第3話 初恋の人との再会で宗教作りたくなった

 『宇治山うじやま 怜奈れな』彼女とは一週目では同じ部活に入っていたため、面識があった。


 あくまで、俺の主観的評価だが、怜奈を一言で表すのならば【哲学者】といった感じだ。彼女の言葉は今でも消え去ることなく胸に残っている。


 『親と子供の関係って理不尽だと思わない?私たち子どもが親に立ち向かって戦うとき、親は私たちの金銭的・社会的・教育的な様々なこの世界で生きる上で欠かせない命綱を握っていて、それらを武器にできる。それに対して、私たち子どもが唯一武器にできるのが親の子へ対する”情”だけなんて。とんでもない話よね。』


 ほかの人はどう感じるかわからないが、怜奈の言葉は、ほとんどが俺には刺さる言葉だった。


 『生きてたら不満がたまるのは当たり前。少しぐらいの不満なら努力次第で解決できるかもしれないけれど、全部の不満をなくすことはできない。不満のない人生なんて存在しない。不満に耐えるから人は生きていけるのよ、その不満に馬鹿正直に向き合って解決しようとするのなら自殺するほかに道はない。死後に意識が残っていなければ、死んでしまえば不満を感じることもないでしょうからね。人生は耐えるか死ぬかの二択なのよ』


 俺は怜奈の言葉を___想いを聞くのが好きだった。たまに、こちらの精神状態を考えずに、言いたいことを言うときもあったが、真っすぐな怜奈のことを尊敬すると同時に畏怖していた。


 だからだろう、気付いたら怜奈のことを穴が開くほど見つめてしまっていた。


 完全に不審者である。


 「無言で視線を向け続けられると、さすがに怖いんだけれど」


 【ここの長文は飛ばしちゃってください!】

 話しかけられた、相変わらず声も美しい。その声色は北極の夜空の如く煌やかで青空の如く透き通っていた。不満に耐えるのが人生だと彼女は言っていたが、その声を聴くだけで不満を忘れ去れるほどに素晴らしいとしか言いようのない声を彼女は発していた。彼女の声を聴けないのなら耳をもって生まれた意味がないし、彼女の言葉を傾聴できないのならば日本に生まれた意味がない。いや、国籍など関係ない扱う言語が違い、意味が分からずとも彼女の言葉一つ一つに込めた思いによって聞いて理解するのではなく、感じて理解することができるだろう。彼女が歌など歌ってしまった日にはすべての歌手が職を失うことになるだろうし、彼女が語り掛け諭せばこの世から戦争はなくなることだろう。彼女のことを世界が知れば彼女をめぐって戦争が起きるかもしれない、これに関しては彼女のお言葉で収まるかどうかはわからない。しかし、彼女が親身に上目遣いで「喧嘩はダメ!」と言っている映像が出回れば、それすらもおさまるだろう。彼女が自分の想いを綴った本を発表すれば、世界一の発行部数をわずか一年で越えられるだろう。彼女の書く文字は美しすぎてみていると自分の汚さが浮き彫りになり『この文字はこんなにも美しいのに自分はなんて汚いんだ!!そうだ!出家しよう!!!』と考えること間違いなしだ。また、彼女の存在そのものが美の象徴と言えるため、美術の教科書に載ってもおかしくないのだが肖像権があるために彼女が許可しない限り載ることはないだろう。しかし、彼女の美しさにやられた文部科学省と芸術家たち法律家たち、そしてこの国の美術の授業を受けているすべての人々が『彼女美術の教科書に載せないのは人類の損失だ!!』といってデモを起こすだろうから彼女が教科書に載るのも時間の問題かもしれない。彼女がこの世に生まれてきてくれて、俺の目の前に存在してくれているのは、ほかの何にも代えられない、地球が生まれた奇跡・人類が誕生した奇跡・宇宙が生まれた奇跡なんてしょぼい奇跡とは比べ物にならないほどの軌跡なのだ。彼女の美しさを広めることこそ人類の義務であり、彼女を____


 「ちょっと!聞いているの!?」


 「あ、ごめん。どうやって君を崇める宗教を作ろうか考えてて聞いてなかった」


 なんてことだ、彼女のお言葉を無視してしまうなんて!誠心誠意謝らなくては!!


 「誠に申し訳ございません。この度の失態は必ずやこれからの行動で挽回をしていきますので、どうかその寛大なお心と壮大な___」


 「そこまでは怒ってないから!これ以上揶揄うなら、もう二度と口きかないからね!!」


 それは困る、生きていけなくなるほどに困る。


 「本当にごめん、もう揶揄わないから許して!!」


 「それなら、許してあげる。私の名前は宇治山怜奈。よろしく、夜鷹君」


 「よろしく!宇治山さん!!」


 「……呼び方、名前でいいのに__」


 もしかして、この頃の怜奈は友達が欲しいけど内気で積極的になれないツンデレだったのだろうか??


 「わかった!怜奈って呼ぶね!」


 こうして、小学生の頃の初恋の人と二回目の初対面を迎えたのだった。

 

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