#1 金井友香 オリンピックプレシーズンの幕開け

第1話 シーズン初戦

 七月の終わり、夏休みの期間に突入している。

 フィギュアスケートでは新しいシーズンが始まって、初夏から徐々にローカル試合も増えてきた頃になる。


 わたしは初戦の結城ゆうきひまわり杯は今シーズンの新しいプログラムを披露できる日でもある。

 一度アイスショーで披露しているんだけど、改めて本番で競技形式で披露することができる。


「あ、おはよう。友香ゆかちゃん」

伶菜れいなちゃんと清華せいかちゃん、一番乗りだね」

「でしょ?」


 同じ大学二年生の幸田こうだ伶菜ちゃんと星宮ほしみや清華ちゃんは先にやってきていて、すでにヘアセットとメイクは済ませている状態だ。

 わたしは一応家で用意しようかなと思ったけど、この猛暑に近い気温では落ちそうなのでリンクの更衣室でメイクすることにしている。


「とにかく間に合ってよかったよ」


 今日から競技がスタートして、シニアは夜に行われることが多いんだ。

 現在の時刻は午後二時半、猛暑を避けながら来たけれど汗だくになってしまう。


 衣装を着替えるために解放されているダンススタジオに入ると、すぐにメイクボックスを取り出してメイクをする。


「そういえば清華ちゃん、フリー初めて見せるんだっけ?」

「うん。カナダで振付が間に合わなくてさ」

「え、だから春に行けなかったの?」

「うん。世界選手権の後、取材とかCMの撮影することが多くて、スケジュールが合わなさ過ぎて。通常の一か月後になったんだよ」

「友香ちゃんと同じ期間に行きたかったよね」


 そう言いながらうちのメイクを整えてからは色んな話していることが多いみたいだ。

 清華ちゃんと伶菜ちゃんはすでに衣装を着ていて、もう準備ばっちりでジャージを羽織っている。


 わたしはすぐに衣装もその場で着替えてから、バッジテスト六級女子が終わった後に集まることになっている。

 ショートも行っていた年もあったけど、今年からフリーのみにすることにしたらしい。


 袖を通した衣装は主人公に似せたドレスで胸元には、大きなラインストーンでネックレス風の飾りをつけている。


 伶菜ちゃんの衣装はショッキングピンクと黒を基調に、アシンメトリーのフリンジスカートが大胆に見える。


 清華ちゃんの衣装は世界女王になって初めてのシーズンにふさわしいものになっている。


 淡い水色のドレスにはきれいな刺繍やレース、ラインストーンをつけられているのがわかる。

 髪も一つに結ってその上から氷の花のような飾りをつけている。


「きれいだね~。清華ちゃんの衣装」

「昨シーズンからお世話になっているデザイナーさんにお願いしたの。フリーの曲が『Merry Christmas Mr. Lawrence』だし、世界女王にふさわしい衣装にしてもらったの」

「すごいね。重厚感があるのに、重くないの?」

「軽いんだよ。ジャンプのことも考えてくれてる」


 そして、ジュニア女子のショートプログラムが終わってからはすぐにシニア女子のショートプログラムが始まった。


 リンクサイドに集まってくると大学のジャージを羽織っている学生が多くて、一番若くて高校二、三年生で十七歳になった子だけだ。

 シニアの年齢が十七歳に段階的に引き上げが行われていて、今シーズン以降からは完全に十七歳からシニアということになる。


『これより、シニア女子フリースケーティングを開始いたします。第一グループの選手はリンクお上がりください』


 わたしもリンクに入るとすぐに練習を始めることにしたんだ。


 最初に跳ぶのはトリプルルッツ+トリプルトウループを跳んでから、きれいに降りることを意識していく。

 そこから新しく入れたダブルアクセル+シングルオイラー+トリプルサルコウを跳ぶ。


 そのときにスピードに乗った状態で清華ちゃんが跳ぼうとしているのが見えて、参加している大学生スケーターが驚いている。


 その直後に四回転サルコウをきれいに降りているのを見て、みんな動揺しているのが目に見えてわかる。

 そのときに聞こえてきたのは拍手とざわつきだった。


 今シーズンは四回転サルコウを入れた高難度プログラムを目標にしているらしい。

 滞空時間が長く見える四回転サルコウや、トリプルアクセルからの三連続ジャンプをチャレンジしているみたいだ。


 そのときに伶菜ちゃんも後半にトリプルルッツ+シングルオイラー+トリプルフリップを降りている。


 わたしはプログラムで使う予定のジャンプを跳んでみて、最後にスピンとステップを確認していくの。

 残り時間が一分になっているのが見えて、最後に清華ちゃんの代名詞となった四回転ループを着氷させた。


 リンクに上がるようにとアナウンスされて、残ったのは伶菜ちゃんだった。

 その直後に滑ることになっているので、わたしはリンクサイドで待ちながらアップすることにした。


 流れてくる曲は映画『バーレスク』より、一番盛り上がる曲を中心に入れているようだ。

 とても軽やかに滑り出した伶菜ちゃんが最初に苦手としているジャンプを跳ぼうとしている。


 トリプルサルコウとトリプルループ、ダブルアクセルは乱れていたけど、持ち前の修正力で後半のジャンプは全て決めてきた。


 でも、点数は伸び悩んでいるみたいだ。

 その直後に、自分の出番になったのでリンクに立つと、みんなの視線を集めながらアナウンスが流れるのを待つ。


『二番、金井友香さん。東海林しょうじ学館大学』


 声援と拍手が聞こえてきてから静かになって、ポーズを取ってから流れてきた曲に乗せて滑り出した。


 セリーヌ・ディオンの『My Hart Will Go On』が流れてきて、そこから音楽に乗せてバックスケーティングでスピードに乗る。


 わたしは歌詞に乗せてトリプルルッツ+トリプルトウループを降りてから、イーグルとツイズルを入れる難しい出方をする。


 そこからターンを繰り返してからは次のトリプルフリップも成功すると、自分の感情をスケーティングに乗せていくことができる。


 難しい入り方をして続きのトリプルループと前半最後のトリプルサルコウを降りてから、足換えのコンビネーションスピンを始める。

 最初のスピンの姿勢を数えてからはすぐに姿勢の変更を行うと、軸足を換えてY字スピンをしてからニースライドをしながら滑り出す。


 後半のジャンプからはかなり得点源になるものが続いているような気がする。


 最初に跳ぶのはトリプルループ+ダブルアクセル+ダブルアクセルの三連続ジャンプだ。

 成功率は低くはないけど、三つ目のダブルアクセルの勢いが足りなくて回転不足になりがちだけど今日は大丈夫だ。


 その後にトリプルフリップ+トリプルトウループを降りてからは、すぐに手を伸ばしながら徐々にクライマックスへと向かう。


 最後のトリプルルッツを降りたところで、始まるステップシークエンスは感情のままに愛する人を思い浮かべながら滑っていく。


 一番力を入れているところでもあって、徐々に心を開放していくような気持ちで話す。

 魂が解放されて、愛する人と同じ場所へと向かう気持ちで滑る。


 そのままコレオシークエンスへと移動して、イーグルやスパイラルでは晴れやかな表情で滑っていく。

 最後のスピンも終わらせて、ポーズをするとノーミスで演技を終えることができた。


 ステップもスピンもレベルは落としてなさそうだなと考えている。


「お疲れ様~。足首は大丈夫?」

「はい。あまり痛みもないですね」

「そうか。調子良さげだね。そろそろ点数が出ると思うよ」


『金井さんの得点、148.49。現在の順位は第一位です』


 大西おおにし先生からジャージとエッジケースをもらって、身に着けているときにアナウンスが流れ始めている。


 そのアナウンスが聞こえてきてからは高得点が出て、会場内にざわめきが起きていたけどは拍手も聞こえてきた。

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