだった。どうやら私達だけが勝手に連れてこられたようだ


「丁寧に隊服まで持ってきてるし」


隊服を着ながら白が呟く。ってか乙女の目の前でしれっと着替えるなよ。これだから男子は......


「奏、向こうで着替えぇぇぇ!!!」


「どうしました?小春さん」


異能力【火炎】 『炎壁』!


男子と女子の間に壁を創る。なぜそんなことを? だって奏が屋外で堂々と着替えを始めていたからである。やべっ鼻血出てきた。


「小春さん! 鼻から血がっ...どうしたのですか!?」


出血多量で意識が朦朧としてくる。頭がクラクラする〜


「小春さん!」


足の力が抜けて前に倒れそうになると、ムニィ...と柔らかいものの中に顔を埋められる。優しく包み込まれるような感触を感じて溶けそうになっていると、頭上から声が聞こえた


「小春さん、大丈夫ですか?」


心配そうな声色で私に話しかけてくるが私はやさしい温もりに意識がフワフワしていたのであまり聞こえなかった


(あれ?だんだん温度が上がって...)


「小春さん、その...大丈夫なら離れてください。流石にこの状態は恥ずかしいです...///」


冷静になった頭で私が今どんな状態なのか考える。当然私が理解するのは一瞬ですぐに奏から離れる。奏の大きな二つの山を支える白い布は私の鼻血で一部赤く染まっていた


「ごめん奏!」


今世紀最大の土下座が出来た気がする。勢いが強すぎて地面に着けた額から血がまた出てきた。


「小春さん! 血! 血!」


慌てて私の上半身を起こして額にハンカチをあててくれた。私はまた奏を汚してしまったと自責の念にを感じながら大人しく処置を受けた


 私が処置を受け終わり、頭に包帯を巻いて、鼻にティッシュを詰めて隊服に着替えるとヘリポートに新しく五人組が来た。04Dの人達だろうか?


「せんせー!調査任務終わったよー!」


「調査任務お疲れ様。風丸」


小早川先生と仲良さげに話しているのが隊長かな?薄緑色の短い髪をゆらしながら楽しげに先生と話すのは目を疑うほどの美少女!いや〜ここは何人可愛い子がいれば気が済むのだろうか?私はいいものを拝ませてもらっているから全然良いけどね。


「あなた方が04Eのメンバーですか?」


私の背後から気配もなく紫髪の少女が耳元で聞いてくる。声が小さすぎて息がかかるほど近かったのに聞き取るのが少し難しかった。


「こら、しのぶそんなに近いと彼女が怖がるだろ」


「うるさいです、九鬼くき。と言うか私の首根っこを掴んで持ち上げるのやめてください」


今度は190cmくらいある長身の女性が炎髪をなびかせながら私に話しかけた少女を持ち上げる。持ち上げられた少女は手足をジタバタと振り回している。


「あなた怪我してるじゃない!大丈夫なの?!」


これまたどこからともなく現れた美人が私の包帯や鼻の詰め物を見て、急いで傷に触ってくる。いきなり知らない人に傷口を触られるのは少し抵抗があるため避けようとしたが、避けきれずに触られてしまった。


異能力【再生】


触ろうとした手が一瞬光った気がした、髪も黒から緑に変わっていくのを見たような気がする。気づけば私はふかふかの何かの上で寝ていた。今日は朝から倒れている回数が多い気がする。


「あっ起きた。おーい、大丈夫か?藤野、いきなり治療するなよ。驚くだろ」


「ガルル!」


ガルル?なんか人が発することの無いような言葉?うめき声?みたいなものが聞こえる。ん?私の下にあるほのかに暖かい、ふかふかのベッドはもしかして?


「うわぁーーー?!」


私のベッドはどうやらデカイ虎だったらしい。驚いて涙目になりながら奏の後ろに隠れる。


「そこまで、怖がらなくてもいいのに」


大きい虎が瞬く間に形を変えてなんということでしょう、一人の可愛らしい女の子になったではありませんか、これには李徴子もビックリ仰天だね。


「まぁ虎子とらこ、そんなに落ち込むなよ」


「九鬼さん.....」


虎子さん意外と背が小さいようで九鬼さんに抱かれるとすっぽり胸の下に収まってしまった。すごく大きい果実頭の上に乗ってるから首が痛くなりそう。



 「ハイハイ、お前らちゃんと聞いておけよ。一度しか言わないからな」



手を叩きながら小早川先生がなんで私達がここに集められたのかを説明していく。要は長野で大きめの裂け目ができて、要警戒級の化物が出現して、既に送ったチームだけでは市民を守りながらの討伐が難しいため、私達がその応援に行くとの事だった。


「それじゃ、行ってらっしゃい」


チームに別れて輸送ヘリに乗り、私達は長野へ向かった。


 「あとどれくらいで長野に着くんだ?」


余った座席をふんだんに使って横になってる白が聞いてくる。陽菜ちゃんは私の膝の上で天使のように眠って、渚くんはタブレットを操作している。


「そうですね、あと五分程でしょうか?」


「あと少しかな。子供達を起こそうか。奏、向こうの子供を起こして」


奏が横になってる子を起こしに行くと白が何かを察したのか体を起こして


「俺は子供じゃねぇ!」



 なんの問題もなくヘリがアルプス展望公園に着いた。裂け目発生後、近隣住民の避難所兼防衛本部となっているようだ。


「防衛隊員の皆さん。遠路はるばるご苦労様です。」


防衛機関の制服を着た職員が出迎えてくれた。周辺には機関砲とかが設営されて防衛能力は高そうだ。


「職員の皆さんお疲れ様です。状況の方は?」


「それは歩きながら説明しましょう」


私達は職員に連れられて作戦本部に通された。歩きながらの説明では、ある程度の雑魚の化物は討伐済みであとは要警戒級一体のみ、しかし奇妙なことにソイツは森の奥で居座って動かないらしい。現在は目立った行動はないが、戦闘状態に入ると周辺に裂け目が次々と発生し、雑魚がまた出てくるらしく現在の戦力では市民を守りきれないとの事。それと裂け目が発生したことで次元異常起こり、超常現象が起きていて、現代の通信機器がゴミと化している。作戦本部に入ると隊員はおらず職員のみが慌ただしく働いている。


「通信機器が使えないのであれば、ここと戦場の通信はどうしているのですか?」


渚くんが職員に聞くと


「それは、今どれくらい経ってる?...あぁ、もうそろそろですね」


「そろそろ?」


私達が首を傾げると頭上からブーンと言う風を切る音が聞こえてきた


「来ましたね」


外を見ると一機の航空機が本部の上で旋回していた。グルグルと五、六周したら山の方へ帰っていった。


「あれは....」


「皆さん!直ちに哨戒へ行ってもらうので準備をお願いします」



 私達は避難所から西へ向かって森へ入っていくと五人の本部にいた職員とは違う服を、隊服を着た人達と合流した。


「哨戒は日没まででいいよ。日が落ちればやつも活動しないようだし」


「暗くっても俺の航空機でちゃんと照らしてやるからお前らは落ち着いて帰ってこいよ」


「疲れた〜これでゆっくり寝れるよ〜」


「野営は慣れたけど、寝れるならちゃんとしたとこで寝たいよね」


「おっふろ〜♪ おっふろ〜♪」


先に来ていた人達は疲れたとか言いながら終始笑顔です帰っていった。置いてかれた私達はそこから八時間程周囲の警戒をしながら物音一つしない静かな森で非常に退屈な時間を過ごした。


「風丸、そろそろ日没だ。散開しているメンバーを集めよう」


「分かった九鬼。....みんなー!九鬼が視界に入るまで集まってー!」


向こうの隊長は隊長してるな。私達も集まろうかな。


「私達も集まろー!」


散開していた人が集まってもっと密な配置になった。異能力者とはいえ遭難したらひとたまりもないからね。


 日も落ちて辺りが暗くなり始めた頃に上空から航空機の飛ぶ音が聞こえてきたと思うと繋がらないはずの通信が入った。


〈お疲れ様。ここからは航空機で辺りの警戒をするから帰ってきていいよ。帰り道はほかの機体で案内するから〉


「コイツ直接脳内に!?」


「ファミチキを食べたくなってきましたね」


「奏はそもそもそんなの食べたことあるの?」


私達がいつも通りにしていると


「04Eの皆さん!早く帰りますよ!」


風丸隊長が手を振りながら呼んでくれた。なんて優しいのだろうか


「はーい!今行きます!」


手乗りサイズの飛行機が先行して私達を本部まで送ってくれた



 「おかえりみんな。お前も案内ご苦労さま」


外で待っていた人が私達を案内していた飛行機を右腕を滑走路のように使って回収しながら笑顔で声をかけてきれた。昼間に見た隊服ではなく私服で立っているから避難民の一人かと思ってしまった。


「帰ってきたとこ悪いけどすぐに明日のことについて話があるからこっちに来てくれない?すぐに終わるから!」


めっちゃ頼むように言われたけど別に頼まれることでは無いよね。必要なことなんだから行くのは当たり前なんだよな。


 言われた通りに作戦本部に顔を出すと02Bの人と機関職員の皆さんが集まって地図を広げて話している。地図の上には駒みたいなものが乗っている。


三谷みつや、連れてきたぞ」


翔渡しょうとか、ご苦労。真人まひと.....おい起きろ、後輩がいる中で寝てるやつがいるか!」


「うー...もう少し寝させてよ。そう思うよね音綺ねいろ


「真人くはもっとちゃんとした方がいいと思うよ」


葉奈はなもそう思うよ♪」


先輩方を見てると緊張が抜けてく気がする。一応早急に対処しなければならない案件らしいのに


 先輩方がシャキッとしてくると次第に場の雰囲気も真面目な感じになっていった


「それでは明日の事について話そうと思う」


三谷さんが立ち上がって話し始める


「俺達02Bが居座っているやつを倒す!残りは湧いてくる雑魚の処理!以上!解散!」


翔渡さんの言う通りに爆速で会議は終わった


 会議?が終わっので私達はお風呂に向かった。交流も兼ねて04Dの皆さんと一緒に入ることになった。まぁ向こうは全員が女子だから男子はいつもと変わらないけどね。


「じゃ、俺達はこっちだから」


「一旦お別れですね」


「忍、ちゃんと自分で体洗えよ。虎子もちゃんと毛並みのケア怠らないように。じゃ、行ってくるぞ」


ん?男子一人増えているような....そして女子が一人減っている気がする。


「いつまでも九鬼に頼ってると思わないでください」


「風丸くんが手伝ってくれるなら....べつに私風丸くんなら見られても....」


待ってこの状況で正常なのは私だけ?みんな疲れで頭おかしくなっちゃった?どう見ても女の子が男湯に入ろうとしてるんだよ?おかしいでしょ!


「待って待って!そっち男湯だよ!」


「そうですね。何か問題でも?」


「だって奏!男湯だよ!?」


「そうですね」


いきなり肩を掴まれ、九鬼の顔がすぐ近くまで迫る


「早瀬、どうしたんだ?」


「九鬼!自分のチームの隊長が男湯に入ろうとしてるの!止めなくていいの?」


「別に何も問題ないだろ」


一番しっかりしてそうな九鬼が疲れで混乱してるならみんなも混乱してて当たり前か、こうなったら私が!


「早瀬さんってもしかして....」


風丸が私に近づきながら声をかけてくる。これは好都合!私が混乱した頭を叩き直してあげる!


「風丸ちゃん!ごめん!」


「もしかしてですけど僕の事女の子だと思ってません?」


「へ?」


どうやら混乱していたのは私だけのようでした。みんなはヘリポートで私が気絶している間に教えてもらったらしい。それならそうと早く言って欲しかった。


………


 「ハーハッハッハッハー!奏よ!お前のところの隊長は面白いな!」


「九鬼、そんなに笑わないであげてください。あの隊長だって本気で心配してくれていたんですよ。あとお酒はそこまでよ!」


湯船に浸かってもさっきの出来事を肴に酒を飲む九鬼と酒瓶を取り上げる藤野、仰向けの状態で浮いている忍に尻尾を丁寧に洗う虎子。


「九鬼さんは成人なされていたのですね」


「普通に考えてあの身長で未成年は無理でしょ奏」


流石に180cmの身長を持つ未成年は見た事無い、探したらいるかもしれないけど今目の前にいる人がそうだとは思わない。


「九鬼は今でこそたしかに高身長イケメン系美人だけどつい半年くらい前は150cm程度だったんですよ」


「そうだったのですね忍さん」


「半年前まで...150cm...ん?半年で30cm伸びるものなのかな?」


「正確には一日でですけど」


衝撃の時日を明かされた。一日で30cmも伸びたイケメン美人とか私だったら驚きでパニックになるね。しかもこの顔面偏差値が高すぎる顔が見上げたらあるとか女子でも恋する人いるでしょ。


「おい忍!私の過去を勝手に語るな!罰としてお前も呑めよ!」


「ちょっと待って!私九鬼みたいに呑めなっ..待って本当に...藤野ー!助けて!」


「あの状態の九鬼には関わらない方がいいわよ。命が惜しいならね。九鬼は男女気にしない人だから最悪の場合食われるわよ」


その後は忍が呑み潰れた事以外は何も問題なくお風呂は終わりました


【続く】

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