第44話 栄先生(2)

「え、それ聞かせてくださいよ! それ絶対弱点に関係あるじゃん!」

「いや、……これは言えない! 俺はみんなに慕われるカッコいい栄先生でいたいんだ!!」

「そんなもんは幻想です! 早く話してください!」

「ちょ、腕を掴むな! 誰かに見られたらセクハラで俺が訴えられる! あ! 伏見、もう授業始まるから席つけ! 急に呼び出して悪かったな!」


 ほとんど叫ぶように言い合っていると、授業開始を告げる鐘が鳴った。


 栄はまるで助かったと言いたげにぐいぐいと真の背中を押し、準備室から無理矢理出そうとする。


「栄先生! 担当生徒でしょ! 教師なら生徒を助けてください!」

「いいから席につこう! な!」

「先生! 裏切り者!」

「人聞きの悪い事を言うな! 誰かに聞かれたらどうする!」

「助けてくれるって言ったのに!」

「言って!ない!!」


 栄がいよいよドアを開ける頃になると、真はようやく諦めて口を閉ざした。栄にかけていた体重を自分で支え、すんと真顔を作る。


(ちぇ……けち。弱点くらい教えてくれてもいいのに)


 真はそう思って、内心でフンと拗ねて鼻を鳴らした。


 呼続程は噂にならなくても、栄も十分『若くて人気のある男性教師』だ。周囲に変な誤解をされるのは避けたい。


 準備室での件は秘めて、真は今日何度目かわからない大きな溜め息を吐いた。


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