異世界に飛ばされてしました。
目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋の中だった。僕はそこの片隅に置かれている、ベッドに寝かされていた。
部屋は豪華な装飾が施され、掃除が細部まで行き届いている。埃の一つも見られない。
「よく手入れがされているな」
僕は自分が置かれている現状よりも、部屋の綺麗さに感心してしまった。いや、本当に凄い綺麗なんだ。
今僕が寝ているベッドの質もいいし、着ていた筈のスーツは丁寧に畳まれ、隣に置かれている。
だいぶ高待遇の元に置かれているらしい。ここの家の主人にあったら、真っ先にお礼がしたいレベルである。
「それはそうと、まずは現状確認だ」
昨夜僕らは日本で人助けをして、みんなと話をしようとしたら転送した感じだ。
転送された地点の可能性として考えられるのは、主に三つ。日本、僕らの知る異世界。それか、全く知らない世界か。
場所の把握で一番楽なのは、建物をよく観察することだ。
日本ならばパッと見ただけで分かる。あそこにファンタジーな世界観はない。あるとすれば、ネズミの国かそこらの類だ。
また、僕らの知ってる異世界もある程度察することができる。近年は日本との友好関係で、異世界も現代化が進んでいる。中世ヨーロッパと現代が混合していれば、まず間違いはない。
では、その点を踏まえて見てみよう。
僕は周囲を見回す。
部屋の装飾は中世ヨーロッパのものに近い。電化製品の類はなく、部屋の明かりは魔道具らしきもので灯されている。
家具も異世界アニメでみたようなものしか置かれていない。
そして、僕の知らない魔力の反応。身体中に循環している魔力が、異物を取り込んだとばかりに叫び声を上げる。
日本や異世界の何処かに飛ばされたのならば、同じ魔力が発生している筈。けれど、ここにはそれがない。
全身に悪寒が走る。
「ああ、これ……あかんヤツだ」
とまぁ多分、確率的に、僕は知らない世界へと飛ばされてしまった訳である。
「終わった……タルラたちもいないし、魔力の波長が違うから魔法も使えないし!めっちゃ心細いし!!」
僕は頭を抱えた。
というか他の全要素を排除しても、魔法が使えないという点は大きい。まず解消しないといけない問題はここだろう。
どうにか出来ないのかな。
さっきから魔力を練らないか試行錯誤しているんだけど、一切組み上がる気配がない。まずまず、根本の原理が違うのだろうか。
通常であれば、魔力は集中力を重ねることで強固に練ることが出来る。だがその常識は通用しない。
となれば、この世界の魔力を使うのは当分の間は無理だ。なのでその間の応急処置を施そう。
「────【魔力増幅・改】」
体に残っていた馴染み深い魔力のみを増幅、循環させ、この世界の魔力を体外に押し出す。
そうする事で、自ずと魔力は練られるようになり、結果的に魔法は使えるようになるって算段である。
使えるけど、その分魔力は永続的に使用することにはなる。
結構なゴリ押し理論だけど、使えないよりかはマシだよね。
これで魔法の面は大丈夫だとして、次はどんな問題を片付けようか。どれにしても、絶対に対処しないと駄目だろう。
「ま、一旦着替えるか」
僕はベッドから起き上がり、隣に畳まれていたスーツに着替えた。うん、やっぱりこれが一番落ち着く。
しっかりと第一ボタンを閉じてネクタイも締めて、身だしなみが整っているアピールをしよう。一応、基本的なマナーは守る。
仮面は、いいか別に。
僕は仮面をポケットにしまいこみ、部屋のドアに向かって進み出す。取り敢えず外へ出れば、誰かしら人はいるだろう。
そっから芋蔓式に主人まで辿り着けばいいや。
僕はドアノブに手をかけ、ドアを開く。
「「あ」」
ドアを開けてすぐ、第一村人と遭遇を果たした。ちょっと見ただけで分かる、圧倒的な可愛さを持つ少女。
でも何処か、焦っているようにも思える。
何かあったのだろうか?
「た、助けてください……!!」
彼女は僕に頼む。助ける?一体何から?
そう考えていると、後ろから重厚感のある足音が近づいてくる。ドシン、ドシンと、地ならしをするように。
いやいや。家を動くだけで揺らすって、一体全体どんな図体してたら可能なんだか。信じがたいったらありゃしない。
手をひらひらとさせ、僕は現実逃避した。
嫌な予感がする。
「魔王、貴様が体を委ねぬというならば、この小娘を犯してやるまでだが……?」
予感的中。
僕の体を覆い尽くすほどの体格。殴られたら一撃KOされてしまいそうな腕。ダメージが通らなそうな腹筋。
絶対に脳筋と思われる男が現れた。
男は右手でボロボロの女の子の両手を掴み、いやらしい眼差しでその子を見つめている。
「卑怯なッ……」
僕の隣で、先の少女は男を睨みつけた。
うーん、まぁ事の流れは大体理解できた。
なんやかんやあって、仲間がエロ同人みたいにされそうだから、僕を頼ってきたのだろう。
そうに違いない。
取り敢えず、動作確認も兼ねて【鋼糸】張っとこう。捕まってる女の子を怪我させないように、手、足、頭ら辺だけにしとこう。
「さぁ魔王、選べ!この小娘を助けるか、見捨てて心を破壊されるか!!」
「見捨てるなんて……出来るわけない…!!」
「なら、こっちに来い!」
「う、うぅ……」
え、なんか僕を他所に話がどんどん進んでいくぞ?あれ、僕に助けてという件どっか消えた?
少女は言われるがままに、男へ歩み寄ろうとしていた。一歩、一歩、もう何もかも諦めてしまったかのように。
「いいぞ、そうだ。それで良い!!これで魔王の体は俺の物!!今日は寝かさないぞ、魔王!!」
少女の目には涙が浮かび上がり、両手は強く握りしめられている。けれど、仲間を人質に取られている以上何もできそうにはなかった。
対して男は欲しいものが手に入りそうな子供のように、うずうずし、体を震わせている。
話が進んでしまった手前、完全に出るタイミングを失ってしまった。本当に何してくれてんのさ。
まぁ、いいや。
それが彼女の選んだ結末というなら、何も口出しはしない。その程度の人生に、僕は興味はない。
さ、僕は何も干渉しないように、別の誰かを探すとしよう。そうしよう。
僕は振り返り、別の道へ足を向ける。
「あ?いや、ちょっと待てよ……?」
刹那、僕は立ち止まる。
「このまま彼女が進んだら、【鋼糸】で足ぶった斬れるくね?」
僕は勢いよく振り返り、彼女と【鋼糸】の距離を見定める。
男の足元に張った【鋼糸】と彼女の距離はあと数センチ。この距離だと、解除したところで残穢で斬れる。動かしても同じ結果だ。
まずい。このままだと見捨てるどころか、普通に足を切断して帰ることになる。
それは駄目だ。彼女が選んだ選択なら兎も角、僕が更に窮地に追い込んでしまっては完全な悪人じゃないか。
「────【魔力創風】」
僕は足に魔力を集中させ、加速力を高めて走り出す。目指すは彼女の進行を止める事。
頼む、間に合え。
僕は彼女へ手を伸ばす。
「貴様、何者だ!?」
突然と足を進めた僕に対し、男は叫ぶ。だが、現状において彼に構っている暇はない。
「おい、待て!!俺の女に手を出すな!!」
まずまず、お前のじゃないだろっていう口出しをしたい。けどその前に!彼女を助けないと。
手を伸ばす。前へ、前へ、前へ。
そして、掴んだ────
「────え?」
勢いのまま彼女の体を僕の方へと引き寄せる。首を絞めたらいけないので、顔を僕の方へ向けさせる。
そのまま後ろへ退却!
僕は彼女を抱え、華麗な仕草でミッションコンプリート。そう、言いたかったよね。
一瞬の誤差。僕が想定していなかった場所に、壁の瓦礫が落ちていた。
それに躓き、僕は体制を崩す。
「やべっ、まずった!」
そうして。なんやかんかフラフラした挙句、僕の唇には暖かくも柔らかい感触が伝わった。
「……ん!?」
そう、僕と彼女の唇が繋がってしまった。
「てめぇ、よくも、よくもぉおおおおお!!」
男が後ろへ女の子を投げ捨て、僕らの方へ駆け出す。しかし、聞こえてきたのは足音ではなく、四肢と頭部が切断される音だった。
ま さ に 大 惨 事。
闇組織は異世界から帰りたい。 大石或和 @yakiri_dayo
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