第31話 お嬢様と、Vデビュー!?

 どういうわけか、黄塚コウヅカ 萌々果モモカさんとVTuberとしてデビューすることになった。といっても、ただのサンプルキャラクターとしてだが。


「ノブローくん、ボイスチェンジャーをお持ちしました。これを使えば、誰にもバレません」


 萌々果さんが、手持ちのボイスチェンジャーを用意した。


「よく持っていたな?」


「こうなることは、事前にわかっていましたので。それでも、予算は大したことはありません。かなり安価で手に入れました」

 

 オレのキャラクターはネコのマスコットなので、オレの地声よりかは声を変えたほうがいいだろうとなった。


「えらい小さいんだな。三千円だと、こんな感じか」


 ボイチェのサイズは、スマホくらいしかない。

 こんなんで本当に、声が変わるのか?


「本格的なやつだと、二、三万はするよ。とりあえず低予算でもできるかどうか、ためしてみよう」


 莉子リコいわく、無料アプリでも試せるが、ひとまずこの価格帯でできるか、チェックすることに。


「やってみましょう」


 ボイチェとマイクを繋げて、萌々果さんがオレにマイクを向けた。


「ノブローくん。なにか、声を発してください」


「あー、あー」


「ちょっと抽象的すぎて、よくわかりません」


「つっても、なにを話せば……」


「ほわああああ!」


 オレが言葉を発した途端、女性陣がうなる。


 たしかに、オレの声はちょっと宇宙人ぽくなっている。

 

「面白いな」


 倉田クラタも、興味ありげだ。


 その後も、色々としゃべってみて、声の具合を調節する。


「これが一番、このキャラクターぽいですね。では、これで固定設定しておきます」


「よろしく頼む」


 ボイチェの設定を終えた。調節した設定を、萌々果さんがメモる。


「倉田もやってみるか? ヤマダセーラっぽく、しゃべってみてくれよ」


 オレは倉田に、ボイチェを差し出す。


「わかった。あー、あー。どうもごきげんよう。ヤマダセーラⅡ世でございますわよ。本日も、エレガントに参りましょう」


 ネコと同じ声の設定で、倉田も話してみる。

 

「ほわあああああ!」


 宇宙人ヤマダセーラが、地球に攻めてきた。そんな感じにさせてくれる。


「いいですね。思っていた以上に面白いです!」


「莉子もやってみせてくれ。莉子は、イケメン韓流スターをやってみろよ」


 今度は莉子に、ボイチェが回った。

 

「えーいいのー?」といいつつ、莉子はちょっとノリノリ気味である。


「仕方ないなあ。あーあー。ドウモ。ニホンノミナサン。マイリマシター」


 莉子は、設定をいじくった。韓流スターっぽく、やや棒読みでしゃべってみる。


「ほわああああああ!」


 これまた、萌々果さんには大ウケだ。手を叩いて、喜んでいる。


 思っていた以上に、このマシンは使えそうだ。耐久性も申し分ない。

 

「じゃあ、本番だ。萌々果さんが話してみてくれ」


「そうなんですが、このコの名前、どうしましょう?」


 新設のレンタルVTuber事務所、【ねころんJAM】のイメージキャラとなる。じきに別のキャラクターが、公式で作られるんだろう。が、今のところはタキシードネコと令和風アイドルが看板キャラクターだ。


「そもそも、こいつは何者なんだよ? アイドル活動中なのか、アイドルになりきっている一般人か人外なのか」


「元・生身の地下アイドルです。地下活動中にネットの世界に閉じ込められたんですが、居心地がよかったのでそのまま住み着いている設定です。ややヘラっていますね」


 案外、設定が濃いな。


「でんぱでんのーちゃん・カッコカリと、一応名前はあるんですけどね」


「長いな。略そう」


「では、【でのちゃん】で」


 うわっ。ギリギリ攻めてくるな、萌々果さん。

 

「こっちのネコの方は、どうすっか?」


「ネコさんは、案内役です。彼が、電脳世界にでのちゃんを連れてきたって、設定ですね」


「どうして、連れてきたんだ?」


「でのちゃんは、売れないアイドルだったんですが、ネットでの人気はカリスマ的でした。それで、いっそのことネットの世界で生活してもらおうと考えたのです」


 かなり尖った設定だったんだな。


「アイドルの方は【でのちゃん】で、ネコの方は……莉子が決めてくれ」


「えー。あたし? うーんとね。じゃあネコちゃんが、ねころんJAMにでのちゃんを招待したってことにしよう」


 莉子の提案に、「それいいですね!」と、萌々果さんも手を叩く。


「名前だけど、なにがいいかなー。ジャム男とか」


「児童向けアニメの、あんぱん作るおじさんとかぶるな」


「だよねえ。じゃあ、ジャムろん?」


「それでいいか。じゃあ、【ジャムろん】って名乗るから」


 オレが意見を聞くと、萌々果さんからも、OKサインが出た。


「では、台本を作っておきますので、お楽しみください」


 こうして、後日収録という形に。


 それまでには、莉子が注文を受けたアバターも完成するだろう。


「ところでさ、ノブローと萌々果ちゃんって、付き合ってんの?」


「付き合ってないっ。それ、倉田にも言われた」


「でもさ、カップルにしか見えないよ」


「どうだろうな。オレなんて、視界にも入っていないんじゃないかって思うぜ」


「いやいや。自然すぎて、ノブローが気にしてないだけだって。あれは絶対、気があるよ」


 うーん。そう言われても。


 とにかく、あまり萌々果さんの感情には、期待しないようにしよう。

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