第24話 陰陽転化
「『僕を助けに来ないで』って……」
動揺するかもしれない。だけど、隠しておく事など出来ない。
僕が麻緋なら、包み隠す事なく、全てを知りたいと思うから。
僕は、両手をギュッと握り締め、麻緋の言葉を待った。
「……そうか」
納得を示すも、溜息が混じる麻緋の呟きに、僕は胸が苦しくなった。
「……ごめん、麻緋……」
「なんで謝る? 手掛かりを探しているんだ。悠緋に繋がる事なら俺は……どんな事でも受け入れる」
「……うん。分かってる。だから伝えたんだ」
……麻緋は僕の言葉を信じてくれるんだな。
否定されるんじゃないかって……少しの不安はあった。
そんな僕の思いを察しているのだろう、麻緋は僕の肩をポンと軽く叩くと笑みを見せた。
その笑みに、僕はホッとする。
麻緋は、扉を閉めると屋敷から出て行く。僕は後を追いながら、口を開いた。
「自分の意思で霊体を現す事が出来る。僕たちが見ているのはバイロケーションだ。あの男同様、悠緋もその能力があるって事なのか……だけどこれって……」
「リモートビューイング。遠隔透視で意識が離れ、他の場所に姿を現す、一身二ヶ所存在だ。来……お前、これが大きな不安要素になると気づいたか」
「ああ。どんな場所にいようとも、遠隔透視でそこに何があるのか、起こっているのかを知る事が出来る。状況を把握出来るという事は、未来予知に繋がる事だ。収監所に現れたあの男……麻緋、三流だって言っただろ。同じ力を持ってはいても、悠緋の方が遥かに能力が高いなら、悠緋を連れ去った理由になる……そう思った」
僕の言葉に麻緋は頷く。
「助けに来ないで……か。成程」
「麻緋……」
「いや、なんでもない。気にするな」
やはり……警告と捉えた方が良さそうだ。
それは麻緋も感じた事だろう。
玄関を出ると、いつの間にか雨が降っていた。
雨を気にしているのか、何か考え事でもあるのか、麻緋は立ち止まっている。
「麻緋?」
麻緋は、ふっと静かに笑みを漏らすと、前を真っ直ぐに向いて呟く。
「……迎えが来たようだ」
「迎え?」
僕は、麻緋の隣に並び、麻緋の目線を追った。
傘を差して僕たちの元へと来る人の姿が見えた。
……二人いる。
その二人は僕たちの前に立つと、傘を上げ、顔を見せた。
「成介さん……伏見司令官……」
「まいったな……追い掛けて来るとまでは思わなかった。しかも、俺の用が済んだ後に」
麻緋は、そう言って皮肉に笑う。
「なにを言っているんです? 任務を遂行させるとはいえ、監視対象である事をお忘れですか?」
成介さんは、揶揄うようにもそう答えて、ふふっと笑った。
「監視対象ね……それは成介、お前の隣にいる
……麻緋。
なんとなく不思議な感じはしていた。
最高司令官、伏見 京一郎……彼に対しての麻緋の反応に。
僕が彼に会っていた事に、麻緋は彼を呼び捨てにしていたからだ。
長い付き合いがあったとしても、父親くらいの年齢であるだろう彼を、そんなふうに呼べるものなのか……疑問はあった。
そう呼べるというのは、彼に不満があるというのか……?
確かに彼にしても、それを思わせる節はあった。
『麻緋が自ら私に会いに来る時は、私の最期くらいだろう』
「ふふ……麻緋、私にはお前を守る義務があるからな」
彼の言葉に、麻緋の表情が変わる。苛立ちを見せるその表情に、確執めいたものを感じさせた。
「俺を守る義務? 俺だけに限定するな。そもそも俺は、自分の身くらい自分で守れる。あんたが守りたいのは、俺の持つ紋様だけだろう?」
「麻緋、監視対象などと、僕の言い方が良くなかったですね……伏見殿は本当に君を……」
成介さんが止めようとするが、麻緋は止まらない。
「俺だけが持つ紋様だから、俺だけに限定する。そうはっきり言ったらどうだ? 正邪の紋様は、善悪を見定めるが、それを反転する事も出来る。陽が満ちれば陰となり、陰が満ちれば陽となる、つまりは陰陽転化だ。だが、そもそも陰陽に善悪はない。興隆と衰退がどう循環するのか……それだけだろ」
「ならば麻緋……お前もはっきり言ったらどうだ? 自分ではなく、悠緋を助けてくれれば良かったと」
「チッ……」
舌打ちする麻緋に、成介さんは困ったように溜息をついたが、真顔になると口を挟んだ。
「お二人ともそのくらいにして頂けませんか。伏見殿……わざと麻緋を煽るような事を仰らずに。それは貴方の意図ではないでしょう? 麻緋もそれは分かっているのでは?」
「別に……」
麻緋は答えながら、二人の間を抜けて行く。
成介さんが傘を差し出したが、麻緋は受け取らずに雨に濡れていく。
「それが親父の遺言だったからといって……真に受けている事に腹が立つだけだ。いい加減、あんたも解放されたらどうだ。あんたにはあんたの守るもんがあんだろ……それを優先してくれよ」
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