第23話 ヤマダセーラ・Ⅱ世の中の人

 萌々果モモカさんが突然、倉田クラタを昭和系Vの中の人だと言い放つ。


 オレも、唖然となっている。

 

「ど、どうしてそれを!?」


 倉田は、否定しなかった。事実だったんかいっ。


 ちなみに、ケン莉子リコは、オレたちの会話を聞いていない。ヤマダセーラⅡ世の動画に、見入っている。本人が目の前にいるのに、だ。



「どうして黄塚コウヅカさんは、私がヤマダⅡ世だと気付いた?」


 当然の疑問を、倉田が萌々果さんに投げかける。

 

「実はわたし、『ダメ絶対音感』持ちでして」


「いや、オレ聞いたことねえよっ」


 ダメ絶対音感とは、スタッフロールを見ないでキャラの声優を当てられる能力のことだ。


 とはいえ、これまで萌々果さんがそんな能力を披露したことは、一度もない。

 

「今のは、冗談です。実は、手の動きや、さりげない動作などが、どことなくヤマダセーラさんにそっくりでしたので、カマをかけてみました」


 それが、ドンピシャだったってわけか。洞察力の化身だな。


「顔バレしないように、注意は払っていたつもりだったんだが」


「わかる人には、わかるものですよ。ダテにディレッタントは、名乗っておりません」

 

 得意げに、萌々果さんが胸を逸らす。


「では、話がある。遠足が終わった後、どこかで話せないだろうか?」

 

「よろしくて、ですわ」


 萌々果さんが、ヤマダセーラの声マネをした。




 遠足が、終わりを迎える。

 先生に感想のレポートを提出して、解散となった。



「二人とも、ちょっといいか?」


「どうした、ノブロー?」

 

 オレは、さりげなく「ヤマダセーラに中の人がいたらどう思うか」と尋ねてみる。


「別に、どうもしないな。中の人は中の人で、がんばれば? ってしか思わないぜ」


「そうだよね。あたしが愛でているのは【ヤマダセーラ】個人なのであって、中の人は気にならないよ」


 倉田がヤマダセーラであるという話は、賢と莉子には最後まで聞かれていないみたいである。まあ、二次元至上主義である二人に、倉田が中の人だと話しても「あっそう」と返されそうだが。


「そっか。わかった。じゃあな」


「おう。また学校で」


 賢と莉子と別れて、三人でビジネスホテル【OWO】へ。

 なぜか、倉田といっしょにビジホへ向かう流れに。


 萌々果さんが、倉田を支配人室に通す。

 

「ここが、黄塚さんの所有物とはなあ」


 管理人室にしては広い空間に、倉田は口が開きっぱなしになる。


 だよなあ。誰だって、こんなリアクションになっちまうだろう。


八代ヤシロは、入ったことがあるのか? そもそも、どうして黄塚さんと親しいんだ?」


「ここが、オレのバイト先」


 オレがここでバイトを初めたいきさつを、倉田に話す。


「なるほど。交際しているわけじゃないんだな?」


「大いなる誤解だ」


「端から見ていると、二人は仲がよさそうだ」


「仲良しなのは、事実だな。目的も同じだし」


 しかし、恋愛感情まであるかというと、謎である。


「な、萌々果さん?」


「はい。わたしとノブローさんは、ディレッタント仲間です」


 萌々果さんも、ちゃんと説明をする。


「ディレッタントか。さっきも話していたが、具体的にはオタ活の延長でいいんだよな?」


 そのニュアンスで、合っているはずだ。

 

「ちなみに、あんたも推してる」


「どうもありがとう。よかったら高評価よろしく」


 いつもはネット上でしか聞けないYouTuberの決めゼリフを、生で聞けるとは。


「では倉田さん。お話というのは?」


「実は、もう話は通っていると思うが、案件についてだ」


 なんと、ヤマダセーラがこのビジネスホテルを取材するらしい。


「マジか。おかしくないか? ここに昭和要素なんて……あったな」


 たしか、フードコーナーに、数少ない昭和自販機が並んでいる。

 生麺のうどんや、レンチンのカレーを売っているんだよな。


「他にも、鉄のホースを突き刺すタイプのカップ麺自販機もあるだろ? あと、栓抜きがついた、瓶コーラ自販機も置いてある。なかなか珍しい」


「ええ。昭和レトロ自販機なら、ウチでだいたい揃いますよ」


「そもそもここは、昭和時代からあったホテルをリフォームしたんだってな?」


「よくご存知ですね」


 このホテルは、新築ではない。

 バブルで負債となったホテルを買い取って、ビジホとして売り出したのだという。


「その自販機を、取材させてもらいたいんだ」

 

 案件の許可を、もらいたいそうだ。


「ただ、ビジネスホテルに関してだが、お邪魔にならないか心配なんだが」


「問題はありません。フードスペースは、共有していますから」

 

 黄塚グループのホテルは、女性専用、家族連れ用、会社員用と別れている。だが、フードエリアは共有だ。

 女性客の中には、タクシードライバーに混じって食事を取りたくないという声もある。

 自販機エリアまで行きたくない客は、室内電話で商品のお取り寄せも可能だ。


「顔バレをしたくないが、昭和自販機のうどんは食べてみたい。で、ホテル内でお取り寄せ可能なこの場所を選んだ次第で」


「承知しました。宣伝をなさってくださるなら、大歓迎です」


「ありがとう!」


「でも、それだけじゃないような気がしました」


 ギク、と擬音が出てきそうなほど、倉田は縮こまる。


「なにか、お悩みでもあるのではないでしょうか?」


「実は、伸び悩んでいるのだ」

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