第30話 優等生
「あー……んー?……なんだっけ……」
「伏見、あんた予習してないの?」
真を名指しした教師が、呆れた声で言い放つ。声が高く、またボリュームが大きいせいで、すぐ横にいた真は耳を押さえそうになった。
英語の教師は大柄の女性教師で、体だけでなく言葉と態度も大きい。その事で生徒の大半から嫌われている。
教師もそれをわかっているのか、反抗する生徒を更にしごく、という悪循環な関係だ。
五限目の授業は英語だったが、真は昨夜英語の予習をすっかり忘れた。そのせいで、黒板の前で唸ったまま、並べられたアルファベットを睨み付け、回答する事が出来ずにいた。
「もういい! 席に戻りなさい。次から予習復習忘れずにやってくるように。全く、小学生でもこれくらい答えられるよ」
「……はーい。すんませんっしたぁ」
真は嫌みを言われて苛立ったが、せめてもの反抗から、顔を顰めて太々しく返答をした。
(一言余計なんだよなぁ……)
心中で呟きながら、真は溜め息を吐きそうになるのを咳で誤魔化した。慌てて自分の席へと戻る。
「代わりに有松。前出て」
「はい」
指名されたゆうりがすっと音も立てずに席を立って、黒板の前に向かった。背筋が伸びていて美しく、指名されたからという理由だけでなく目を惹いた。
「……終わりました」
「うん。perfect! 有松はいつ呼んでも完璧な回答だね。みんな、有松を見習うように! 特に伏見! あんた有松の友達なんでしょ」
「はーい……」
(友達と頭の出来は関係ねーだろ……)
教師の大きな声に、周囲が、「はーい」と間延びした返事をしたり、フンと鼻で笑ったりと、様々なリアクションを見せた。
真はなるべく嫌な顔をして返事をした。
英語は嫌いではないが、デリカシーがないので、真はこの教師が嫌いだ。
「ごめん、真……」
「だいじょぶ」
「いっつも岡セン伏見と有松比べるよな……メノカタキ? にされてるっつかさ……ま、あんま気にすんなよ」
「あんがとよ」
比較され、嫌な褒められ方をして、暗い顔をしているゆうりが可哀想だった。
正解しているのも、褒められるのも、ゆうりの努力の結果だ。真を貶める為に褒められているようで、真は益々苛立った。
横に座っている東浦も、嫌そうに歯を剥き出しにして教師に威嚇している。
(私だって別に、英語は得意な方だし)
真は元々、英語は書取りよりも会話の方が得意だ。
特にリスニング。
母に言わせると「全部ニュアンスで喋ってる感じ」との事だが、会話は何となく成立しているので良いのだ。
嫌な気分になったが、何とか今日も無事に一日が終わりそうな事に安堵する。
窓の外から、どこかのクラスが体育をやっている掛け声が聞こえてきた。
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