第33話 遭遇(3)


「子供に手を出すなんて、教師どころか人として罰せられる行為だよ。……困ったな。その噂はどこまで広がってるんだろう?」

「ゆうり、……えっと、噂とかに疎い友達や、私が聞くくらいだから、全校生徒知ってるんじゃないですか」

「……そう……」


 呟くように返事をすると、暫く唇に指を置いて考え込むようにした。そのまま、呼続は思索に耽るように沈黙する。

 揶揄ってやるだけのつもりだった真は、気まずく視線を逸らした。


(まあ……普通に考えたらヤバい話だもんね)


 ただの噂でも、信憑性が出てしまえば懲戒免職も有り得る。今は生徒だけの噂でも、他の教師の耳に入ればどうなるだろうか。


 沈黙する呼続を前にそんな事を考えていると、背後から真を呼ぶ声がした。


 呼続と二人同時にそちらを見ると、階段を降りてきたゆうりが小首を傾げて交互に見やる。初めて見る光景を前に、不思議そうに目を瞬かせた。


「真、お待たせ。……呼続先生? こんにちは。何かありました?」

「いや、少し体調を聞いていただけ。……もう遅くなるね。二人とも気を付けて帰るんだよ」

「はい。ありがとうございます。さようなら」

「さようなら。……また明日」


 ひらひら、と呼続が右手を振った。ゆうりと真も、軽くお辞儀をして靴箱に向かう。

 靴を履き替えて後ろを向くと、教員室に向かう呼続の後ろ姿が見えた。


「真、呼続先生と何かあったの?」

「んー……」


 少し考えたが、何かあった、と言うような事は何もない。


 真はそう結論付けて、ゆうりに「何も」と答えた。


「ノートあった?」

「あったよ! 危なかった、今日の復習出来なくなるところだった」

「よかったよかった。復習してえらいな〜」

「真もちゃんとやってるでしょ。……あ、そういえば、明日は委員会の当番があって遅くなるから先に帰って大丈夫だよ」

「わかった。図書委員だっけ」

「うん。当番も回ってくるし、活動も多いし、意外と大変」


 ゆうりが苦笑して答える。真はふんふんと頷きながら、明日は一人で帰るのか、と考えた。


 一人で帰るのは随分久しぶりだ。小学校を卒業しても、中学校を卒業しても、真はゆうりと二人で次の学校に通った。


 先にバスを降りるゆうりに手を振り、暫くすると真も自分の降りるバス停に着いた。

 バスのステップを下りて顔を上げると、夕日で辺りは真っ赤になっていた。

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