第21話 昭和系VTuber 

「ないないないない」


 オレは、秒で否定をした。オレと萌々果モモカさんが交際しているなんて、とんでもない。


「実はですね、わたしの父が運営しているホテルで、八代ヤシロくんがバイトをしているんですよっ」


 萌々果さんも、フォローしてくれる。


「そういうことか。わかった」


 さすがの倉田クラタ 浅葱アサギも、黄塚コウヅカ 萌々果モモカがお金持ちだと知っているようだな。


「というわけで、ただの知り合いってわけ」


「うむ」


 倉田は納得してくれたようだ。


「では、仕事があるので失礼する。ごちそうさま」


「おう。気を付けてな」


 オレたちは、倉田と別れた。


「倉田もバイトか。なんの仕事をしているんだろうな」


「女子の間でも、倉田さんって、謎なんだよねぇ。黄塚さんは高嶺の花だけど、倉田さんはまさしく生粋の一匹狼だよ」

 

莉子リコ。倉田って、人を避けている感じなのか?」

 

「どうだろう? 自分からも来ないし、人も寄っては来ないよね。話すと普通だから、特に嫌われてはいないよ。親切だし」


 頼まれ事をしても、速攻で応対してくれるそうだ。


「ひとまず、帰るとするか」


 昭和の満喫は、遠足でもできる。



 帰宅後、莉子からメッセが来た。


『昭和系VTuberが、今からあたしたちが行くところを紹介してる動画があったよ!』


 とのこと。

 これを見てから、回るルートを吟味しようではないかと、提案された。


 ある意味、聖地巡礼みたいなものか。


 どれどれ……。


 PCを立ち上げて、動画の再生を始めた。

 

 スマホから、莉子に連絡を入れる。

 

『どうも。昭和系VTuberの、【ヤマダセーラ・Ⅱ世】でございます』


 夏用のセーラー服っぽい、昭和アイドル風のイラストアバターだ。髪型もアクセも、当時のデザインを意識していた。


『今回はですね。戦争の焼け野原でも生き残った、風情のある街を案内いたしますわ』 


 目の大きさやキャラのしゃべり方など、すべてが昭和らしさを出している。


「あーっ。昭和のアニメに出てくる声優さんみたいなしゃべり方だな」


「わかる! 当時のアニメの美少女キャラって、みんなこんな話し方するよね!」


 電話越しから、莉子が騒いでた。ツボっているらしい。

  

『ご覧くださいまし、この昭和な佇まい』


 一人称視点で街を映しつつ、右下にいるアバターがしゃべっている。


『隣にはこれまた団地群がそびえ立っておりますわ。令和の時代にまだこんな光景が残っているなんて、情緒がございましてよ』


 昭和感満載でございましてよ。


 街を歩くシーンが終わって、ヤマダセーラは商店街に移動した。


『ランチは、町中華に参りますわ』


 ヤマダセーラが入ったのは、壁にツタが生い茂っている町中華だ。


『純喫茶のカツカレーも、そそられますの。辛さがマイルドでございまして、福神漬やらっきょうとの相性も抜群なんですのよ。でも、今の口は町中華のミソラーメン!』


 映像を見ているだけでも、足元が油まみれなのがわかる。これだけで、超うまそうだとわかってしまった。夕飯を食べたばかりなのに、口の中がミソラーメン一色になる。バイカーが夜中にラーメンを食いに走る感情が、今ではわかる。


『参りました。これですわ。ミソラーメン。御覧なさいまし、この具の多さ! 野菜モリモリですわ。お野菜の島ですわ』


 ヤマダセーラの言う通り、ミソラーメンにはキャベツやニンジン、あとモヤシが盛られていた。豚のバラと混ざり合って、これは最高にうまそうである。


 萌々果さんと行ったタンメンとは、違うベクトルの美味だろう。

 

『モヤシのみの具材を野菜とのたまうのも、令和の常識なのでしょう。ですが、このキャベツ増し感を見てくださいましよ』


 麺を持ち上げながら、ヤマダセーラがフーフーをする。アバターの少女も同じポーズでフーフー。


『ではいただきます。ズルズルっと』


 アバターの少女が、テーブルをドンドンと叩く。


『これですわ。ザ・町中華。この味わいはたまりませんわ』


 野菜はシャキシャキで、豚バラと相性が抜群らしい。

 中太麺が味噌のスープに絡んで、これまたうまそうだ。


『またこのスープ。これは、少しお残ししておきます。最後の締めに、最高の食べ方をいたしますので』


 ああ、こんな時間に飯テロを食らうとは。


『で、締めは、こちら』


 ヤマダセーラが持ち出したのは、半ライス。これを、丼にぶち込む。

 ちゃんとヤマダセーラは、ある程度具材を残してある。用意周到だ。

 

「うっわ。絶対にうまいやつだ」


 少し残った具とゴハンを、レンゲですくってかき込んだ。


『ああ。わたくしは、これをやりに来たんですわ』


 食事シーンが終わったところで、動画は終了した。 


「これ、いつごろの映像だ?」


 動画を見終えて、莉子と話し合う。


「去年だって」

 

「店、まだ残ってるかな? あるんなら、入りたい」

 

 オレも莉子も、店の場所を調べた。


「あーっ! なくなってるーっ!」

 

「去年閉めただって!?」


 動画が人気すぎて、人が殺到して店主がダウンしたという。

 

 やられた。バズると、たまにこういう自体が起きる。


 せっかく、ミソラーメンの口だったのに。


 次の学校で、味噌味のカップ麺買おうっと。

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