第35話 後輩とエンカウント
「よお
オレは、後輩に声をかけた。
是枝は、ビクッとなってオレの方へ振り返る。すぐにパッと明るい顔になった。
「
是枝はペコペコと、人数分頭を下げる。
「硬いあいさつはいいよ、
ソフトクリームを食いながら、
「それにしても、ソフトクリームがバイク乗りの主食だってのは、本当だったんだね?」
莉子が聞くと、是枝は「はいぃ」と答えた。
「カロリー摂取だという説がありますが、ソフトクリームのカロリーは多くても三〇〇kcalだそうで、たいして多くないんですよねぇ」
是枝が、そう教えてくれる。
「暑いから食べるとの説もありますが、寒いときでも欲しくなりますぅ。もはや、儀式ですねぇ」
バイク乗りの生態は、謎のままだ。
「今日は先輩方みなさんで、おでかけですかぁ?」
「ちょっと南の方へな。お前は?」
「私は今から、仕事なんですぅ。バイク便で」
是枝はそういうが、以前見たバイクと、見た目が違う。以前より、かなりゴツい。
「前のバイクと違うな?」
「そうなんです。このバイクをお届けする、お仕事でしてぇ」
恋人が組み立てたバイクを、クライアントまで届けるバイトだったらしい。是枝が選ばれたのは、ドライビングの丁寧さと、新車のテストを兼ねているそうだ。
「こちらのバイクを、
「ああ、もしかすると、
オレたちの会話に、
「その、幸嗣さんとは?」
「わたしの従兄弟です」
萌々果さんの母親の、妹の息子なんだそう。分家の御曹司なのに家を継がず、バイク好きでキャンプにもよく行くらしい。
「たしか、新車を買ったって話は聞きました。それですかね?」
「ご家族にお話が通っているのでしたら、個人情報漏洩ではないですね。おっしゃるとおり、クライアントは幸嗣様ですぅ」
「やはり、そうでしたか。わたしにディレッタントのよさを教えてくださったのも、幸嗣さんなんですよ」
幸嗣さんは、萌々果さんの家庭教師をしていたそうだ。幼い萌々果さんに、自由に生きる楽しさを教えてくれたという。
「ちなみに幸嗣さんは、
楽しいことを教わる代わりに、当時専属メイドさんだった真庭さんとの仲を取り持ったそうである。
「恐縮です」
真庭さんが、頬を染める。めっちゃ好きなんだろう。話題にしただけで、わかりやすい反応をする。
「ワタシのカレシの仕事っぷりがよかったそうで、お世話になっているとのことですぅ」
是枝のカレシって、整備の腕が相当にいいんだな。黄塚が、認めるくらいだから。
「では、途中まで同行しませんか?」
萌々果さんが、提案してきた。
「いいな。一人ぼっちだと、しんどいだろ? 近くまで、一緒に行こうぜ」
「ありがとうございます。心強いですぅ」
だが、萌々果さんはまだなにかあるようだ。
「あのですね。よろしければ、後ろの座席に乗せていただくなんてことは……」
「それは、構いませんよぉ。テストもできますし」
萌々果さんの無茶振りを、是枝はすぐに承諾した。柔軟性が高い。
「ですが、ヘルメットが」
是枝が、あたふたする。
「お嬢様、ご用意いたしました」
真庭さんが売店から、ヘルメットを秒で買ってきた。ポイと、萌々果さんに投げてよこす。手慣れてるな。
「ありがとうございます。真庭さん」
萌々果さんが、顔出しのヘルメットを被った。
「お気をつけて。幸嗣さんの希望したチューンでしたら、かなりスピードが出ると思いますので」
「はい。心得ています。わたしは幸嗣さんのバイクには、六歳の頃から乗っていますから」
なるほど。だから、やりとりが自然なのか。
「ちょっと待った」
エンジンをかけようとした是枝に、オレは声をかけた。
「是枝、バイクがないのに、どうやって帰るんだ?」
「帰りは、電車ですかね。カレシが拾ってくれると言ってくれたんですが、断りましたぁ。カレシは忙しいですし、なによりバイクは自分で運転したくてぇ」
電車を乗り継いで、帰るという。現地解散なので、そのままどこかに泊まってもいいらしい。
「お時間があるんでしたら、お泊り会にご一緒しませんか?」
「よろしいんですかぁ、黄塚先輩?」
「ひろーいお部屋で雑魚寝になりますが、それでよろしければ、いくらでもお休みください」
萌々果さんが、そう提案した。
「帰ったらカレシさんとおデートなんでしたら、引き止めませんが」
「いいえいいえ。お邪魔でなければ、ご一緒したいですぅ。一人寝はさみしくてぇ」
カレシは夏でも仕事が忙しいらしく、邪魔をできないらしい。
莉子も
「では、よろしいですね」
「はい。おねがいしますぅ」
こうして、お泊り会に是枝も加わることに。
「ところで先輩は、とうとう黄塚先輩とお付き合いなさることに?」
ッスー……。
「後輩よ。変な誤解はしないほうがいいぜ」
「あっはい」
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