第15話 四地相応
しんと静まり返った真夜中に、ドアのノック音が響く。
この環境に慣れたのか、順応出来る体は、ベッドから既に身を起こしていた。
昼と夜とが逆転したこんな生活が、半月程過ぎた。
部屋に物が増える事もなく、体を休めるだけのこの部屋には、外部の情報が一切入らない。
その情報源となる者は、全て成介さんにあった。
「入りますよ、来」
ここ数日、任務はなかった。情報も入らないのもあってか、あれ以来なんの変化もなく、あの男の事も僕にはよく分かっていない。
あの男をその場で取り押さえる事がなかったのは、僕たちが闘いを挑む相手があいつ一人だけではないという事を感じていた。
……とてつもなく大きな闇だ。手探りで進むしかないのも事実だろう。
そんな中でもただ一つ、変わった事といえば。
「ちょっと僕について来て頂けますか」
成介さんが、目覚めの良し悪しを訊かなくなった事だ。
まあ……ドアがノックされる時間は、ほぼ決まっている。僕がノック音が響く前に起きているのも、成介さんは分かっているのだろう。
僕は、直ぐに部屋を出る成介さんについて行く。
奥へ奥へと進んで行くが、誰とも会う事はなかった。
ここにいるのは、やはり僕たちだけなのだろうか……。
それにしても、意外に広い施設なんだな。
更に奥へと進み、成介さんは一つのドアの前で足を止めた。
ここのドアだけ、他のドアと違って重厚な造りだな……。
この部屋には重要な人物がいる……という事か。
成介さんがノックをすると、入れと低い声が聞こえ、僕たちは中へと入った。
広い部屋の中へ中へと歩を進めて行くと、男の姿が見えた。
大きな机に肘を立てて手を組み、見据えるように鋭い目を向ける熟年の、明らかに威厳を見せる男が座っていた。
「成介か」
「麻緋が来ると思いましたか? それは期待に添えず、申し訳ありませんでした」
成介さんは、ふふっと笑う。
「麻緋が自ら私に会いに来る時は、私の最期くらいだろう」
そう言って男も、ふっと笑みを見せた。
「何を言いますか。麻緋は麻緋なりに、貴方の事をお考えですよ」
「それが余計だと伝えておけ」
互いに笑みを交えながら話す様子に、信頼し合っている事が窺えた。
「ふふ……承知しました。それより……」
成介さんの目線が僕へと向き、僕は男の前へと進んだ。
「来。この方は伏見 京一郎氏……僕たちにとっての最高司令官です」
伏見 京一郎……この男が最高司令官……。
前に立った僕を見定めるように動く目に、僕に少し緊張が走る。
「白間 来。一人救助と走るが力及ばず、お前以外の住人は全て死亡……か」
まるで……罪状を読み上げているような感じがしたが、僕には
男は、ふっと笑みを見せると組んでいた手を下ろし、椅子に深くもたれ掛かる。
「来……
男は言いながら、意味を含めた目線を、ちらりと僕に投げ掛ける。
……直ぐに気づいた。
「僕は……西だ」
だから……奪われたんだという事に。
そして、この世界の裏と表が変わってしまった。
俯き、悔しさを握り潰すように、手に力が籠る。
白羽の矢が……それぞれ四方に立てられていたんだ。
じゃあ……もう……。
四方を固められてはどうにもならないのではと、落胆したのがそのまま顔に出ていた事だろう。
「だが……」
男の声に、僕は目線を戻す。
「四方を固めても、中央が定まらなければ、四方も四方と言えぬだろうな」
「それは……中央を僕たちが定めるって事……?」
「ふふ……勘は悪くないようだ。出来ればその勘が、事が起こる前に働いて貰いたかったが」
……悪かったな。
そう思ったが、口には出さない。
悪気があって言っているようには見えなかったし、成介さんの表情が、少し翳りを見せていたのもあったからだ。
「伏見殿……それは僕にも責任が。駆け付けた時にはもう……」
「いや……ああまでになっていては、回避出来る
「ええ、そうですね……」
ああ……そうか。
僕は……少し勘違いをしていた。
四方に立てられた白羽の矢が、それぞれに僕たちであるなら、それはその地を奪う為の、その地を何かに捧げる為の、生贄同然であった事だろう。
だけど、僕たちはまだ生きている。
これが……僕が助けられた理由でもあるのか……。
それは、四方はまだ崩されていないと言えるものでもあるだろう。
僕には、僕たちには取り戻せる
成介さんは、僕を振り向き穏やかな笑みを見せる。
そして、僕も力の一つになっていると伝えるように、はっきりと言った。
「ここが中央となっているのですから」
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