第18話 量産系お嬢様

 萌々果モモカさんが、二階にあるオレの部屋に入った。

 

「ここが、ノブローさんのお部屋なんですね」


 オレの部屋を見回しながら、萌々果さんがテーブルの前に正座する。


「至って普通だろ?」


「はい。あまり物が置いてありませんね」


 趣味のほとんどを、オレは電子で整理しているのだ。

 以前はモノで溢れかえっていたが、すべて売るか捨てるかなどをして処分した。

 ミニマリストって、わけじゃない。家が狭いから、そうしているだけで。

 オレの私物は、大事にしてくれる人の手に渡ってくれれば、それでいい。


「オタ活としては、持っておいたほうがいいんだろうけどな」


「好きなものに囲まれて過ごすことは、楽しいかと思います。とはいえ、収納には限界がありますからね。モノは増えすぎると、管理も掃除も大変になります。キャパオーバーになって大事だったものがホコリまみれになるより、厳選して愛でるほうがいいのかも知れません」


 たしかに、本当に大事だったものは、捨てずに取ってある。

 

「お茶どうぞ~」


 菜乃ナノが、お盆を持って上がってきた。


「ありがとうございます。ナーさん」


 さっそく萌々果さんが、菜乃にあだ名を使う。


「ごゆっくりー」


 すぐに、ナノが引っ込んだ。


「さて、映画を見るか」


「はいっ」


 オレはTVに、動画サイトを視聴可能にするデバイスを繋げている。

 リモコンを操作して、動画サイトを立ち上げた。


「映画用の、TVなんですね」


「リアルタイムで、アニメも追いかけないからな。ほとんど動画サイトで、イッキ見をする」


 今日は、小説原作の実写ラブコメだ。

 色々改変されていたが、これはこれで。


「いやあ、楽しかったです」


「家でまったり見るには、ちょうどよかったな」


 ただ、ヤバい。

 もどかしくて、モヤモヤする。頭がピンク色になるというか、恋をしたくなるように構成されていた。主人公もヒロインも、「こんな恋人がいたらいいな」と好感が持てるようになっている。

 部屋が、ムワッとした空気に包まれてしまった。


 買ってきたカステラより、映画のほうが甘い。角砂糖をまるまる、口に放り込んだ感覚に近かった。

「砂糖を吐く」って感情を、まさか自分で味わうことになるとは。


「はい。映画館でこれを見に行ったら、それこそカップルだらけだったでしょう」


 そう言って、萌々果さんは黙り込んだ。なんだか、意識してしまったらしい。


「他の作品も、見てみるか?」


 空気を変えるため、他の話題をふる。

 見たい映画やアニメがあるか聞き、オレたちは引き続き視聴を始めた。


「これは、時間が溶けるやつですね」


「それでも、まだ余裕はあるな」


「……そうです。わたし、妹さんにやってもらいたいことがあったのでしたっ」

 

 萌々果さんの言葉に、オレもあることを思い出す。


「まだいるはずだから、下に降りてみようぜ」


「はいっ」


 妹を探して、一階のリビングに。


 我が妹の菜乃も、TVに繋げたデバイスで動画サイトを見ている。こっちは、声優の舞台を見ているようだ。


「菜乃さん、お時間よろしくて?」


「よろしくてですよ~」


「実は、地雷系というものを教わりたく」


「おお。ファッションに興味あり?」


「そうなんです」


「じゃあ、ウチの部屋においでよ」


 また、二階に上がることになった。


「兄貴も、ついておいで。お茶とお菓子も持ってね~」


「はいはい」


 オレは自分の部屋から、お盆を持って妹の部屋に。


 こちらはオレの部屋とは違って、もので溢れかえっている。一応整理されていて、床にものが散らばっているわけじゃない。とはいえ、ありとあらゆる洋服や小物類、コスメなどが、周りを占拠している。


「じゃあ、兄貴は出ていってね~」


 萌々果さんの分だけをお盆から下げて、オレは押し出される。


「着替えが終わったら、また連れてきてあげるからね~」


「はいはい」

 

 着替えている間、オレは見たかったアニメを引き続き視聴した。

 ちょっとラブコメはやめて、アクションモノにしよう。ガチガチの、何も考えなくていい昭和ロボットアニメで、中和する。腕がロケットになって、敵の方角へ吹っ飛ぶ。こういうのがほしい。


 その間にも、女子たちのキャッキャという話し声が。


 お互い、打ち解けているようでよかった。 


 こちらはこちらで、主人公のマシンをパワーアップのために改造している場面になる。なんの因果なのか。


「終わったよ~」


 菜乃と萌々果さんが、オレの部屋に入ってくる。


「おお、なんとまあ」


 萌々果さんの衣装が、ピンクのフリフリに変わった。白いブラウスに、大きめのリボンがついている。お嬢様というより、お人形さんと形容できた。夏っぽさを出すためか、腕も出してある。

 シンプルにまとまった小物も、萌々果さんのかわいさを邪魔しない。


 ツインテも、ちょっと巻き毛気味である。「おさげ」といえばいいか。


 ただ、ちょっといつもの地雷とは違うかな。 


 妹もTシャツと短パンから、萌々果さんと似たようなガーリーファッションに変わっていた。こちらはミニスカに白いニーソを履いている。


「透明感があるな。これが、地雷系か~」


 オレがいうと、妹が首をかしげた。

 

「え、これ量産系だよ?」

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