第51話 呪い?
「それで、鍵が開いてしまったんです。電話は……えっと、『やくそくした』? みたいな事を言ってたかな。うん。多分そう、言われました。……今日見たのはそこまで」
「……うん」
真がそう締め括ると、呼続は何かを考え込むように頷いた。「ううん」と唸って眉間に皺を寄せて続ける。
「怖いね。……そんな特徴的な夢を毎日見ていたら、何か原因があると考えるのもわかるよ。気になるのは、何故お祖父様のお宅なのか。……どうして、『縁側が安全』で、『土間は危険』なんだろう」
「確かに……。でも、確実にそう思いました。夢の中で、縁側に戻る事ができるか考えたりもしたし」
呼続がそう言って、何か考えるように目線を下げる。
膝で組んでいた指は唇に移動していた。考え込む時の癖なのだろうか。
前回のように蜂のように旋回されたら見ている方が疲れるので、それだけで真は少し安堵した。
「土間が危険なのは“女”が玄関から来るからかなと思うけれど……。まだ顔を見たり、接触はしていないんだね?」
「してないです」
「誰か似た容姿の人で、仮にこれが呪いに属するものだとして、思い当たる人はいる?」
「…………」
そう言われて、真は押し黙った。
脳裏にアイドルかと見紛う可憐な幼馴染の姿が浮かんだ。次いで、夢の中の女の姿も。
けれど、聞かれたのは「その人物が自分を呪っている可能性はあるか」だ。似ているのもぼんやりとわかる背丈と髪型、色くらいなものだ。
二人はイコールで結びつかない。
ゆうりが真を呪っている。
――それだけはないだろう、と一人で結論付けて、首を横に振った。
「お祖父様のご自宅と、縁側が安全な事に解決の糸口がある気がする。これが呪いなら、呪っている人を見つけるのが一番良いのだけど」
「どうしてですか?」
「呪いの類というものはね、必ずルールがある。丑の刻参りとか、聞いた事ある?」
(藁人形に釘を刺すやつ……だよね?)
真が頷くと、呼続は出来の良い生徒を褒めるような顔で「有名な話だよね」と続けた。
「あれは必ず丑の刻……深夜一時から三時の間に行い、かつ誰にもその姿を見られてはいけないという厳密なルールがある。もし誰かに見られたら、呪いは自分に返ってくるんだ」
「じゃあ……」
「そう」
真がハッとして顔を上げると、呼続は目を合わせて頷いた。
「これがもし呪いなら、ルールがある筈だ。呪いは基本的に、対処されれば自身に返る。呪い返しと呼ばれる事が多い」
「じゃあ、その呪い返しとかいうのをやればいいんですね!」
解決に繋がりそうな呼続の発言に、真は弾んだ声を上げた。けれど、正面に座る呼続の表情は明るいとは言い難い。
「返そうにも、どんな呪いなのかわからないと、対処も難しい」
「そんな……」
困った顔をした呼続に、真の体から風船のように気力が抜け落ちる。なまじ期待してしまっただけに、変わらない現状がもどかしかった。
真は情けなく眉を下げて「でも」と小さく言って、肩を下げた。
「……自分が誰かに、呪われる程恨まれてるなんて、信じられません。そこまで悪い事をした事もないし……相手も、思いつかない」
「そうだろうね。僕も、伏見さんとは昨日会ったばかりの浅い付き合いだけど、故意に他者を傷付ける人間だとは思っていないよ」
あまりにも優しい声音に、真は少し驚いて目を見張る。
呼続は真にとっても昨日出会ったばかりの他人だ。ゆうりにも今日やっと話せたばかりの話を、彼に出来るのは何故だろう。
夢の話をしても、呼続は前回のように恍惚とした表情も浮かべていない上に、親身に相談に乗ってくれている。
余りにも出会いが強烈で印象に残ったからかも知れない。かけてくれる優しい言葉も、意外に思えた。
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