第二章 ビジホで働けと言われて、オタ活しかしていないんだが?
第6話 黄塚宿泊サービスの概要
オタ活のお手伝い、二日目を迎える。
ビジホでバイトすることになったが、オーナーがクラスメイトだった。
夢のような話だが、本当である。
仕事時間は、放課後から夕方までの二時間だけ。土曜は、朝から夕方のフルタイムである。日曜日は、完全休日だ。平日は任意で、休みたい日を決めていい。月曜か水曜日に決めている。
しかし、給料は一週間で、コンビニバイト五日分をくれる契約だ。
当分一週間くらいは、昼までの授業が続く。
稼ぎどきと言えばそうなんだけど、申し訳ないな。
なんせ仕事内容が、オタ活してればいいだけなのである。
遊んで金が入るってんだから。
いつものように、ビジネスホテル【
ここを経営しているのが、一八歳の女子高生ってんだから。
「申し訳ございません。当ホテルはお子様のご利用は、保護者同伴でも禁じられております」
「えーっ。一番安いホテルを見つけたって思ったのに」
小さい子どもを連れた家族連れが、受付で宿泊を断られていた。
アジア系の、飛び込み客か。
おそらく、値段の安さだけで選んだのだろう。
ちゃんと看板にも、サイト内の概要欄にも載ってるぞ。
「一五歳未満の利用は、保護者同伴でもアウト」だって。「完全予約制だ」とも。
「こちらのホテルでしたら、空いております。いかがでしょうか?」
受付さんが、タブレットを客に見せる。
やや値が張るが、系列のファミリー向けホテルだ。
元々デパートと一体だったマンションを、ホテルに改造した施設である。
「こっちよりちょっとだけ高いだけなのに、広いね。じゃあこっちで」
「かしこまりました」
一階のコワーキングスペースでは、まだ書類作成をしているサラリーマンが。
フリーWi-Fiで、オンラインゲームコーナーもある。
「どうも。
「こんにちは、ノブローくん」
「今日もゲームか?」
「いえ。今日は、マンガコーナーに行きましょう」
さすがというか、ビジネス系のマンガも多い。
しかし、娯楽用の作品も置いてある。人によっては、現実を忘れに来ているもんな。
「これとこれと、これを」
ガサッと大量のマンガ本を抱えて、萌々果さんは部屋に戻った。
オレは、ネット小説原作のマンガを。
萌々果さんは、少女マンガを好む。
「もっと金に関係するものを読んで、勉強するもんだと思ってた」
「そういうのも読みます。ですが、娯楽性を重視しているためか、結末も合理的でないものが多いんですよね。勉強にはなりません。かといって、ビジネス書と同じような回答になると、娯楽性は失われてしまいます。これはもう、ジレンマですね」
萌々果さんが、苦笑いを浮かべた。
「オタクには天国みたいなところだな」
「サービスを、絞っていますから」
【
また、高級なサービスを求める女性層も、ターゲットにしていない。
「さっきここの宿泊を断られた家族連れが、受付のお姉さんから系列のホテルを勧めてもらってた」
「完全女性客向けのホテルも、運営していますよ」
そこは男性が一切入れず、スタッフも女性だけだ。
「児童でも、性別が男性ではダメなんです」
なんたって、店名が「OWO」って顔文字で「草」だもんな。「オタクの方、大歓迎」って、ターゲットを絞り込んでいる。
「萌々果さんの運営するホテルはすべて、基本的に客別に特化しているタイプなんだな」
「はい。一箇所のホテルで、様々なお客様すべてに対応はしません。そう教育しています」
店ごとに顧客を分けて、スタッフを教育し、サービスを絞り込む。
差別ではなく、区別していた。
「もしそれでも『差別だ』と言われたら、『では、よその系列へどうぞ』と突っぱねるよう、指導しています」
「お、おう」
ホテルごとにサービスを振り分けるのは、客同士のトラブルを避けるためらしい。
「まったく違う客層相手だと、いつか衝突が起きてしまうので」
「どうして?」
「求めるサービスが、違いすぎるからです」
こういうことになったきっかけは、初期の頃にあったという。
当時は、どの客層にも対応していた。
サービスとして、一二歳未満の子どもに、「棒アイスを一本無料で提供」をしていたという。
そしたら泥酔した個人客が、アイスをもらった子どもの親にクレームを言ってきた。
「『ガキがアイス無料なのに、こっちは金を払うのか!』とクレームがありまして」
「それで、客を分けたんだな?」
「はい」
男性客、女性客、ファミリー層、高齢者、LGBTQと、様々な客層がいる。
海外出身者でも、国が違えば文化が違う。単に「外人」の一言では、くくれない。彼らも一人ひとり、個人なのだ。
「そんな個性豊かな層を、一箇所で、同じスタッフで対応しろというのが間違いです。どんな人でも快適に泊まれるホテルなんて、ありえません」
高級な旅館で静かに過ごしたい人もいれば、安ホテルで寝るだけの客もいる。地球の裏側で行われるゲームイベントのため、夜中に騒ぎに来ている客も。
「いくらスタッフが優秀でも、客同士でケンカを始めてしまったら、その対処に追われますからね」
「同じ箱で違う価値観の客層が遠慮し合うより、お互いが気を使わなくていい客層同士で楽しく使ってもらう方がいいってわけか」
逆に言えば、黄塚 萌々果は、客を信用していない。
性善説では動かないのだ。
色んな人を見てきたのだろう。
「わたしは、傲慢なんでしょうか?」
「いや。合理的だ。合理的すぎて、受け入れがたいって人もいると思うが、オレはいいと思う」
「ありがとう」
萌々果さんは、マンガを読む作業に戻った。
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