04:立ち上がれ、護星獣王

――赤城ショウタを、欲情させなければならない。


 作戦司令部に集まった面々は、難しい顔で黙り込んでいた。

 アンドロメダ銀河帝国からの銀河侵略。それに対抗するため、地球にはアマノガワ銀河の各地より五体の護星獣が集まった。そして、選ばれた五名の護星戦士に、この銀河の命運は託されていたのだが。


 サングラスを外した壮年の総司令は、瞼を押さえながら重い口を開く。


「護星獣レッドスコーピオンよ」

『なんだ、地球人』

「なぜ赤の戦士である赤城ショウタを欲情させる必要があるのか、もう一度説明してくれないか。君らの話は、地球人には高度すぎてな」

『うむ。何度でも説明してやろう。我々が欲しているリビドー、すなわち地球人の性欲エネルギーとは――』


 護星獣レッドスコーピオンは説明を始める。アンドロメダ銀河帝国の侵略兵器には、アマノガワ銀河勢の「護星獣」をもってしても敵わないのだが。


 それを打ち破る唯一の希望こそが。


『――辺境惑星地球の感情エネルギー』


 地球人の感情は、護星獣の力を何千倍、何万倍にも高めてくれる。だからこそ、護星獣によって選ばれた五名の地球人が護星戦士となったのだ。


「だが……今のままでは不足があると」

『そうだ。帝国の新兵器に打ち勝つためには、五つの護星獣が合体し、護星獣王となる必要がある。それを動かすために絶対に必要になるのが性欲――ショウタのリビドーなのだ』


――赤城ショウタが性欲を抱かなければ、銀河が滅ぶ。


 護星獣レッドスコーピオンの説明に、作戦司令室の面々は頭を抱えた。

 なにせ、ショウタはまだ十一歳。リビドーを抱くか抱かないか、大変微妙なお年頃なのだ。大人が変に手を出しても良いことはないだろうし、そういうのは自然の成り行きにまかせるのが青少年の健全な育成には一番だと誰もが思っていた。


 総司令はショウタ以外の四人の戦士へと目を向ける。


「青の戦士よ。状況は?」

「はい。私が好きと言うと、好きと返してくれますが、あれは色恋が分かってる顔じゃないです。そこが良い……ハァハァ」

「そうか」


 なお、青の戦士はショウタより十歳ほど年上である。


「黄の戦士は?」

「裸エプロンで料理したんですけどぉ、美味しい美味しいってご飯食べるだけでしたぁ。ショウタくん可愛い」

「そうか」


 黄の戦士は巨乳女子高生だが、ショウタは気にも止めないらしい。


「緑の戦士は?」

「おう。あたしはショウタと一緒に一日中サッカーやってたけど、いつも通りだったぞ」

「そうか」


 緑の戦士はショウタと同い年なので、期待するのが無茶である。


「桃の戦士は?」

「はい! チューしようとしたら逃げられて、それ以降は半径五メートル以内に近づけません!」

「なにやってんの?」


 桃の戦士はショウタより三つほど年上で一番期待が寄せられていたが、一番ダメそうだ。


 そんな時、司令室の警報がけたたましく鳴り始める。


「襲撃か。護星戦士は出動だ。赤城ショウタは」

「はい。現場付近にいたらしく、既に戦闘中で――」


 そうして、戦いが始まること小一時間。

 市民の避難誘導を終える頃には、帝国の生物兵器はいつものように盛大に爆死した。


「オペレータ、報告を」

「はい。赤の戦士の必殺技が――あ!」

「どうした」

「敵が巨大な侵星機を召喚しています。新型です」


 それを聞き、総司令は決断する。


「――護星獣たちよ、護星合体だ!」


 そうして五体の護星獣は変形し、人型機動兵器・護星獣王へと合体する。護星戦士が乗り込むが……予想された通り、護星獣王は寝転がったままピクリとも動かない。


「赤城ショウタ。頼む、欲情してくれ」

『司令? 何言ってるんですか? え?』

「君が欲情しないと、護星獣王は動かない。このままではアマノガワ銀河が終わる……だから、頼む」


 司令室の壁面に投影される映像では、四人の女戦士がなんかいろいろやっていたが、ショウタは首を傾げるばかりで一向に欲情する気配がない。

 そうこうしているうちに、敵が召喚している巨大な侵星機は、その八割を地球上に現出させていた。絶体絶命のピンチ。


 その時だった。


「――ショウちゃん、聞こえる?」


 それまで淡々と仕事をしていたオペレータの女性、黒崎シズカが独断で喋り始める。作戦司令部の皆が固唾をのんで見守る中。


『シズカ姉ちゃん?』

「あのね。ショウちゃんが帰ってきたら……久しぶりに、一緒にお風呂に入らない?」

『……え?』

「昔みたいに。お風呂の中で、ショウちゃんを膝の上に乗せて、撫で撫でしてあげるよ。ふふ。ショウちゃんの体は逞しく成長してるんだろうなぁ――」


 黒崎が話をするたびに、護星獣王のエネルギーゲージが急速に上昇し、ふにゃふにゃだった四肢に力が漲ってくる。そして。


「あら、ショウちゃん」

『立った……これが、これが護星獣王』


 護星獣王がついに立ち上がった。

 触れるだけで火傷しそうなほど熱く、そして力強く。破裂するのではないかと心配になるほどエネルギーに満ちた獣の王が、今ここに顕現した。

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