第30話 幼なじみは、神絵師だった!?

 莉子リコの手腕は、本物だったらしい。

 Vのアバター作成者としての技術的にはどうかわからないが、イラストにおいては、神絵師といってもいいくらいの実力である。

 幼なじみのイラストに関して、あまり関心を持っていなかった。

 だが、ここまでとは。


 オレたちは再び、専門学校の一室に集まったわけだが、莉子の神絵師ぶりに全員舌を巻く。


「どう? 『猫ミーム』っぽさも多少乗せてみたんだけど?」


 たしかに、デフォルメの中にリアリティがある。キャラの表情に、やや圧が見えた。

 

「とんでもない。莉子さん、すごいですっ。イメージぴったり」


 萌々果モモカさんも、満足げだ。


「そうかな? タッチとかは、もっと尖ってるほうがいいかも。その方が、もっと本物のネコらしくなるんだけど?」


 たしかに、デフォルメされすぎているといえば、そうであるが……。


「これで十分ですよ。リアルに寄せすぎると、AIが描いたっぽくなりますから」


 AIイラストを活用する手も、もちろんあった。しかし昨今、AI作品を商業利用するのは難しい。色々とクリアしなければならない規約が、大量にある。


「ノブロー、どう? 黙ってるけど」


「いや、最高だ。幼なじみとして、誇らしいな」


「もっと褒めていいのぞよ」


「なんで口調が殿様なんだよ?」


 とにかく、幼なじみが神絵師とわかって、オレも驚いていた。

 

「どうでしょう? 莉子さん的には、今後もストレスなく描けそうですか?」


 萌々果モモカさんとしては、賃金だけではなく、労働環境にも配慮したいそうだ。莉子が働きやすい環境づくりに、苦心している。

 

「いいかも。こういうタッチの作品って、需要がありそうでないから。あたしにはピッタリかも」


「よかったです。では、本採用としますね」


 あまり細かくなりすぎると、アバターとして動かしづらくなってしまう。サンプルキャラクターとしては、これでいいのかもしれない。


 莉子のネコアバターは、今後サンプルアバターとしてレンタルされることとなった。


「ついでなのですが、もう二、三キャラをお願いしてもよろしいでしょうか?」


「今度のサンプルは?」


「こんな感じで」


 イメージキャラクターの指示書を、萌々果さんが莉子に見せる。一つは韓流っぽい男性アイドルを、もう一つは令和女性アイドル風と書かれていた。

 女性の方は「フリフリの付け方」、男性アイドルの方は「目の鋭い描写」など、指示が細かい。

 しかし、男性アイドルはツリ目のキツネみたいだ。細いイメージなのか、顔が長くなっている。

 女性アイドルの指示書に至っては、ふわっとしたスカートのせいで、関取のようだ。「ニーソに余分な肉がムチッとほしいです」とあるが、見た目が関取すぎて太っているだけのように見えた。


 まさか萌々果さんが、いわゆる「画伯」だったとは。


「どうでしょうか。これで、イメージが湧きますか?」


「いけそうかも。ちゃんと色までつけて描いてくれっていうなら、ちょっと時間はほしいけど」


 スラスラっと、莉子がスケッチブックに下書きを始めた。


「こんな感じ?」


 莉子が、下書きを萌々果さんに見せる。


 まずは、韓流っぽい男性アイドルをパパッとシャーペンで描き上げた。


「すごいですね。ちゃんと韓流っぽいです! 甘ったるいんですが、蠱惑的な魅力がありますね!」


 あんな指示書で、よく描けるものだ。


「服装も、指示通りちゃちゃっと考えてみたよ。これでいいなら、家で仕上げちゃうけど」


「ありがとうございます。では、それでお願いします」


「OK。次は、令和風アイドルの方だね」


 女性アイドルの方は「へそ出しのミニスカメイド」という、シンプルであり大胆なデザインだ。

 

「こんな感じ?」


 また莉子が、スケッチブックを提出した。


 画伯の指示書に適応した、見事な令和風アイドルが完成している。


 ちゃんと、ニーソから余分な肉がはみ出ていた。ここまで再現できるのか。


「このラフが、こうなるのか」


 あまりのギャップに、倉田クラタも驚いていた。漫画家の娘だから、なおさらだろう。


「莉子さんを採用して、よかったです。ありがとうございます」


 まったく指摘もなく、莉子のデザインは採用となった。


「いやいや。指示書がいいから」


 指示書には「何を伝えたいか」、「どこを強調したいのか」が的確に明記されていると、イラストレーターとしてはわかりやすいらしい。


「指示付きのラフを描いてくれる時点で、滅多にないからさ。モモカちゃんは、いい依頼者だよっ」


「ありがとうございます」


 ラフイラストでさえ、一から自分で考える必要が出ると困惑するわけか。せっかく描いたのに、「イメージと違う」となる危険があるからだろう。


「でも、人からのリクエストイラストなんて、初めて描いたよ。緊張したぁ」


 莉子が、背伸びをする。


「マジか。これで、初リクエスト作品とは」


「だいたい、自分の好きなように描いてるからね。人から頼まれて描くなんてこと自体が、初めてだよ。でも、気に入ってもらえてよかった。ちゃんと仕事として成立したってことだから」


 莉子にも、自信がついたようだ。


「では、サンプルとしてこのアバターが完成したら、一度デビューしてみようと思います」



「おっ。モモカさんが試運転するのか?」


「はい。令和アイドルはわたしが。このネコさんは、ノブローくんでお願いします」


 ん?

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