第四章 ディレッタント、ヤンキーちゃんをプロデュース!?

第20話 遠足の班分け

 なんと萌々果モモカさんが、オレたちに声をかけてくるとは。


 普段から、オレは萌々果さんとしゃべっている。だから、ある程度は免疫があるけど。


 ケン莉子リコの二人は、ほぼ初会話だ。


 オレも予想外だったので、呆然としている。


 萌々果さんのことだから、なにか狙いが合ってのことだとは思わない。オレをおちょくろうとも、考えていないだろう。


「おっけー。黄塚コウヅカさん、一緒に回りましょ」


 なんの疑問も持たず、莉子リコは萌々果さんの同行を承諾した。さすが、オタク系の陽キャである。


「ありがとうございます榎本エノモトさん」


 萌々果さんも、同性の友人ができて楽しそうだ。

 

「よ、よろしく」


 ケンはまだ緊張しているのか、ちょっと萎縮気味だ。まあ、生まれ育った商店街の再生計画は、萌々果さんの父親にかかっているんだからな。畏れ多いのかも。


「こちらこそ、よろしくおねがいします。斎藤サイトウくん」


「そこで、あと一人なわけだが」


 オレは、教室の隅にいる、ちょっとヤンキーめの女子に視線を移した。


 実はこのクラス、萌々果さんの他に孤高の存在が、もうひとりいる。

 倉田クラタ 浅葱アサギさんという、女子だ。倉田は教室でも、誰とも打ち解けようとしない。コミュニケーション下手な萌々果さんと違い、倉田は自分から人との接触を避けている。そんな感じがした。オレたちと倉田の間には、なんか見えない壁がある。


 ヤンキーと言っても、ギャルのようにはなしかけやすいわけじゃない。見た目が昭和ヤンキーなのだ。「スケバン」っぽいと、いえばいいか。


 見た目がちょっと怖いので、誰も


八代ヤシロくん。わたし、倉田さんともお話してきます」


 萌々果さんは、倉田との接触を試みようとしている。


「おう。そうか。一緒に勧誘してみるか?」


「お願いできますか?」


「わかった。ついていく」


 オレも、倉田を誘うのに同行した。


「あの、倉田さん」


「ん?」


 窓を見つめていた倉田が、顔だけをこちらに向ける。目を細めているが、刺々しさはない。夕焼けが眩しくて、目が痛いのだろう。すぐに、表情が柔らかくなる。


「洋館めぐりなんですが、一緒に回りませんか?」


「いいよ」


 そっけない。だが、同行自体に嫌な印象はない様子だ。


「ありがとうございます。では、ご一緒しましょう」


「うん」


 莉子が、「前日に、みんなでお菓子買いに行く?」と話し合う。


 倉田も渋っている様子はなく、一緒に買いに行くと言った。


「ウチの近所が駄菓子屋だから、回ろうぜ」


「やった。あそこの百円クレープ好き」


 莉子がバンザイする。


「ノブ……八代くん。クレープって百円で食べられるんですか?」


 驚きのあまり、萌々果さんは素が出てしまいそうになったようだ。


「行ってみれば、わかるよ。オレもマジかよって思ったから」




 数日後、オレたち五人はクレープが食える駄菓子屋へ。


 お菓子の品揃えが、もはや懐かしいを通り越して新しい。見たことがないものばかりだ。


 オレたちは、一口サイズのガムやラムネなど、予算範囲内で買う。


「ノブローさんノブローさん」


 小声でさりげなく、萌々果さんがオレの袖を引っ張る。

 

「ノブローさん、迷ってしまいます」


 何を買おうか、萌々果さんはひたすら凝視していた。


「一通り買ってみて、予算の範囲だけで持っていけばいい」


「チョコレートなどはカバンの中で溶けるから避けろ」とだけ、アドバイスをする。 

 

 倉田はカットするめやカルパス、砕いた袋麺などを買い込んでいる。晩酌かな?

 

 で、百円クレープを買う。


「まあ。生クリーム、カスタード、チョコだけではありません。ツナやタマゴなどのおかず系もありますよ」


 メニューを見て、萌々果さんが興奮した。


 莉子が率先してオーダーし、バナナクレープを焼いてもらう。

 萌々果さんに、選ぶ時間をあげているのだ。


 焼けるのを待っている間、萌々果さんがクレープを選ぶ。


 莉子のクレープが焼けた。春巻きのように、折って包むタイプである。


「本格的ですね。百円とは思えません」

 

 

「オーソドックスな生クリームと、おかず系のツナを両方いただきますっ」


「二つ、食べられるか?」


「このサイズなら、なんとか」


 オレと賢はカスタードを。

 倉田はあんこにした。


「おかずクレープ、初挑戦です」


 萌々果さんはまず、ツナのクレープを口にする。ああ、これは絶対にうまい顔だ。


「おいしいです。これで百円とか、採算が取れるんでしょうか」


 うっとりしながら、萌々果さんはクレープを頬張る。


「おっ、黄塚さん、ちょっと」


 オレは、ポケットティッシュを用意した。


「動くなよ」


 萌々果さんの口についた生クリームをとってやる。


「ありがとうございます、八代くんも、動かないで」


 今度は萌々果さんが、ハンカチを出した。オレの口についていたカスタードを拭く。


「ありがとう、黄塚さん」


「どういたしいましてぇ」

 

 今でこそ、お互い名字で呼び合っている。が、二人だけだとまた下の名前で呼び合うんだろうな。

 

「ちょっといいか?」


 倉田さんが、口を開く。


「二人は、交際しているのか」


 おお。やっぱ、そう思われてしまったか!

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