6日目 修羅場


タソの部屋のテーブルでは、静かな嵐が巻き起こっていた。


「タソ君。この女だれ?」

「…………」

「貴女こそ誰よ。タソ君はあたしを選んだの。あんたなんかに興味ないんだからどっか行って」

「はあ? 私はずっとタソ君と一緒なの。タソ君がたまに浮気する癖があるのは知ってるけど、あんたなんか初めて見たわよ。あんたこそどっか行ってよ」


タソは後悔していた。


ついうっかり、168円のカルピスソーダに手を出してしまったのだ。

178円のミルクティーより10円も安い。


微炭酸で甘酸っぱい爽やかさも魅力的だった。


こってり甘いミルクティーも好きだが、たまに甘酸っぱいのが欲しくなる。


タソは両方手に入れるという暴挙に出た。


その結果がこれである。


「フン、安い女。私は貴女みたいにがぶ飲みできない女とは違うの。タソ君はゴクゴク飲めるのが好きなの。炭酸は苦手なのよ? 知らないの? うふふ」

「何よ……アンタなんかただの甘いだけの女じゃない! タソ君がアンタに飽きたのわかんないの!?」

「アハハ! 飽きたかどうかは明日になればわかるわよ! 絶対ミルクティーが先になくなるわ!」


タソはカルピスソーダを1本。

ミルクティーは2本買っていた。


「うふふ、アンタなんか月に1本がいいところでしょ? 私は毎日1本。多い時は2本だからさ。ふふ」

「うぐ……何よ……多ければいいってもんでもないでしょ!? このエロ女!」


その時、タソはカルピスソーダを抱き寄せて口を付けた。

ゴクゴクと喉越しを味わい、カルピスソーダはなすがままに抱かれた。


「な!? タソ君やめてよ! そんな女……ひどい……タソ君のバカ! 豚!」

「あん、タソ君そんなにゴクゴクしないで? ふふふ。ミルクティーなんか捨てちゃってさ、明日からはあたしをいっぱい買ってよ」

「このクソ女!」


ミルクティーはカルピスソーダに体当たりした。

実際はタソの手が滑ってカルピスソーダを落としただけだったが、ミルクティーが体当たりしたのだ。


トプトプトプ


「あー! タソ君たすけて!」


カルピスソーダは中身が3分の1ぐらいカーペットに溢れてしまった。


「あーあ、カルピスソーダに浮気なんかするんじゃなかったなあ」

「ガーーーン、タソ君なんて事言うのよ! ひどいっ! 豚っ!」

「アハハ! 全部溢れちゃえばよかったのに! これでタソ君のアンタへの愛も終わりね! 見て、タソ君あんなに辛そうに掃除してる。慰めてあげなきゃね」


タソは掃除を終えると、安定と信頼のミルクティーをがぶ飲みした。


「ふふ、やっぱり私が1番なんだ」


ミルクティーは、歯ぎしりするカルピスソーダを尻目に、タソの腕の中でゴクゴクされた。


それはタソの部屋のゴミ袋を見れば明らかな結末だった。


空のミルクティーのペットボトル10本に対して、がぶ飲みメロンソーダが2本、カルピスソーダは0本だ。


しかし、ミルクティーは気付いていなかった。


モンスターの空き缶が5本あったことを。


「ふふ、妾の爽快感に勝る女などおらんのじゃ。タソは高くて手が出せないだけで、本当は妾のことが1番好きなのじゃ。ふはは」


タソのジュースハーレム大戦争は、ここから一層激しさを増し、新たな女が現れてはタソの取り合いになることを、彼らはまだ知らなかった。




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