第47話 彼氏なら


 突然出てきた手によって画面を塞がれる形になり、真は思わずムッとした顔で相手を睨み付けた。


「スマホ弄っていけねーんだー」


 東浦が掌を開いて、ニヤニヤと意地の悪い笑みでこちらを見てそう言った。まるで小学生のような言い方だ。

 真はスマホを体の陰に隠すようにして、東浦に見られないように簡単に「了解」と打ち込んで美琴に返した。


(折角面白く返したかったのに……)


 不満をこめて東浦を睨むが、彼は随分機嫌が良さそうで全く気にした様子も無い。


(あ、さっきゆうりと二人で話せたから浮かれてんのかも……)


 不意に浮かんだ考えに、一人納得する。ゆうりと二人きりで会話ができて、ご機嫌にならない男などいるはずもない。


 浮かれるのはわかるが、迷惑だ。


 真はつんと澄ました顔でそっぽを向き、一先ず言い訳をする。


「緊急かもしれないから確認しただけ」

「こらー真ーって怒りのメッセージか?」

「違いまーす。可愛いマコちゃん、帰りにコンビニで肉まん買って来てねっていう連絡ですー」


 揶揄い混じりに言われ、真は顔を引きつらせて否定したが、東浦は不思議そうに首を傾げた。


「こんな時期に肉まんって売ってるのか?」

「……え、わからん……どうしよ」


 思わずきょとんとして、真は記憶を辿ってみる。


 確かに、五月になり肉まんを買い求める客は減っただろう。肉まんといえば冬のイメージが強い。今日は曇っているとはいえ、肉まんをはふはふして食べたいという気分ではない。それなのに母は肉まんが食べたいらしい。


(……レジの横のケースって今、空になってる?)


 真がううんと唸っているのを黙って見ていた東浦だったが、ふと思い付いた様子で疑問を口にした。


「ていうか伏見、母ちゃんにマコちゃんって呼ばれてんの?」

「んや、マコって呼ばれてるよ」

「ふぅん。……俺もマコって呼ぼうかな?」


 目を逸らし、ぼそりと言って頭を掻いた東浦に、真は露骨に表情を変えた。


「は? やめてよ。彼氏でもあるまいし」


 冷たくそう言い放ち、東浦を睨み付ける。


 中学に上がると、真の事を下の名前で呼ぶ者は激減した。


 小学校が同じだった生徒の約半数が同じ中学校に進学したが、何故か皆一斉に苗字で呼ぶようになったのだ。思春期がそうさせるのかもしれないが、真もそれに倣った。


 ゆうりだけが、変わらず真を名前で呼んだ。


 親族とゆうりのみが呼ぶ名は、とっくに真の中で親しさの象徴になっていた。

 ただのクラスメイトに馴れ馴れしく名前で呼ばれるほど、東浦と真は親しくない。少なくとも、真はそう思っている。


 真に睨まれた東浦は一瞬驚いた顔をしたが、ふと考える素振りの後

「彼氏ならいいんだ?」

と真剣な表情で真を見た。


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