第19話 地雷系お嬢様

 なんと萌々果モモカさんのファッションは、地雷系ではないという。


「ほらあ。やっぱりお兄は、わからなかったじゃーん」


 アハハーと、菜乃ナノが笑った。


「よく勘違いされるけど、このファッションは量産系。地雷系とは、ちょっと違うんだよ」


「だそうです。ノブローさん」


 ふむふむ。


「菜乃。量産系ってよく聞くけど、どういう定義で『量産』なんだ?」


「どこにでもいる、普通の子って意味だよ」



 誤解されやすいが、量産系女子はここまで衣装を着込むわけじゃないらしい。普通のコーデで構わないという。


「それで、十分かわいいからね」


「なるほど。つまり、いつもの萌々果さんって意味か」


 オレがそう告げると、萌々果さんが頬を染めた。


「それは、量産型だということでしょうか。それとも……」


「おお、やめよう。その話題は」


「そうですね」


 オレたちがあたふたしている中で、菜乃だけがニヤニヤする。


「さて、いよいよ地雷系をお披露目しちゃうね。また、待ってて」


 菜乃は萌々果さんの背中を押して、また退出した。


 その間に、昭和アニメの続きでも見るか。


 最新情報を見た後は、こういう懐かしいノスタルジアに浸るのが心地よい。


 さっきの萌々果さんによく似たルックスで固めたお嬢様が、画面から出てきた。

 この頃から、量産系女子っていうのはいたんだろうな。髪型とかは当時流行っていたアイドルを意識していて、時代を感じるが。


「おまたせ、お兄」


 また、菜乃と萌々果さんが戻ってきた。


「これが、地雷系」

 

 萌々果さんの衣装が、とんでもなく地雷系だった。デカい黒リボンの付いた黒いブラウスに、濃い紫のフレアスカートという出で立ち。

 さっきおさげだった髪もアップにして、ツインテールになっている。

 量産系のときは、指に何もついていなかった。今は、指輪やブレスをジャラジャラとはめている。


 しかし、違和感が拭えない。これは、もしかすると。


「あれ、さっきの服とあんまり変わっていないような」


 髪型や小物類は変わっているが、他はすべて色違いに見えた。


「そこに気づくとは、やはりオタクよのう……」


 菜乃が、したり顔でアゴに指を当てる。


「そうそう。実はこれ、さっきの色違いにしただけなんだよね」


 地雷系とは、やや闇を持たせた感じのファッションを言うらしい。量産型女子の服装に、ダークめの色合いを混ぜた程度のコーデでいいのだ。


「ウチは気に入ったものは、色違いも揃えるんだよね」


 それを、萌々果さんに着せていたわけだ。


「どうだ? 初の地雷系体験は?」


「なんだか、不思議な気分です。見えない力が、発動しそうですね」


 萌々果さんが、邪気眼に目覚めそうになった。


「闇落ちする前に、元に戻せよ」


「はーい」

 


 早々に元に戻すよう、妹に命じる。


 着替え終わった辺りで、萌々果さんの秘書である真庭マニワさんが、車で迎えに来た。

 

「その服は、あげるから」


 菜乃が、大量の衣装を萌々果さんにプレゼントする。


「よろしいのですか? 結構な値段がしましたでしょ?」


 紙袋を二つ抱えて、萌々果さんは戸惑った。


「いいからいいから。ウチはお兄と違って、親から甘やかされてるし」


 まだ中学生なので、バイトもしていない。

 親は中学までは溺愛してやるが、高校に入ったらバイトしろと話している。


「他にもコーデの雑誌とか、詰めておいたから。またお話聞かせてね~」


「はい。今日はありがとうございました。ノブローさん。菜乃さん」


 萌々果さんを乗せた車が、走り去っていく。


「お前、萌々果さんと何をしゃべったんだ?」


「別に。バイト先ではどんな感じ? とか、デートの感想とか?」


「デートではない。ディレッタントとして、どう活動していけばいいかの相談に乗ってるだけだよ」


「デートじゃーん」


「うるせえな。夕飯の支度するぞ」


「ほーい」


 今日は夕飯に「泥棒パスタ」、つまりミートボールスパゲッティを作ることに。

 妹に手伝ってもらい、肉団子を作る。


「お兄さあ、学校でも一緒なんだから、もっと話せばいいじゃん」


「オレはオレで、クラスにダチがいるからなぁ。お近づきになりづらいんだよ」

  

「菜乃。萌々果さんの印象は、どんな感じだった?」


 肉団子を丸めながら、オレは菜乃に尋ねてみた。


「好奇心旺盛な人だよね。色々質問してきてさ。話しやすいよね」


 萌々果さんは何でも知っているようで、オタ知識に飢えている。単なる新しいもの好き、ってわけでもない。


「面白い」


「そうか。それを聞いて安心した」


「もっとウチに呼んでも、いいんじゃない?」


「今度、話しておく」


「やった。ウチのコーデで、おでかけさせよっと」


「あんまり、やりすぎるなよ」


「わーってるってー」


 萌々果さんが持ってきた刑事ものコラボカステラは、両親にいたく気に入られた。

「自分でも買ってくる」と、母は息巻いている。




 翌日の夕方HRで、遠足の日程と場所が決定したと報告があった。

 内容は、洋館巡りである。歴史的価値の高い建物へ、お邪魔するのだ。


 オレは、ケン莉子リコと回ることにする。だが、ひとり足りない。


「あの、八代ヤシロくん、斎藤サイトウくん、榎本エノモトさん! ご一緒してもよろしいでしょうか!」


 なんと、萌々果さんが自分からこちらに話しかけてきた。


(第三章 完)

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