未知との遭遇

 だいぶ歩いた気がする。何か建物があるかと期待していたがそんなものは一向に見つからない。歩けど歩けど広がるのは先の見えない暗闇を纏う森のみ。私は特に怖がることも無く、あぁトイトブルクのローマ軍はこんな感じだったんかと楽観的に歩いていた。

「こんな所で歩いていたら危ないよ。」

 突然後ろから声をかけられた。ビクッと私は身を震わせる。先程まで通っていた道。人など何処にもいなかった。なんだかお化け屋敷みたいで楽しい。怖いものはあまり得意では無いが、今この現状を楽しむと決意した私にはもう怖いという概念が好奇心とすり変わっていた。

「大丈夫です!お気遣いありがとうございます!」

 そう言いながら振り返る。10m程奥に50代ぐらいのおじさんが佇んでいた。私はここが現実の世界では無いことを再確認し、おじさんを二度と見ることをしなかった。

「あのおじさん...

   片足なかったな。」


 そんな事を呟きつつ別段気にすることも無く歩みを進める。ここに来てから何故だか体が軽い。死にたいなんて一つも思わないし、死の恐怖だって無い。なんだか開放された気分だった。今までの自分が嘘のように私は今爛々らんらんとしている。ずっと気にしていた時間すらも忘れて私は歩き続けた。時には小走りだったりスキップをしたり。

 そう楽しく歩いているとふと目の前にトンネルが見えた。


 伊佐貫


 聞いたことも見た事もない、ましてやどう読むかすらも。トンネルは昔から少し嫌いだった。何故こんな暗く怖い雰囲気を漂わせているのか甚だ疑問だった。でも、今や何も思わない。このトンネルも小走りで駆け抜けてしまおう。

「そのトンネルは入らん方がええよ。あんたまだ生きてんだろ?それ通ると霊界に持ってかれるぞ。」

 どこからともなく声が聞こえた。私はまたさっき見たいな人かなと思い、声の方向を向いた。トンネルの上で少女が足をぶらぶらさせている。どうやら彼女に止められたらしい。

「それともなにか?あんたもう死んどんの?」

「いえ。私はただ電車の中で寝てただけです。」

 久しく人と喋った気もする。少女は興味深そうに私を見つめ、何を思ったかトンネルの上から私のところ目掛けて飛び込んできた。咄嗟に手を広げ、少女を助けようとしたが意味はなかった。彼女は某映画の飛べる石を持ったかのようにフワリと着地した。

「僕はここの管理人だ。死んでないんやったらこんな狭間に居ないでさっさと帰んな。」

 少女との謎の出会いをした。少女は先程のおじさんとは違い生きている。近くで見て直感でそう思った。とりあえず私は少女の言う通り踵を返し、来た道を戻る...いやここについて知らないなら彼女に聞けば良いのでは?そう思ったのと同時に踵をもう一度返し再度少女を見て早口で言う。知らないことを聞く以上に少女と話がしたい気持ちが先行していた。

「君も来てよ。ここの話聞きたい!すごい面白そうな場所じゃん!」

 少女の容姿を見ると非常に端正な顔立ちをしていた。銀髪のショートカットで背も自分よりずっと低い。可愛い。

「あんた本気で言っとんの?もっと怖がれや。またヤバいやっちゃ来たな。」

少女も渋々来てくれた。

 さあ何から聞こうかな。

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