第54話 呪い?(4)
少し目線をずらすように斜めに座っていた筈の呼続は、組んでいた指を開き、テーブルについて軽く身を乗り出した。
高揚しているようで、頬も気持ち赤らんでいる。
「話を聞く限り、手掛かりは間違いなくお祖父様のご自宅にあるだろうね。ご先祖が夢を見せているのかも知れないし、土地に何か曰くがあるのかもしれない。血縁由来の呪いの線も捨てきれない。縁側が安全な理由もきっと行けばわかるだろう。新幹線を使う程ではないなら、××県の辺りとか? 駅は? ××駅?」
「そうです、けど……先生あの」
真が慌てて口を挟もうとするが、呼続の勢いは止まらない。
「早い方が良いだろうね。次の土曜とか? テストも近いし、中間までに解決させたいでしょう。お祖父様は亡くなられたそうだけど、ご自宅は今はどなたかお住まいなのかな」
「親戚が住んで、……じゃなくて、えっと、先生、あの私、か――帰ります!!」
「ん? まだ話が途中だよ?」
「いえ、母に肉まんを頼まれているので!」
呼続はその言葉にきょとんと眼を丸くして、浮かしていた体を椅子に戻した。そのまま、小さな声で
「……肉まん……そう……」
と言って肩を落とす。
とても残念そうな顔をして、大人しく口を閉じた呼続を見て、真は早くなった鼓動を押さえるように胸に手を当てた。
何故呼吸が乱れないのか不思議になる程の台詞量と、次々に問い掛けられる言葉に、真の方が何も言っていないのに息が荒くなりそうになった。
(今思い返して見ても……何を質問されたのか思い出せない)
咄嗟に頭が真っ白になり、余りの勢いと熱量に全て真の頭を素通りしたようだ。
真は無意識に、自分の体を抱き締めるようにぎゅっと腕を回した。
(怖…!!)
一言に尽きた。
真の話を聞いてくれた優しげな美青年はどこに行ってしまったのだろう。神父のような慈悲深さ、宗教画のような神聖ささえ感じた笑みは消え失せている。
先程目の前にいたのは、女を堕落させようとする悪魔のような、壮絶な色気を纏った人外だった。
「……お使いがあるなら仕方ない。引き留めてごめんね」
「い、いえ。ありがとうございました」
ニッコリ。
音が出そうな程その笑みはわざとらしい。
対した真はと言えば、愛想笑いも出来ない程疲弊し、目線を逸らすしか出来ない。
「何か進展があったら、いつでも保健室へ。伏見さんなら毎日でも大歓迎だよ」
裏のある蠱惑的な微笑で、そう呼続は締め括った。
「ありがとうございます。失礼します!」
真はこれ以上何か言われる前にと即座に席を立ち、頭を下げる事も忘れてそそくさと保健室を後にした。
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