2  公園

 わたしがまだ小学校に上がる前のことです。

 気まぐれに我が家を訪れる父が、ときどき車で連れて行ってくれる公園がありました。

 周囲にあるのは田んぼと畑と送電線用の鉄塔くらいのもので、ずっと遠くに建設中の自動車専用道路の橋桁がかすんで見えていました。

 そんな立地のせいか、公園とは名ばかりで、いつも人気がありません。

 父はいつも、公園の横の道に車を駐めていました。対向車とのすれ違いに失敗すれば簡単に傍らの畑や田んぼに脱輪してしまいそうな道でした。けれど公園と同じく、人通りも車通りも少ないため父の路上駐車が咎められたことは一度もありませんでした。


 ある日、父がいつも車を駐める道にトラックが駐まっていました。あちこちに乾いた泥が灰色になってこびりついているトラックです。

 道を挟んだ公園の隣、畑にピンク色の、小さなショベルカーがいました。ヘルメットを被った男の人たちが畑のあちこちに散って、なにやら作業をしています。

 父いつも通りに車を駐め、けれどいつもとは違って公園へは入らず畑の──ショベルカーと作業員のいる畑の縁に仁王立ちになりました。

「おう」と父が顎を上げて呼びかけると、畑の作業員たちが一斉に手を止めて「おつかれさまです」と挨拶をしました。どうやら父の部下のようでした。

 ひとりの作業員が父の傍に駆け寄ってきて、なにやら話を始めます。

 わたしはひとりで車を降り、畑の中で働くショベルカーを見つめていました。油圧アームを象のように動かす姿に、とても心惹かれたのです。

 そのせいで、エンジン音が聞こえるまで、父がわたしを置いて車に乗り込んだことにすら気づきませんでした。父はよく、こうしてわたしを誰かに──あるいはどこかに──預けては姿を消していました。

 父の車を見送ったわたしは大人しく公園に入ろうとしました。そのとき。

ぼん!」とショベルカーの操縦席から、年配の男性が軍手を着けた掌を閃かせます。「来ぃ。乗せたるさかい」

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