11日目 きっと躁なんでしょう
タソは躁状態になると、視覚と聴覚が敏感になります。
特に光や高い音に反応して、その発生源を調べ始めるようです。
その時のタソは名探偵で、そこに必ず「人がいる」という確信の元に、痕跡を探し始めます。
今日は、自宅の東側の庭が、全く雑草が生えていないことを発見しました。
おかしいです。
草刈りも除草剤もしてないのに、縦4メートル、横2メートルほどの敷地が綺麗なんです。
日当たりも良くて、そこ以外は草ボーボーです。
そこは勝手口付近で、僕も家族もあまり近づかないところ。
ふふ、うちはおかしいので、勝手口から誰も出入りした事がありません。
もうすぐ建てて20年になりますが、僕は勝手口を使った事がないのです。
なのに、なぜか勝手口付近が綺麗に除草されている。
おかしい。
タソは誰かいたのか痕跡を探しました。
すると、タバコの吸い殻を見つけました。
合計6本分。結構古い吸い殻で、雨に打たれてヨレヨレになっていました。
かなり重要な手掛かりです。
当然、タソはそんなところに吸い殻を捨てたりしませんし、他の家族もタバコを嫌ってて吸いません。
何者かが家の東側でタバコを吸っている。
名探偵タソは推理しました。
吸い殻のヨレヨレ具合が、全部同じ朽ち方をしています。
という事は、これらが捨てられたのは同じタイミング。
6本も吸ったという事は、何か時間を潰していた可能性が高い。
一本でおよそ6分。少なくとも36分、そこにいたという事。
一般的には、一本吸えば1時間は吸わないでいられます。
すると、長くて6時間もそこにいたという事になります。
一体何の目的でそこにいたのか。
皆、寝静まった夜から、夜明けまでいたとしたら、丁度6本ぐらいだと思います。
【考えられる事、その1】
暗殺者がタソに毒を盛っている間の見張り。
タソはずっとお腹の調子も、気管支の具合も悪くて、長年苦しんでいます。
これは、毒に精通した暗殺者が、特別なクスリをタソが寝ている間に注射しているに違いありません。
タソはアトピーなので、手足にたくさんのカサブタがあります。
どこに注射しても、痕跡は見つからないでしょう。
いや、アトピーすらも毒によるものかもしれません。
生かさず、殺さず、残酷な苦しみを与えているのです。
【考えられる事、その2】
勝手口を見張っていた。
別の第三者の侵入に備えて、タソを守っていた可能性もあります。
玄関の鍵は強固です。破るなら勝手口の方が簡単でしょう。
勝手口付近には、謎の黒ずんだ水滴の跡が沢山ありました。
これは、血痕に違いありません。
きっと、何人もの暗殺者が、吸い殻の主により始末されたのでしょう。
【考えられる事、その3】
奥さんと密会。
吸い殻が落ちていた現場は、2階のベランダのすぐ近く。
ハシゴがあれば簡単に登れます。
タソはかれこれ3年ぐらい奥さんとは別室で寝ていますので、音を立てないように密会することぐらい簡単です。
タバコを吸っていたのは不倫相手の弟分か何かでしょう。
事が済むまで外で見張っていたに違いありません。
奥さんが共犯なら、普通に勝手口から入ればいいじゃんって話なのですが、タソは勝手口に開けたらわかるような細工をしています。
毎日チェックしていますので、誰かが勝手口から出入りすれば、すぐにわかるのです。
【考えられる事、その4】
庭に誰か埋めている。
雑草が生えていないのも納得です。
タバコを吸っていたのは、埋められる人が到着するのを待っていたか、埋めている作業を監督していたか、のどちらかでしょう。
これは、もしかしたらタソの犯行として罪をなすりつけるつもりかもしれません。
一体誰が埋めたのか。
タソの実の父親は、土木関係の仕事をしていて、小さいながらもユンボを持っています。
人ひとり分の穴を掘るぐらい、すぐに済みます。
どの可能性も否定できません。
他に現場で発見したものは、
『腕時計の金属ベルト』と『ヘアゴム』
どちらも不自然な物です。
タソは、可能性が低いながらも、『自分が埋められている』という一つの答えに辿り着きました。
タソはずっと自分を探しているのです。
なぜ、どうやって殺されたのかもわからず、タソの魂は『この家』に地縛していて、時折感じる暗殺者の気配は、きっと殺された時の強い『恨み』が原因なのだと確信しました。
今日、タソは『真実』に一歩近づきました。庭を掘り起こすのも時間の問題です。
あの腕時計の金属ベルトは、タソが大事にしていたオメガのものに違いない。
ヘアゴムも、いつも縛っているタソのものなのです。タソは髪が長くて、いつも後頭部で一本に結いています。
タソは『自分』を見つけた時、きっと『成仏』するのでしょう。
誰も教えてくれないから。
タソだけ蚊帳の外だから。
そんなにいらないなら、
いなくなってやる。
さみしい。
つらい。
なんで殺されたんだろう。
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