第4話 人間とは違う者たち

注意

この物語はフィクションです

実際の個人、団体、地名とは一切関係ありません



「小春さん起きてください」


「あと三時間くらい寝かせて..」


「ダメです!今日は午前に哨戒任務があります。もう起きないと準備する時間がなくなってしまいます」


奏に急かせれて身を起こす

昨日の疲れがまだあるのか身体が重い

鉛を引きずるような足取りで居間に出る


「おはようございます早瀬さん」

「小春ねぇおはよう」

「遅い!早く朝食を食べて準備しろよ!」


テーブルに置かれた立派な朝食を食べながら今日の予定を確認する


「午前は哨戒任務、午後は自由か」


「哨戒任務と言ってもこの周辺を見回るだけだけどな」


「場所は?」


「防衛機関の周辺なので、千代田区辺りです」


「皇居の周辺を歩き回れば今回は良いみたいだ」


朝食後制服に着替える

機関の施設内とはまた違った服で外だと隊服が配られるらしいが私達はまだ決まっていないので汎用隊服をもらった

この隊服を来ていないと武装出来ないらしい

黒を中心に所々に白のラインが入って防衛機関の腕章がはられている

女子はスカートかパンツを選べるらしい

無論私はスカートを選んだ

奏はパンツで陽菜ちゃんはスカートしか無かった


「準備出来たか?」


「待ってよ女の子は準備が大変なの!」


「そうですよ神崎くん。女の子は僕達よりも大変なんですよ」


「いえ、私達はもう終わっているのでコレは小春さんが遅いだけです」


「はやくはやく〜」


みんなを待たせるのも嫌な予感がするので高速で準備を終わらせて部屋を出る


「じゃあ行くぞ」


「「「「おーーー!!」」」」


機関を出てすぐ右には皇居がある

私達は桜田門から西回りで北上するルートだ

まだ桜がギリギリ散っていなかったので千鳥ケ淵を見ながら哨戒出来そうだ


「綺麗ですね」


「そうだね」


「名所になっているだけのことはあるな」


高校生組が桜を眺めていても年少組はあまり分からないようで前に行くよう急かしてくる

いつか結婚とかして子供が出来たらこんな感じなのかもしれない

未来の自分の姿を想像したりもした


私達はその後靖国神社、新宿、護国寺周辺を歩き回って今日の哨戒任務は完了した

午後から自由だから池袋周辺で少し遊ぶことにして

まずはお昼ご飯を探した


「こことかいいんじゃね?」


「お洒落なお店ですね」


外装が綺麗に装飾されたお店を見つけた

田舎者の私には外観だけで圧倒されてしまう


「いいですね、僕もここがいいです」


「ヒナも〜!」


年少組も賛成しているのでお昼はそこに決定した

チリンと鈴の音を鳴らして入ると既に居たお客さんや店員さんが少し固まったと思うと何やらヒソヒソと話し始めた

少し不思議な光景を目の当たりにすると一人の店員が近づいてきて


「ようこそいらっしゃいました。防衛隊員の皆様。本日はどのようなご要件でしょうか?」


とっても物腰低く聞いてきたが要件も何もお昼ご飯を食べに来ただけだと伝えると


「そうでしたか、当店をご利用頂きありがとうございます。早速お席へ案内いたします」


席に案内される間他のお客さんが私達を見てなにか話している

目が合ってもすぐに目をそらされる


「みんなどうしたんだろ?」


「あまりキョロキョロするな」


白から注意を受けてしまった

私達は六人の席に案内されると思ったらわざわざテーブルを一つ増やして八人の席にされた

まぁ武器を置けると思ったらありがたい気遣いなのかも


「なんか、他の人と遠いね」


私達は他のお客さんには一、二席分空席がある

八人席にするから少し離れさせたのかな?


「気にしないでください。何か頼みましょうか」


メニューを開くと私は驚愕した

パンケーキ一つで1200円!たっ、高い


「奏、コレってドリンクとか他のが付いてきてこの値段なの?」


「いえ、パンケーキだけですね」


「はー!詐欺よ!詐欺!」


私が大声を出すと辺りが私に注目を向ける


「馬鹿!なに大声出してんだ!」


「小春さん、落ち着いてください」


皆で私を落ち着かせようとしているとまたさっきの店員がやってきて慌てた様子で


「お客様!どうなされましたか?」


ちょうどいい所に来たな!文句つけてやる!


「ここのムグッ!」


「なんでもありませんわ」


「そうです!ただちょっと驚いただけです!」


奏や渚くんが必死に説得して店員は戻って行った


「なんで口を塞ぐのよ!」


「お前が変な事言うからだろ!」


「私変なこと言ってません〜!」


「小春さん、一旦落ち着きましょう。どうされたのですか?」


私は皆にかくかくしかじかなぜ騒いだのか話した


「なるほど、都会と地方だとそんなに違うのか」


「私達は慣れていますからね。そうでない方の感覚だとそうなのでしょう」


皆私の話を聞いて後に都会の物価は高いってことを丁寧に教えてくれて案外アレが普通の値段らしい騒いですみませんでした


「でも高いよぉ」


「安心してください。会計は全て私が」


「全部って五人だぞ、高くなるぞ」


「大丈夫です。このくらいの出費なんてことありません」


「奏さんもしかしてお金持ちなんですか?」


「そんな事ありませんよ。さぁ好きなのを選んでください」


「わぁ〜い!」

「やったー!」


陽菜ちゃんと私が両手を上げて喜ぶと騒がしくし過ぎたのかまた店員さんがやってきた

なんでもないと伝えて謝ったついでに注文を聞いてもらった


「ところでよ今まで時間が無くてお互いの詳しい自己紹介をしてなかったよな。出身とか」


「そうですね」


「それでは僕から

僕の名前は知っての通り白州渚といいます

出身は神奈川県で誕生日は8月31日です

異能力は【防壁生成】で目の届く範囲ならどこにでも透明な壁を作れます」


「次は俺がいくか

俺の名前は神崎白

出身は愛知県で誕生日は9月4日

異能力は【身体強化】で文字通り身体能力が向上する能力だ」


「陽菜も〜

わたしは若葉陽菜

とちぎからここに来たのたんじょうびは11月7日

異能力は【生命誕生】お花を咲かせられるの」


「それでは私も

私は黒咲奏と申します

出身地はここ東京で誕生日は12月20日

異能力は【氷華】氷を操る異能力です」


「最後は私だね

私は早瀬小春

出身は茨城で誕生日は10月15日だよ

異能力は【火炎】炎を自由に扱える異能力なんだって」


私の自己紹介が終わると皆顔を見合わせて何か話している

そして奏が恐る恐る聞いてきた


「その、茨城の詳しい位置も教えて頂きたいのですが」


「水戸ってとこだよ。今はもう住めないけど」


「マジかよ!」


「水戸ってあの」


「?、ヒナ分かんないよ〜」


皆が困惑しているのか驚いているのかどちらともとれる反応を示す

当然だよね水戸と言ったらアレだもんね


三年前の一次防衛戦の初期、まだ異能力者というものが少なかった時の話だ

私の故郷にも裂け目が発生、しかも特大級のものが政府はこの裂け目を緊急対処対象として別国と共に対処した

しかし有効的な対処が行えないまま被害は増えるのみで政府は裂け目発生の一週間後に核殲滅を実行すると宣言、翌日に実行、化物は殲滅された

これは後に避難の時間を与えずに国民を見殺しにした作戦として現在も糾弾され、現政権は何も言及はしていない

そして私もそれに巻き込まれた

話によると爆心地付近で気絶した状態で見つかったらしい

あくまで予想だけど私の異能力が炎関連だから耐性があったのではと言われている

放射能の影響も無く私は被爆していない

現在も水戸は進入禁止区域として国が厳重に管理している


私の身の上話のせいで少し場の雰囲気が暗くなってしまった

ここは何か一つ和ませられる一言を


「え〜と、ほら!私自体に何も問題ないし!またこれから楽しい思い出を作ろうよみんなで!」


「お待たせしました。お子様ランチと.....」


タイミングが悪いのか良いのか頼んだ品々が来た

ここで話題を一気に変えられればこの雰囲気もどうにかなるから私が何か言わないと

私が何か言おうとワタワタしていると


「言いたくなかったら言わなくていいけどお前の親もあの時..」


「いや、あの日私の両親は水戸に居なかったからね」


「小春さんだけ水戸に?」


「どうしてです?」


「それは.....あれ?なんでだっけ?」


思い出そうとすると頭痛がしてくる

記憶にモヤがかかって上手く思い出せない

あの時なんで私だけあの場所に?



『嫌です!小春にそんな事!させる訳にはいきません!』


『これは政府の指示です。従ってもらいます』


『お母さん!』



『いいかい小春ちゃん、君は希望なんだ。少しの間お父さんとお母さんには会えないけどまた会えるようになるからね』


『いつまでお母さんに会えないの?』


『終わるまでだよ』


断片的に見える光景はいつのものだろうか?

そんな昔のはずがないのに遠い昔の記憶を辿っているようだった



「こはるさん...小春さん!」


声をかけられて我に返る

私は迷子の記憶の旅から現実に帰ってきた


「悪かった。あんなこと聞いて」


「大丈夫ですか小春さん」


「ううん、全然大丈夫だよ。そんな事より皆が私の心配をしてくれて嬉しいよ。ささ、冷めないうちに食べちゃおっか。皆手を合わせて」


「「いただきます」」


うん!美味しい

パンケーキはフワフワでいちごのソースがいいアクセントになってとても美味しい

都会のお店は美味しいものが沢山あっていいなぁ

手が止まることなく私は一皿平らげてしまった

隣では奏がお行儀よくパスタを食べてその隣では渚くんがハンバーグを綺麗に食べてお肉の塊がどんどん減っていく陽菜ちゃんはお子様ランチを笑顔で食べて汚れた口を白さんが拭いてあげている


「白さん、そのピザと貰っていい?」


「お前自分のが..って早すぎだろ」


「えへへ」


「ほらよ、一つだけな」


「ありがと〜!」


私達はお昼をとても楽しみました

腹ごしらえを終えてお会計をしようとすると


「あれ?伝票は?」


「見当たりませんね」


「すみませ〜ん。お会計お願いします」


私が呼ぶとまたさっきの店員さんがやってきて料金は要らないと言ってきた


「なぜです?」


「私達はいつも防衛隊員の皆様方に護られているばかりです。私達はあの化物とは戦えません。私達に出来ることはせめてお金等を気になさらずに戦いの準備が出来るようにする事くらいしかありません。なのでお代は結構です」


そこまで言われると私達もそれ以上何も言い返せなかった

私達はそのまま店を出て遊び回った

ゲームセンターで遊んで、買い物をして、おやつを食べて池袋駅まで来た時スマホから警報が鳴った私達以外の周囲の人のスマホからも鳴っている


《裂け目発生情報》

近辺にDクラス裂け目が発生します

直ちに避難所へ避難してください

防衛隊員は現場に急行、化物の討伐をしてください


と画面に映し出されると私達の頭上の空間にヒビが入る

私達が驚く隙もなく小さなヒビは瞬く間に広がって空間が割れた

割れたところから次々と化物が出てくる

周囲はもう手が付けられないほどパニック状態、皆人の事など気にしてられないのか避難所の入口は混雑して入るのが困難になっている


「皆さん、落ち着いて避難してください!」


「一人づつでお願いします!」


「このままじゃ間に合わねぇ!」


本来なら防衛隊員は防衛任務が課され化物の討伐に向かうのだが、私達は参加の許可がおりていないため民間人の避難誘導をする事しか出来ない

けどこの状態では誘導しても聞いてくれる人はごく僅かな人しか居らず、避難は難航するばかり

そもそもこんな都会に裂け目ができること自体が予想外であるのでこうなるのも当然と言われればそうだ


「お母さ〜ん!どこー!」


どこからか子供の泣き叫ぶ声が聞こえた

方向的に裂け目が発生していたところだ


「まさか!逃げ遅れたのか!っておい!早瀬!」


私は制止を聞かずに飛び出した

許可が無いとか知らない!

ただ自分の手の届くところに助けられる命があるなら私は助けに行く!

声のした先で小さな子供が化物に襲われていた

すかさず刀に手をかけて抜刀する


異能力【火炎】『炎撃』


炎を纏った刀身が化物を焼き切る

実戦は初めてだったけどなんて事はなかった

訓練の時と変わらずに普通に倒せた


「なんだ、大したことないじゃん。君、大丈夫かい?」


子供に近づこうとした時、子供の近くの壁を破壊しながら虫型の化物が出てきて鋭い前足で攻撃してきた

子供を抱えながら避けて体勢を立て直す

正面に一体、さらに三時の方向にまた一体現れた


「速攻で片付ける!」


まずは正面のヤツを倒してすぐに横のヤツを倒せば全員殺れる

突撃していつも通り炎を纏った刀身で切りつける

しかし、刀身は化物を両断せずに弾かれてしまった

油断してしまった、私の攻撃はあの前足さえも焼き切れると思っていたが違ったようだ

それなら今度はちゃんと避けて切るのみ!

二撃目はちゃんと狙って攻撃したらちゃんと化物を真っ二つに切り裂いた


(少し手間取ってしまった早く二体目を!)


もう片方の化物は既に子供を標的に向かって行っていた


(攻撃が間に合わない!)


私は武器を投げ捨て全力で走って子供と化物の間に入った

前足が向かってくる私が肉壁になってもいい、この子だけでも守らねば!

眼前まで攻撃が迫ってきた


異能力【焔】『火車ひしゃ


突然目の前が真っ赤に染まったあと熱が伝わってきた

視界が開けると私達の目の前に黒髪ロングの和装っぽい人が刀を持って立っていてさっきの化物は前足を切られて断面は炎が燃え盛っていた

またその人が構えると私と同じように刀身から炎が噴き出してきた

そのまま刀を振ると炎が飛んでいって化物を焼き払った


「01A現着した。これより掃討を...」


「これ、もしかしてもう終わってる?」


「みたいですね...」


「焔!お前速すぎだろ!」


「?、我はこの一体のみを先程討伐したのみだが」


知らない人たちが言い合っている

察するに防衛隊員なのだろうしかし、さっき01って、Aって言ったよな

つまりこの人達は...


「貴方ですか?」


いきなり話しかけられて一瞬思考が止まる


「これをやったのは貴方ですかと聞いているのです」


ようやく頭が再稼働して質問の意味を捉えられた


「はい、私がやりました」


私をまじまじと見た後に内緒話を始めた

何を言っているのか私には全然聞こえない


「小春さん!大丈夫ですか!」


奏達が走って向かってくる

ある程度近づくと驚いたような感じで急いで来た


「小春さんを助けて頂きありがとうございます」


とてつもない勢いで頭を下げると続くようにみんな頭を下げた


「頭を上げてください、それより君達はどこのチームの人だい?汎用の隊服を着ているけど」


「私達は04Eチームです」


「今期の新隊員の人達だね。けど戦闘の許可がおりていたとこなんてありましたっけ?」


「私は存じませんが」


「つまり、許可なく戦闘したという事か?しかも一人で」


いっそう雰囲気が悪くなる


「おい早瀬、どうすんだよこの状況。お前の所為だぞ」


「そんなこと言われても」


どちらも何も言わずにいると私の裾を引っ張って


「お姉ちゃん、助けてくれてありがとう」


とさっきの子供がお礼を言ってきた

一旦子供の安全の確保を優先して家族の元に戻した

そしてまた雰囲気が暗くなると思ったら案外そうでもなく


「まぁ、隊律違反だけど見たのは俺達だけだし、自衛で戦闘してたって言えばなんとかなるでしょ」


「そうだね、ここにいる全員が口裏合わせれば誤魔化せるでしょ」


「それでいいよな焔」


「我はそれで構わない」


「じゃあ、そういう事で頼むよ」


という訳でなんとか私の問題は誤魔化す方向で決まった....ってかそんなのでいいのか

後処理の現場にいるとまずいので私達は帰された


その後私達は千鳥ケ淵まで来ていた

年少組は疲れて寝てしまったので私と白でおんぶして歩いた


「ここの桜はどの時間帯に見ても良いな」


「そうだね」


「来年はお花見に行きましょう」


未来の約束もして私達は機関まで戻った

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