第60話 知りたい気持ち(2)


 声が小さ過ぎるのか、それとも掠れているのか、突然話し出したゆうりの声が上手く聞き取れなかった。


 返答は然程間を置かずに、ハッキリと聞こえた。


『私が東浦君を好きだって言ったら、真はどうするの? 東浦君は真の事が好きなのに、私に譲ってくれるの?』

「えっ、」

『それって傲慢だと思わない?』


 低い声に、真は突き飛ばされたように驚いて何も言えなくなる。ゆうりは怒鳴ったりせず、ただ小さな声で真に問う。


 真は慌てて、見えもしないのに頭を緩く振りながら声を絞り出した。


「ゆ、ゆうり……違うの、あの」

『何が違うの?』


 静かで冷たい声だった。


 何もかも突き放すような声に、真は言葉を失った。

 ゆうりのそんな声を聞いたのは初めてだ。次に何を言われるのか全く予想がつかない。心臓が大きく鳴って、呼吸が浅くなるのがわかった。


『私、聞いたよね。真に、東浦君の事好き?って』

「う、ん。聞いた。……よくわかんない、好きじゃない……今も、変わってない」

『興味ないんだよね。真ってそういうところあるよね。自分に向かってる好意に疎くって。……ううん、気付かないフリしてるのかな』

「ゆ、うり、ごめん……私、ゆうりの事傷付けるつもりなくて、……私」


 慌てて言葉を紡いだけれど、それに対する返答はない。

 真は、次に何を言うべきかわからなくなり、押し黙るしか出来なかった。


『……暫く話したくないや』


 それだけを言って、そのまま、迷う素振りもなく電話は切れた。


 頭が真っ白になって、涙も浮かばない。

 ゆうりに言われた言葉が、頭の中で何度もリフレインする。


 膝を抱えていた指が震えて、姿勢を保っている事も難しかった。



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